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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第6章 革命のヒーロー
47/136

6-5

 フリゲート艦は、西条で言えば加茂川の河口沖合で停止した。フリゲート艦から海岸まで、鬼の背骨の浮き橋が架かった。奇襲部隊はこの骨橋を通って、敵地に無血上陸した。

 部隊の指揮はテリーが取っていた。彼女はキリっとした表情で、黒の軍服を凛々しく着こなし、白馬に跨っていた。気高く美しい女騎士の姿を眺めて、坊やは言った。


 A「任せる」

 B「ネビル(提督)は大丈夫かな」

 C「体白く塗って四つんばいになれば、馬と間違って乗ってくれるんじゃないの?」

 ↓

 A「はい。序盤も序盤ですから、十分に余力を残して終わらせます」


 B「それはもう。囮を忘れて攻めないか、それだけが心配です」


 C テリーは引いている。ピアース「ヘレンケラーだって間違わないよ!」


 テリーはサーベルを抜いて指示した。


「これより浜通りを東進して、八幡台場を目指します!進軍開始!」


 部隊は港の砲台へ向かった。新人ばかりの部隊なので、顔は青く、動きは鈍かった。脇道から子猫が飛び出してきただけで、部隊は一斉に銃を向けた。ピアースは怒鳴った。


「俺がいいと言うまで打つな!打たれても打つな!打てば打つだけ敵が増えるぞ!打たない時、お前らは最良の武器を手にしていると思え!」


 砲台に向かう途中、犬を連れた老人に出くわした。老人は腰を抜かし、犬は吠えかかった。泣き出す子供や、逃げ出す警察にも会った。しかし兵士は見なかった。ピアースは坊やを戒めた。


「これは戦線が長いから成り立つ作戦で、いつでもどこでもこれをやれると思うのは大間違いだぞ」

「奇策を連発すると自滅するという事です。それとピアース、はしゃぎ過ぎ」

「現場はいい。嘘がない。上がアホだからさ、俺にスパイや警察の真似事ばっかりさせんだよなあ」

「アホなあなたにはピッタリでしょ。ところで、敬語使うの止めていい?」


 坊やは頷いた。


「あなたには最初に恥ずかしい所見られちゃったから、今更他人ぶってもしょうがない。周りに人がいる時はちゃんとするから」

「俺なんてなあ、初対面から関東突っ込み強要されて、ボケ拾わされまくってんだぞ。ミステリアスなスパイキャラの俺が」

「フフ。付き合い長いけど、あなたにミステリアス感じた事、ただの一度もない」

「最近よく笑うようになったな。いい事じゃん。お前もボケろ。俺が全部拾ってやる」

「要りません。そういう?ボケのシステムがまず分からないし」


 部隊は港の砲台に接近した。ここでようやく、濃紺の軍服を着た敵部隊と遭遇した。数は二十人程度。入り口にコンクリートの胸壁を築き、銃を構えて待ち伏せていた。

 坊やは部隊の先鋒に出た。彼はかゆうまモードに変身して、更に赤い鬼の目を体中に貼り付けた。敵は泡を吹いて卒倒した。百目鬼坊やはコンクリ壁をワンパンで吹き飛ばし、部隊はそこから砲台に雪崩れ込んだ。

 砲台には旧式の青銅砲がずらりと並んでいた。かゆうま坊やは青銅砲一門を軽々と持ち上げると、陸上の槍投げのようにして南の市街地に投げ込んだ。

 砲台の南、西条で言えば西条高校の辺りに敵司令部があった。民家の頭上を越えて、大砲ミサイルが飛んできた。大砲ミサイルは司令部にピンポイントで突き刺さった。

 坊やはあるだけの大砲を次々と投げ込んで、司令部を破壊した。

 フリゲート艦は沖合に待機していた。その船の甲板から、秋水は煙を上げる市街地を眺めていた。鼻の大きな兵士が、じっと彼を見ていた。

 黒い血のアゲハ蝶が飛んできて、船べりに止まった。蝶は先生の声で秋水に話しかけた。


「皆浮かれているようだけど、この結果は選ばされたんじゃないの?

 千代浜が降伏しても独立しても、王国にとって悪い話じゃない。独立した千代浜は、結城との防波堤になる。両者が削り合っている間に、北を滅ぼして、それから疲弊した両者を討てばいい」

「速やかに結城を打倒すれば、その計画は成り立ちません。逆に魔王を滅ぼす決定打にも成り得ます」


 秋水は時計を確認した。


「予想以上です。前線は皆さんに任せて、僕は千代浜で指示出しに専念します」


 先生は疑問を拭い切れなかった。仮に結城を速攻撃破すれば、市民は益々浮かれ上がる。膨らみ切った期待は、一体どうなってしまうのだろう。人間の世界は「上げて落とす」と言うけれど……

 敵司令部を電光石火で破壊した後、フリゲート艦は部隊を収容して退却した。

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