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海沿いに、王族が夏の間過ごす白い離宮が建っていた。岸壁には三本マストの記念艦が係留されていた。離宮の庭で、「瑞亀十三年度 清松湾海戦 迅竜号戦友会」が開かれていた。
参加者は皆白い海軍服を着ていた。中には杖の老人も、車椅子の老人もいた。彼らはブランデーと昔話を楽しみ、敵味方の戦死者を悼んだ。
四人は船を降りて庭に向かった。大声で笑っていた参加者達も、提督を見ると背筋を正し、最敬礼で出迎えた。提督は大声で坊やを紹介した。
「こいつが例の坊やだ!あのおっかない魔王に追われて逃げてきた!」
秋水は周囲を見回した。声が大きすぎる。参加者はもっと大きな声で坊やを労った。
「あんたが坊やか!よう来んさったなあ、このド悪党!」
「喉乾いとるやろ犯罪者!茶ぁ飲み!酒はアカンど!」
「大丈夫や!誰が来たっておじいちゃんらがボコボコにしたるわ!」
昼になるとケータリング船がやってきて、豪勢なランチタイムが始まった。一頭分のローストビーフとか、目の前で職人が上げてくれる天ぷらとか、ピラミッド状に積み上げられた酒樽とかを、生命力が有り余った老人達はイナゴのように食い尽していった。
二人はその様子を遠くから眺めていた。先生はお洒落なカッパを買いに出かけてしまった。秋水は何か考え事をしているようだった。
「十三年前、皇帝は帝都ラージャグリハ郊外の葦河離宮で殺害されました。犯人は一時間の間に、十三人の妻と二十人の子供、百人の召使を殺害して、離宮に火を放ちました。あの日、帝国は滅んだんです。今は干からびた死体にお経を挙げて、生きています今日は紅茶も飲みましたと、偉い大人達が言い張っているだけ。
この街は逞しいですね。死体に縋らず、自分の足で歩こうとしています」




