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早朝、王子と鬼庭、そして軍スタッフは、「蟠龍起萬天」の旗が翻る本陣に待機していた。炎の熱で、地面から砂風呂のように湯気が出ていた。時計は朝の五時前を指しているが、黒煙に覆われた空はまだ夜に見えた。敵陣は朝日のように燃えていた。
伝令兵が駆け込んできて、王子の前に跪き、報告した。
「北畠王が大竹伯爵の陣に降伏してきました!殿下に休戦交渉を求めております!」
「戦闘停止。命令あるまで全軍待機だ」
王子はそう指示して、一人本陣を出た。
パンツ公方は汚れた格好で、地面に一人座り込んでいた。大竹は彼の正面に立っていた。青服隊が遠巻きに二人を取り囲んでいた。
青服隊の輪が綺麗に割れて、奥から王子がやってきた。大竹は脇に反れて頭を下げた。王子はパンツ公方の前に立って、彼を見下ろした。
パンツ公方は堂々と申し出た。
「今回は負けだ。身代金を払う。我が将兵十五万を助けてもらいたい」
「お前は国を豊かにするために攻め込んできた。軍は国の宝だから、無駄にする訳には行かないな?非常にお前らしい判断」
「帝国主義の時代だ。奪えるものは何でも奪うし、もらえる物は病気以外もらう。でもそれは、他の王だってそうだろう。結城も、名和も、菊池も、皇帝も」
「お前の心の根底には、人間は金で買えるという邪悪な確信がある。戦死者一万を出して、他国からダイヤ鉱山を奪った。一万の死とダイヤが釣り合うか?」
「百なら充分お釣りが来る」
「ならば戦死者百人の家を一軒一軒尋ねて、泣き叫ぶ両親を説得しろ。お前の息子はダイヤのために死んだのだと」
砲撃が止んだ。湖に静寂が戻ってきた。黒雲の切れ間から美しい朝日が差し込んできて、二人の王を照らした。パンツ公方は下から睨み付けて言った。
「戦いはまだまだ続く。外人が来る前に、俺は出来る限り国を強くする。お前だって奴隷にはなりたくないだろ?なら、奪うか、奪われるか。それだけだ」
「いいや、戦いは俺が終わらせる。俺がこの乱世に武を布く。大陸を統一して、世界中の外人を奴隷にしてやる」
「バカ息子が……!」
「今を見ず、理を求めず、ひたすらに財のみを追った男。お前に王を名乗る資格はない」
王子は立ち去ろうとした。「藤次郎!」とパンツ公方は叫んだが、彼は無視した。「兵はどうします?」と大竹が尋ねると、王子は不機嫌な顔で立ち止まった。
「その程度の処分まだ出来ないか?十五万に食わせる飯も、収容する場所もないだろ」
王子は立ち去った。大竹は部隊に指示した。
「降伏は受け付けない!敵の死体で定禅寺湖を埋め立てろ!」




