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第4章 ウォルステッターモデルの戦い
その日の夕方、雨は暴風雨に変わった。街から人が消えた。
海沿いの離宮も激しい雨に打たれていた。
誰もいないはずの記念艦に真っ白な帆が張られ、千代浜の旗が掲げられていた。船上に、カッパ姿の老人達が整列していた。
老人の一人が、出港を告げるラッパを吹いた。老人達は持ち場に散った。
先生の剣が嵐の中を自在に飛び回り、記念艦と埠頭を繋ぐ鉄の鎖を断ち切った。鎖を切られた船は、荒れ狂う海へと漕ぎ出していった。
風は強く、しかも頻繁に向きを変えた。川は増水して荒れ狂っていた。老人達は自在に旧式帆船を操って、がら空きの大河を上っていった。
夜中トイレに起きた子供が、家の窓越しに、前を横切る船を見た。船上の提督は「黙っててくれな」という風に、人差し指を口に当てた。子供は寝ぼけ眼で頷いた。
市民が交番に駆け込んできた。しかし交番の電信設備は壊れていたので、警察本部に連絡を取れなかった。交番の机に、交番の巡査と彼の祖父、そして提督の写真が飾られていた。
街の水上入口の検問所に、老人警備員全員が立っていた。一同は最敬礼で船を見送った。船上の老人達も最敬礼で応えた。
船は千代浜を脱出して、敵艦隊の待つ蓮沼を目指した。




