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夜、敵中央軍は占領した街の郊外に野営した。赤レンガ造りの、大きくて新しい街の郊外に、十五万人分の野営テントが張られた。その近辺に、キャンプフォロワー(軍隊向けの民間業者。軍の移動に従って動く)が雑貨店やキャバクラ、クリーニング店等、様々な店を開いた。昨日まで何もなかった原っぱに、十五万都市が現れた。孫子の一説から採ったパンツ公方の旗印、「上兵伐謀 其次伐交 其次伐兵 其下攻城」が夜風に翻っていた。
食べ物は沢山あった(豊かな農業地帯なので、幾らでも現地確保出来た)。メニューは牛鳥豚の三種から選べて、コーヒーは飲み放題だった。夜空の下、兵士は腹一杯食べて、大声で歌った。
しかし薬品、弾薬は早くも欠乏し始めていた(食べ物と違い、玉や薬は本国から送ってもらう必要があった)。野戦病院のベッドで、ミイラのような負傷兵が歌うように呻いていた。弾薬庫の三分の二は空で、七割が小銃用の尖った玉、三割が火縄銃用の丸い玉と弓矢だった。石もあった。
補給部隊は駅のホームで列車を待っていた。コンテナを載せた輸送列車がやってくると、彼らは大切そうに物資を下ろした。
街一番のホテル(レンガと大谷石を組み合わせた、旧帝国ホテル似のホテル)で、パンツ公方とスタッフは夕食を取った。外の兵士は地べたに座り、割り箸とヤカラの歌で塩コショウを振った肉を食べていたが、国王は大谷石の美しい部屋で、銀のフォークと軍楽隊の演奏でフルコース料理を味わった。
パンツ公方は笑って言った。
「魔王が栄岡に現れたそうだ。奇策は弱者が用いるもの。我々はただ前に進むだけでいい。小細工を弄せず圧倒的戦力差で叩き潰せば、我々は戦後この国を安価に統治出来るだろう。幾ら綿が売れても、それ以上に治安コストがかかれば意味がないのでな。
分かるな?心を攻めるのだ」
スタッフは頭を下げた。ホテルの給仕は震えた手でワインを注いだ。
「農業は年一回しか収入を得られないが、商工業は毎日稼げる。綿と絹で、東海岸にも負けない重工業国家を作ってみせよう。この豊かな国は、俺の元でこそ光り輝く」




