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第9章 赤き血のイチゾク
千代浜市内で戦勝パレードが開かれていた。街は賑やかな歓声と、紙吹雪に包まれていた。
近代ビルが建ち並ぶ街一番の通りを、凱旋兵は誇らしい表情で行進していた。白い木箱や遺影を胸にした兵士もいた。負傷兵は船に乗って運河を進んだ。
市民は凱旋兵に小旗を振るい、歓声を送った。家族や知人が通ると、彼らはからかって恥ずかしがらせたり、褒めて泣かせたりした。提督やピアース、テリーといった要人が通ると、市民はどよめき、大声を上げた。坊やが来ると、男は吠え、女は失神し、老人は手を合わせ、子供は目を輝かせた。
通りの一角にある綿業会館の一室で、秋水とゆるパパは戦後処理に付いて話し合っていた。秋水が提出した「和平処理案意見書」を、ゆるパパはろくに読まず突き返した。
「軍師殿、外を見てください。一生分の怪我を負った兵士が何人います?その彼らに、和平条件が国王の死の再調査だなんて言えますか?」
「僕は家族の誇りのために戦ってきました。結果的に西海岸三国を統一する事になりましたが、決してそれが目的だったのではない」
「兵士はちっぽけな田村家の誇りのために戦ったのでは決してありませんぞ。市民が重税と家族を差し出したのは、昇龍の尾に縋って我が家の繁栄を図ろうとしての事。申し訳ないですが、軍師殿は戦以外の事を知らなすぎる。まず賠償金ですよ。それと土地。機械もだ。徹底的に絞り上げて、彼らの苦労に報いねばなりません」
「ここに来た時、僕らは国中から追われていました。真犯人は玉座に座って全国の警察を操っていたんです。それがようやく、真犯人の罪を明らかに出来る所まで来た。あなたが何と言おうと、これは正義を貫くための戦いです。僕らの戦いです。僕らの思いを汚さないでください」
「惨めな犯罪者を匿って、兵と金を貸したのはこの街です。利子を付けて金を返す、これ以上の正義がありますか?返せないというなら、また犯罪者に戻って追われたらいい」
秋水は何も言い返せなかった。ゆるパパは穏やかな口調で、休暇を取るよう勧めた。
「少し休んだらどうです。白浜なんていかが?海が綺麗で温泉もある」
「もう用済みという事ですか?」
「これは政事総裁ではなく、娘二人育てたおっさんからの助言です。才能は、世の中のために役立ててこそ意味がある。あなたには立派な人殺しの才能があります。それを自分のためでなく、世のため人のために使うべきだ。腐らせるのは勿体ないよ」
「……やだ。人殺すの、もうやだ!」
秋水は部屋から飛び出していった。ゆるパパは大きくため息を付いた。
「あの位の年は色々あるからなあ。上の娘はプリンセスアビスに覚醒したし……」




