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王国軍司令部は閑散としていた。主だった将軍は前線へ出向いており、作戦スタッフも王子の船に乗船していた。残っていたのは大竹ぐらいだった。
大竹は一人で男性向けファッション誌を読んでいた。そこに、赤ら顔の伝令兵が駆け込んできて、急報を告げた。
「豊津港奇襲艦隊は千代浜軍の待ち伏せに遭い壊滅しました!撃沈三、擱座一!王子殿下の朝陽も炎上、沈没しました!」
「殿下は?」
「殿下は……お討ち死に……」
伝令兵は下を向いたまま、辛そうに話した。大竹は彼の肩を軽く叩いて、部屋を出て行こうとした。伝令兵は振り返った。大竹は笑みを浮かべていた。
大竹は神妙な顔で司令部を出た。彼は入り口前の青ヒゲの警備兵に命じた。
「中にスパイがいる。始末しなさい」
警備兵は武器を携えて中に入っていった。誰もいなくなった司令部前で、大竹は夜空の月に向かい、開放感一杯で背伸びした。
「待った。待った待った待った待った。待ったぞぉぉぉ~」
(続く)




