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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第8章 羽虫の河
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8-1

第8章 羽虫の河


 連日三十度を越える暑さだった。道端の干からびたカエルに、アリが群がっていた。

 敵味方合わせて約二十万の軍勢が、(入り組んだ運河を巧妙に利用した)塹壕線を挟んで睨み合っていた。

 王国軍十万は敵防衛線の北、東、南東に展開した。兵力は東に厚く配置されており、最精鋭の青と黒は、「蟠龍起萬天」の旗が立つ東の後方本陣に留め置かれた。本拠地の王都とは鉄道で繋がっていて、補給は盤石だった。

 対する千代浜軍八万は、街を守る全周防衛線に立て篭もった。兵力は前線に広く薄く配置されており、本隊は予備兵力(不測の事態に備えて指揮官の手元に置く部隊)として市内に留め置かれた。市内から前線まで鉄道、水路が繋がっており、前線のどこが破られても、増援を送り込んですぐに修復する事が出来た。

 街の西に支流が流れていた。ここに千代浜海軍の河用艦隊が展開して、北の敵側面を脅かしていた。

 街の南には大河が流れていた。ここに大きな商業港があった。千代浜海岸の補給艦隊がこの港に接岸して、物資を陸揚げしていた。この補給艦隊は千代浜の生命線だった。しかし輸送艦隊に護衛部隊は付いておらず、大河を心細く渡るしかなかった。

 王国軍と千代浜軍の大砲撃戦が始まった。

 戦場は業火に呑み込まれた。空は煙の雲に覆われて、爆風で巻き上げられた銃や背嚢や血肉が、乾いた戦場に雨のように降り注いだ。炎と猛暑で耐え難い熱さになった。陸の死体は早くも溶け出し、小バエの群れが渦巻いた。水の死体は煮えて湯気が立った。

 敵の砲撃が止んだ。突撃のラッパが鳴り響いた。赤い軍服の王国軍十万は、荷物を背負った重たい恰好で、しっかりと列を組み、塹壕陣地に向かって行進を開始した。

 空から千代浜軍の砲弾が立て続けに落ちてきた。砲弾は前後左右で爆発し、血と土を大量に飛ばした。前からガトリング砲の猛射が飛んできた。射線上の部隊は数秒で溶けた。王国軍は勇敢に前進し続けた。

 王国軍は運河に到着した。幅は数十メートル。流れは遅く、深さは腰まで浸かった。

 対岸の塹壕兵が盛んに銃撃を浴びせてきた。王国軍は隊列を組んだまま水に浸かり、動きが鈍った所をガトリング砲に薙ぎ倒された。王国軍は後から後からやってきて、同じように打ち倒された。赤服の死体が水路に溜った。

 王国軍は騎兵隊を投入した。騎兵隊は砲弾の降る戦場を高速で駆け抜けて、運河に到着した。塹壕兵はガトリング砲を乱射した。人間より大きな騎兵は、歩兵より当てやすかった。騎兵隊は塹壕兵の銃撃にバタバタと叩き落とされた。

 騎兵隊は後退せずに、このままま死体の橋を渡り始めた。

 上流の水門が解放された。鉄砲水が猛烈に押し寄せてきて、騎兵隊を瞬時に飲み込み、下流へ押し流していった。

 敵は何度も波状攻撃を繰り返しては、その都度無残に撃退された。死体の山が築かれ、川は青く染まった。

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