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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第6章 革命のヒーロー
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6-2

 同じ頃、綿業会館の貴賓室で、スーツ姿のゆるパパは訪問客を応対していた。

 誰かがドアをノックした。


「アーバイン政事総裁。よろしいですか?」


 外からテリーの声がした。「すいません」と断わった後、ゆるパパは廊下に出た。

 新しい黒い軍服を着たテリーが、分厚い書類を持って立っていた。


「岩島沖で第一艦隊がキンタ・デル・ブイトレ(ハゲワシ部隊)を撃破しました。沈没一、大破二、拿捕一。こちらは小破一。残存部隊は勝山に後退しました。敵陸軍は未だ健在。勝山に兵五万を有しています」

「志願兵を投入すれば、互角の戦いになりますね」

「最大で二十万です。軍師殿は現有の正規軍一万を北に送り、志願兵千で勝山を落とすと」


 千代浜軍の司令部は、北海道本庁舎似の赤レンガの洋館だった。その一階ロビーに、入隊を求める市民が詰めかけて、司令部は大騒ぎになっていた。

 若い男性が多かった。高校生も大学生も、サラリーマンも農家もいた。中には先祖伝来の鎧を着込んだ老人や、坊やの黒スーツのコスプレをしたメタボ中年もいた。受付の前に「志願兵の入隊手続きは各基地で行っております」との注意書きが張り出されていたが、熱狂した市民の目には何も見えなかった。

 彼らの騒ぎ立てる声は、二階にも届いていた。二階の一室で、秋水と作戦スタッフは地味な事務仕事をこなしていた。スタッフは顔を見合わせて苦笑いしたが、秋水は一人厳しい表情で作業を続けていた。

 綿業会館のテリーは、「作戦計画になります」と父親に書類を手渡した。ゆるパパは厚いペーパーをパラパラと捲って尋ねた。


「例の先生は今どこにいらっしゃいます?」


 千代浜北部の、小さな農村の小学校で、先生は子供相手に算数を教えていた。

 人間よりも牛が多い村に、お洒落いやらしい黒ギャル教師がやってきた。彼女はうなじを晒したフルアップのいやらしい髪型に、知的でいやらしい眼鏡をかけて、体のラインが浮き出たいやらしいオーダーシャツを着て、いやらしい生足を強調するいやらしいミニのタイトスカートを履いていた。坊主頭の男の子はドキドキして勉強にならず、隣の席の三つ編みの女の子は彼の様子に腹を立てていた。

 綿業会館のテリーは、「しばらく田舎に置いて様子を見ています」と答えた。


「さすがマイドーター。桃太郎と鬼の癒着がバレれば、ガラガラポンで全て引っくり返る。情報工作なんて簡単ですからね。その国の極右、極左が引用したくなる情報を流せばいい。後は現地の暇人が勝手に拡散してくれる。千代浜は西海岸で一番暇人が多い街です」

「既に無責任な報道合戦が始まっています。少し見たけど、やっぱり嘘が多い。でも、中には一部しか知らないような秘密まで記事になっています。あれは何でしょう?アシュリーにもピアースにも、絶対喋るなって言ってあるんですが」

「こういう時はね、マスコミに喋ってチヤホヤされたがる役人がよく出るんですよ。全部黙らせるのは不可能だなあ」


 千代浜市内は熱気に包まれていた。

 街では坊やを特集した雑誌が飛ぶように売れていた。見出しには「二つの奇跡 千代浜新時代へ」「僕は無実だ! 悲運の公子逃亡の道のり」「月夜に現れた三刀流の青鬼」等々の文言が踊っていて、黒スーツで水上を走る坊や、矢倉の上に立つ先生の写真が掲載されていた。

 売店には鬼の面が並んでいて、子供達はそれを付けて公園を駆け回っていた。

 あの痴女スーツは本当に流行ファッションとなってしまい、黒スーツと痴女スーツで街を歩く変態カップルの姿が多く見られた。

 先生がスーツを買った店には記者が殺到した。ジャーマンメタルのボーカルみたいな格好の店主は、まんざらでもない様子でインタビューに答えた。

 綿業会館のテリーは、「総裁が喋ってるんじゃないでしょうね」と怪しんだ。


「する訳ないでしょ。ありがとう、アーバイン将軍」


 なおも怪しむ娘を置いて、ゆるパパは部屋に戻った。待たせていた客に「どうされましたか?」と尋ねられると、彼は「何、小童共が賊を破っただけですよ」と平然と答えた。しかし客が帰って一人きりになると、パパは嬉しさの余り、剛力彩芽のプロペラダンスや、三代目JSBのランニングマンダンスをキレキレの動きで踊った。「ヒャッハー!」

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