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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第7章 鉄と炎の湖
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7-5

 作戦中、王子は大人しく司令部に篭もって、モード系ファッション誌「サルピルマンダ」を読んでいた。つまらなそうにファッション誌を眺める彼とは対照的に、スタッフは書類を抱えて慌ただしく部屋を出入りしていた。

 配置図上の赤ピン、白ピンの位置が、目まぐるしく変わっていった。

 敵西部軍は一向に進まなかった。秋水とテリーは十万の猛攻を受け流しつつ、徐々に後退していった。

 敵中央軍は圧倒的な強さで南下し続けていた。王国中央軍とは二度戦い、二度勝利して、彼らを王都北方まで追い詰めた。パンツ公方の勢いは鋭く、補給途絶の影響などないかのようだった。

 途絶の影響は、敵東部軍に色濃く現れた。彼らは三日止まって補給を待ち、一日動いてまた止まった。服は破け、靴はなくなり、足袋や草履を履く事になった。裸足の兵士も多く、通った跡には血の道が出来た。

 敵は予想通り、中央が突出するカブトムシの形になった。ここで、王国軍が遂に反撃に転じた。

 王国東部軍二万は、わずかな抑えだけを残して中央に移動した。彼らは鉄道を使って、中央軍の右側面を包囲する形で密かに高速展開した。

 王国東部軍に属する大竹の青服隊は、敵中央軍の最右翼と戦闘状態に入った。

 大竹は速攻撃破を要求されていたが、準備は怠らなかった。彼は湖と湖の間を通る隘路を選んで布陣し、三重の塹壕を掘って待ち構えた。敵は隘路の堅陣に対して、深夜から十二時間連続で大砲を浴びせ続けた。

 青服隊は塹壕の底で砲撃を凌ぎ続けた。ベテラン揃いの青服隊は、頭上で砲弾が絶え間なく炸裂していても、土砂が崩れて隣の壕が生き埋めになっても、近くの壕に砲弾が飛び込んで血肉が噴き上がっても、平気で食事や仮眠を取り、タバコを吸った。

 砲撃開始から半日後、敵先鋒隊は二列横隊を組み、焦土と化した隘路の陣地へ前進した。

 何もなくなった地面から、無傷の青服隊が次々と現れて、敵に新型銃を浴びせた。敵は真正面から強力な弾幕に飛び込んで、その餌食となった。

 敵先鋒隊は後退し、代わって後続部隊が前進した。新手はまた二列横隊で運動会攻撃を仕掛けてきたが、青服隊は新小銃で簡単に退けた。一部は船で回り込もうとしてきたが、上陸する前に大砲連打で沈められた。

 敵は退却した。青服隊は逃げる彼らを追って北上した。

 王国西部軍二万は、要塞を出て中央に移動した。彼らも鉄道を使って、敵中央軍の左側面を包囲する形で高速展開した。

 西部軍に属する黒武者の黒づくめの部隊は、中央軍の最左翼に正面突撃を仕掛けた。

 最初に黒武者が単騎で突っ込み、黒づくめの部隊がその後に続いた。敵は大砲を打ってきた。黒武者は全身にドリル状の炎をまとって地面に飛び込んだ。

 しばらくすると、敵陣のど真ん中から、巨大な炎のドリルが飛び出してきた。ドリルはそのまま炎の竜巻となって、敵陣を腹の中から焼き抜いた。

 黒武者を追って、黒づくめの部隊が射撃しながら突っ込んできた。敵はたまらず逃げ出した。黒づくめの部隊は逃げる彼らを追って北上した。

 その間、王子は司令部でずっとファッション誌を読んでいた。

 モード系に飽きて、ストリート系やJSファッション誌にまで手を付けた頃、鬼庭率いる王都の精鋭三万は敗残の中央軍と共に北上して、敵を東西南から圧迫する形を形成した。

 爪にピンクと黒のレオパード柄のマニキュアを塗り始めた頃、青服隊、黒づくめの部隊は最両翼の敵部隊を撃破して、敵中央軍の背後に回り込んだ。

 敵は兵站だけでなく、情報も遮断されていた。伝書鳩は途中で鷹に襲われ、伝令兵は明智光秀のように農民ゲリラに襲われた。有線電信は盗聴された。

 湖沼地帯に進出した敵中央軍が、四方から包囲される形になった頃、王子は立ち上がって、誰もいない司令部を出て行った。

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