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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第7章 鉄と炎の湖
56/136

7-3

 敵東部軍は、かつての田村公爵領に攻め入った。鉄道は所々で爆破されており、脱線器が仕掛けられたレールもあった。鉄道隊がレールの復旧作業に取り掛かったが、使えるようになるまで時間がかかりそうだった。

 旧公爵領は大陸でも有数の穀倉地帯だった。広大な田畑の中を、東部軍十万はひたすら歩いた。通信手段は伝令騎兵と有線電信、伝書鳩だった。

 敵東部軍の先鋒隊二千は、街道を南下して、栄岡の北方五キロの地点に到達した。街道の左右には、黄金色に実った水田が広がっていた。

 栄岡の北門前に、「蟠龍起萬天」を掲げた黒づくめの部隊百が布陣していた。先鋒部隊の隊長は、双眼鏡で旗を確認した。確かに、王子の旗印である。隊長は戸惑った。


「バカ息子なら有り得るか?いやさすがに……ともかく一旦忘れろ。戦闘準備!」


「戦闘準備!」「戦闘準備!」部隊は口々に叫んだ。


 敵先鋒隊千は二列横隊を組んで、胸を張り、足を揃えて、規則正しく街道を進んだ。騎兵や砲兵の支援はなかった。槍で脅さなくとも逃げない部隊だった。

 黒づくめの部隊は身を屈めて、素早くバラバラに前進した。陣形は組まなかった。彼らは道にしゃがみ込み、あるいは道沿いの小屋や地蔵に身を隠した。

 距離五百から、黒づくめの部隊は新型小銃攻撃を開始した。

 先鋒隊は次々と打ち倒された。固まってのろのろ進む彼らは、新型銃のいい的だった。敵の負傷者は戸板で後送された。

 先鋒隊は打たれ通しになりながら進んだ。黒づくめの部隊はそれに合わせて後退、距離五百を維持しつつ、小銃攻撃を繰り返した。

 先鋒隊の陣形が崩れた。隊列、足並みがバラバラになって、表情に恐怖が浮かんできた。

 黒づくめの部隊は銃剣突撃を敢行した。先鋒隊は総崩れになって壊走した。黒づくめの部隊は長射程の銃で背後から散々に追い打った。数多の敵が討ち取られた。金色の稲穂に青い血が飛び散り、水田に血が流れ込んで水の色が変わった。

 北門前に王子、大竹、黒武者の三人が待機していた。王子が「まだまだだ」と酷評すると、大竹が反論した。


「足で逃げる敵を足で追っても、そりゃ追い付きません。鉄道を使わないと」

「北畠が戦うのは隣国を奪うためだ。森を伐採して蚕室を建てるのと同じ思考で、国境を切り開いて死体の山を築こうとしている。奴は戦争を儲かるものと考えているだろう」

「そこに付け入る隙が……」

「違う。俺はただ、無性に腹が立つ。この時代にまだこんな奴がいるのか?引き篭もっている鬼の方がましだな」

「鬼は死にません。死なないという事は、つまり生きていないという事。人は生きているから、七つの海を越えて月を目指す。鬼は目の前の川も渡ろうとしない。国境を越えた北畠王の方が、よっぽど生き物として正常だと思いますがねえ」

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