表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第4章 ウォルステッターモデルの戦い
29/136

4-4

 茜色の夕日が川を染めていた。湾内は静かで、波の音だけが聞こえていた。当番水兵は船上で釣りをしたり、将棋を打ったり。平和そのものの湾内に、戦闘態勢の旧式艦が突入してきた。

 老人達は鬨の声を上げた。それだけで、敵の大半は川に飛び込んだ。しかし一部の敵は踏み止まって、戦闘準備を始めた。

 敵は湾の入り口に装甲艦、中ほどにフリゲートや輸送艦、埠頭にコルベットや小型輸送艦という並びだった。まず、入口の装甲艦が標的となった。

 旧式艦は装甲艦の左後方から接近した。装甲艦はロケット弾を打ってきた。最初の一発は旧式艦の右脇をかすめ、次の二発は手前の川面に突き刺さり、最後の三発は(三つある内一番前の)帆を打ち抜いた。旧式艦の帆は瞬く間に炎上して、その火はマストにも燃え移った。

 坊やは全身を鬼の筋肉で覆った。彼の体中から、皮膚を突き破って、鬼の筋繊維がカイワレ大根状に生えてきた。彼の体は大量の筋繊維に覆われていった。やがて坊やは全身筋肉の、皮を引ん剥いたゴリラのような姿になった(皮膚はなく、ムキムキの筋肉が剥き出しになっていた)。

 かゆうま坊やは燃えるマストの根元に抱き付いて、力一杯へし折った。

 敵はまたロケット弾を打ってきた。坊やは折れたマストをフルスイングで振り抜いた。炎の巨大バットはロケット弾を打ち返した。ロケット弾はピッチャー返しの軌道で装甲艦に命中したが、鉄の装甲はびくともしなかった。

 敵はロケット弾を連射してきた。坊やはよく引き付けてから、放り投げフルスイングで全弾打ち返した。ロケット弾と放り投げられたバットが、フライ軌道で装甲艦近くに落下して、大きな水柱を立ち上げた。敵はびしょ濡れになって、ロケットが打てなくなった。

 旧式艦は装甲艦の左舷に横付けした。「ヒャッハー!」身軽な老人はロープを使ってスパイダーマンのように、「ヒャッハー!」本隊は戸板を渡してジャックスパロウのように、「ヒャッハーーーーー!」右手にサーベル、左手に火炎瓶を手にした世紀末老人達は、敵船に乗り移って抜刀切り込みを仕掛けた。

 敵はサーベルを抜刀して円型陣を組んだ。老人達は火炎瓶を投げ込んで敵集団を分断し、一人になった所を複数で取り囲んで突きに行った。新撰組ばりの多対一戦法である。


「ショボい喧嘩してんじゃねえぞジジイ!」

「武士らしく堂々と戦え!千代浜に男はいないのか!?」


 敵は抗議したが、メーターの振り切れた老人達は狂ったように叫ぶばかりだった。


「ヒャッハーーーー!」

「囲んで殺せええええ!」


 秋水はセーラー服に二丁拳銃を手にして、乗っ取り部隊を指揮していた。今の所、戦況は有利に進んでいた。

 秋水は戦場全体を眺めた。湾の中央に錨泊していたフリゲート艦は、空砲を発射して他艦に奇襲を知らせた。湾中央~湾奥に錨泊した輸送艦と、湾最奥の埠頭に接岸したコルベット艦は錨を上げた。秋水は旧式艦に残った坊やと提督に叫んだ。


「この船は僕が仕留めます!坊ちゃまは次の船に向かってください!」


 旧式艦は再び動き始めた。中央にいた敵フリゲート艦は反転して、旧式艦に向き合った。正面からノーガードで打ち合う構えである。

 旧式艦はフリゲート艦の左前方から接近した。フリゲート艦は新型の大口径施条砲、いわゆる「アームストロング砲」を打ってきた。

 砲弾は旧式艦の(二番目、三番目の)マスト二本に命中した。マストは炎上して折れ曲がり、甲板に向かって落ちてきた。坊やはかゆうま両腕をゴムのように伸ばして、落ちてくるマスト二本を受け止めた。揺れ動く甲板に、マストの火の粉が降り注いだ。

 フリゲート艦はまた大砲を打ってきた。砲弾は前部甲板に命中し、船の前半分が爆発炎上した。提督は舵輪(船を動かすハンドル)を握った。


「ああ、いい雨だ!坊や、船動かせ!ケツにエグい一発ぶちこんでやる!」


 坊やは伸びた両腕を蒸気船の外輪(船の両側に付いた水車。蒸気の力で回して進む)のように振り回した。旧式帆船は折れたマストを外輪として、高速で突き進んだ。

 フリゲート艦が大砲を連射してきた。旧式艦は右に左に素早く砲弾をかわした。砲弾は川に落ちて、複数の水柱を立ち上げた。


「どうした遅ぇぞ!ハエ取り紙でも吊るしとくか!?お前ならピタっとくっつくぜ!」


 提督は舵輪を目一杯回した。

 フリゲート艦は大砲を全力発射した。旧式艦は高速左大カーブで全弾かわしきり、そのまま背後に回り込んで、左後方からフリゲート艦に体当たりした。

 敵は衝撃で尻餅を付いた。辺りは木屑や黒煙で濛々となった。ボロボロの旧式艦から、皮を引ん剥いたゴリラが一匹、続いて肩パット老人軍団が飛び降りてきた。


「ヒャッハーーーーーー!」


 敵水兵は恐れて川に飛び込んだ。将官は「逃げるな!」と押し止めたが、水兵の逃亡は止まらなかった。最後には将官も飛び込んだ。少数の勇気ある敵だけが残り、決死の覚悟でモヒカンジジイ共に立ち向かった。

 湾奥のコルベット艦が大砲を打ってきた。砲弾はフリゲート艦の手前に着水した。コルベット艦は敵味方問わず打ってきた。砲弾は二隻の周辺に降り注いで、多くの水柱を立ち上げた。残った敵が叫んだ。


「俺達はここにいます!打たないで!」

「味方も打つのかよ!?止めてくれ!まだ戦ってるんだ!」


 提督は味方殺しの軍艦を眺めながら、坊やに指示した。

「ひでえ奴だな。顔もひでえんだろうな、好きな子の家に放火する顔だよ。おう、行けるな?」


 坊やは頷いた。

 坊やの両足が電気自動車ぐらい膨れ上がった。彼は大きくジャンプした。坊やは一番近くの輸送艦に飛び移り、そしてまた大ジャンプした。坊やはまた一番近くの輸送艦に飛び移り、そしてまた……夕暮れの空の下、坊やは義経の八艘飛びで湾奥に飛んでいった。

 坊やは最後の輸送艦に飛び移り、そして一際高くジャンプした。真下の埠頭に、味方殺しのコルベット艦が浮かんでいた。

 坊やは右腕を振り上げた。その手が路線バスぐらい膨れ上がった。坊やはバス腕でコルベット艦を瓦割りのように叩き割った。と同時に(複数同時召喚が出来ないので)かゆうまモードを解除して、コルベット艦の破断面に大きな鬼の口を作った。敵はⅤ字に割れた甲板を滑り落ちていき、鬼の口に残らず食われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ