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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第1章 革命の魔王
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1-4

 部隊は小休止を取りつつ、一晩中川岸を南下した。辺りが白くなり始めた頃、南の方角から黒煙が上っているのが見えた。

 王子の軍が南の敵本拠地に向かっているはずだった。敵の待ち伏せを受けたのか、それとも、疲れ果てた王子の軍だけで攻めかかったのか。

 空を見上げて、秋水は考えを巡らせた。

 空を見た瞬間、坊やは馬を走らせた。

 王子を助けに行くにしろ、逃げる敵を捕まえるにしろ、時間はない。時間はないが、秋水は部下に対して丁寧に指示、説明した。


「予定より早く千波で戦闘が起こりました。殿下が攻めたか、攻められたかは分かりません。どちらにも対応出来るよう、部隊を半分に分けます。

 坂井、多田隊は僕と千波に。殿下の救援に向かいます。

 野崎隊は坊ちゃまを追ってください。逃げ場を失った正貫は鬼怒川を目指すでしょう。

 この作戦は速さが重要です。荷物は捨てて構いません」

 部隊は森を抜けて南西へ向かう秋水隊と、このまま川沿いを南下する坊や隊に分かれた。

 秋水隊は木立の間を駆け抜けた。南から銃声が聞こえてきた。部隊は荷物を次々と投げ捨てた。森を出る頃には、サーベルと軍服だけの身軽な姿となっていた。

 夜はすっかり明けていた。敵本拠地のある南の空は、黒い煙で汚れていた。銃声はもう聞こえなかった。

 秋水隊は森を出て、草原の街道を南下した。走り続けた馬はもう限界で、汗をかいて目を血走らせていた。道の先から、血生臭い匂いが漂ってきた。

 敵本拠地前の平原に、敵の死体が大量に遺棄されていた。流れ出る血はまだ鮮やかで、傷口からは湯気が立っていた。死体は一ヶ所にまとまっていた。逃げた敵を討ち取ったのであれば、(背中を向けた)死体の道が敵本拠地まで続いていただろう。これは包囲して、一人残らず殺した跡だ。

 王国軍最精鋭の「リーパーズ」が、まだ息のある敵兵に止めを刺して回っていた。リーパーズは、首刈り鎌と死神のワッペンを肩に付けた、青い軍装のエリート部隊である。全軍の憧れだった彼らは、ひどく貧しい身なりをしていた。顔はヒゲ面で痩せこけ、上着は汚れて血まみれで、ズボンは破れて裸足だった。

 補給部隊を引き連れた田村軍であれば、貧しいながらも食べ物はあったし、服もすぐ着替える事が出来た。王子軍は足の遅い補給部隊を切り離す事で、秀吉レベルの大進撃を成し遂げていた。

 秋水隊は青服隊の脇を通って敵本拠地を目指した。痩せ衰えた、死神のような青服隊が、瀕死の敵兵を機械的に処分していた。色白の塩顔イケメン将軍鬼庭作楽が、この掃討作戦を指揮していた。ヒゲを剃った源頼朝似の、上品な武人だった。

 男庭は秋水に会釈した。秋水も頭を下げて、彼らの脇を通り過ぎた。この先には、城壁に囲まれた敵の本拠地、千波があった。中世の貴重な写本を収めた図書館や、大陸唯一の仏舎利塔(釈迦の遺骨を祀った塔)を持つ、長い歴史に育まれた街だった。

 その千波は業火に包まれていた。城壁の門は全て閉じられていて、中から二十万人の門を叩く音や泣き叫ぶ声が聞こえた。この部隊数では、反乱軍の本拠地を抑えられない。彼らはシンプルな理由で街を燃やした。

「蟠龍起萬天」の旗を掲げた王子軍本隊が、燃える街の門前に待機していた。死神の王、武振藤次郎は、虚ろな表情で街を眺めていた。

 兵馬俑のような青年である。顔立ちは武人らしいが、表情は陶器の人形そのものだった。大勝利で敵本拠地を攻め落としても、市民二十万を焼き殺しても、そのビー玉のような瞳には何の感情も宿っていなかった。

 秋水は現場を去ろうとした。王子は振り返らずに言った。


「ここに来たのは敵味方含めてお前だけだ。後で爵位と勲章をやる」

「陪臣の身には余る光栄ですが、どうかお許しください。非才故、二君に忠を尽くす術を知りません。摂政殿下(王子)の御前に仕えるなど、とても叶いません」


 死神兵は青ざめた。王子の申し出を断るなんて、と。しかし当の王子は「そうか」と言っただけで、簡単に引き下がった。

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