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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第6章 革命のヒーロー
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6-1

第6章 革命のヒーロー


 騒がしい夏の午後、崩壊した要塞島の沖合で、千代浜艦隊と結城艦隊の決戦が始まろうとしていた。

 巴の旗を掲げた結城艦隊十一隻。この内七隻が装甲艦である。縦一列に並んで、南西から北東へ抜けようとしていた。彼らは砲撃戦を行うため(船の横に沢山配置された大砲を活用するため)、敵に横腹を見せる形を取っていた。装甲艦が一列に連なった艦隊は、黒い万里の長城に見えた。

 月に星の旗を掲げた千代浜艦隊十五隻。この内一隻が装甲艦である。三角形にまとまって、北西から南東へ抜けようとしていた。彼らは衝角戦(体当たり攻撃)を行うため、固まって敵に突っ込む形を取っていた。黒煙を吐いて猛進する楔の艦隊は、黒いバリスタ(大型石弓)に見えた。

 結城艦隊は遠距離砲撃を開始した。砲弾は千代浜艦隊の頭上や脇をかすめ飛び、または手前に着水した。命中率は低いが、手数は多かった。大小の砲弾が次々と降り注ぎ、様々な水柱がそそり立った。兵士は黒い水を頭から被り続けた。

 千代浜艦隊の先頭は、坊やと提督が乗る装甲艦が務めていた。その後ろには、ピアースが乗るフリゲート艦が控えていた。蓮沼で降伏した元王国兵も多く乗り込んでいた。

 敵の攻撃は、坊や達が乗る先頭の装甲艦に集中した。装甲艦は水柱を掻き分けるようにして突き進んだ。一度砲弾が命中して、船体が揺れ動いたが、装甲表面が焦げて凹んだぐらいで、ダメージは薄かった。敵の装甲艦もこれと同じ防御力を有していた。

 また、装甲艦に砲弾が命中した。海水が飛び散り、足元がぐら付いた。水兵は墨汁を被ったような姿になった。提督が叫んだ。


「後五分!振り落とされんなよ、マストにキンタマ縛り付けとけ!」


 敵砲弾が、後続のフリゲート艦の正面に命中した。坊やは鞘の切っ先をフリゲート艦に向けた。水面下に空いた穴が、鬼の口に化けて、海水を飲み込み浸水を防いだ。

 千代浜艦隊は砲撃を物ともせずに接近した。結城艦隊は焦って陣形を乱し、足の速い前衛四艦と、遅い後衛八艦に分裂した。

 千代浜艦隊は敵陣を分断する形で中央突破を仕掛けた。

 横腹を見せた敵は、頭から突っ込んでくる味方に対して砲門数で有利に立っていた。しかし敵味方が交差するこの時だけ、味方は横腹を見せ、敵は頭/尻を晒す形となった。

 千代浜艦隊は左右に大砲を乱打した。手近の敵装甲艦二隻(先頭から数えて四番、五番の船)は近距離から猛打を浴びて炎上した。敵艦二隻はこれだけでは沈まなかったが、猛火に飲まれて攻撃も移動も不可能になった。千代浜艦隊は燃え盛る二隻の間を通って、敵陣の裏に抜け出した。

 中央を抜かれた結城艦隊は、陣形を維持して北東へ向かう前衛と、個別に南へ逃げる後衛に分かれた。

 千代浜艦隊の楔の陣形は二つに割れた。坊や隊は時計回りのカーブを描いて敵後衛に、ピアース隊は逆時計回りのカーブを描いて敵前衛に襲いかかった。

 坊やと提督の装甲艦は北上して、南へ逃げる敵装甲艦(数えて六番目)に正面突撃を仕掛けた。敵は衝突を恐れて南西に針路を切った。装甲艦は速度を上げて前進し、敵の左側面に体当たり攻撃を加えた。船首に搭載された鉄の角が、敵船の腹に刺さって大穴を開けた。装甲艦がバックで離れると、敵船は急速に浸水して横転、沈没した。

 ピアースのフリゲート艦は、北東へ逃げる敵装甲艦(数えて三番目)を背後から追撃した。快速のフリゲート艦は速度を上げて猛追し、敵の右後方から体当たり攻撃を加えた。しかし勢いが強すぎて、フリゲート艦は敵の甲板に乗り上げてしまった。

 フリゲート艦の穴を塞いでいた鬼の口が消えて、船内から武装水兵が現れた。ピアースはサーベルを抜いて部隊に指示した。


「アボルダージュ!」


 ピアース隊は切り込み攻撃を敢行した。

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