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葬儀が終わると、王族や各国の参列者は本堂を出た。近衛兵は彼らのために道を作り、群衆は彼らが通ると平伏した。美しい愛王妃と可憐な五郎八姫は、揃いの黒のアフタヌーンドレスを着て、トーク帽にベールをかけていた。厳粛な喪服は、美貌の王妃に妖艶な色香を与え、そして天使の王女には痛々しい悲しみを与えていた。二人が通ると、近衛兵は魅惑的な愛の姿から目を背け、群衆は幼い五郎八が気丈に振る舞う姿にすすり泣いた。
お堂の陰に、ブレザーの制服を着た金髪美人女子高生が立っていた。
フランス人形のような清純な美少女だった。何の汚れも失敗も味わった事がない、端整な顔立ち。生活の苦労を知らない、ゆるふわのロングパーマ。何不自由なく周りに愛されて育った、グラビアアイドルのようにハレンチな肢体。ブレザーネクタイとスカートの制服に、ハイソックスを合わせている。緑の目に涙を滲ませ、鼻水を少し垂らし、頬を赤く染めていても、一般人とは違う上品な物腰を感じさせた。
五郎八は立ち止まって、弱々しい顔で母を見上げた。愛は頷いた。五郎八は数人の近衛兵と共に、お嬢様JKの方へ歩いていった。
五郎八とお嬢様JKは、誰もいないお堂で抱き合い、悲しみを分かち合った。お嬢様JKは五郎八の両手を握り締めて言った。
「困った事があったら何でも言ってね。私はずっとゴロちゃんの味方だよ」
「ありがとうアシュリー」と、五郎八は言葉少なに話し始めた。手は震えていた。
「……あの人がね、五郎八の事、次の王様にするって言うの。自分は皇帝になるから。王様なんて出来ないよ。城で私は一人ぼっちみたい。味方は誰も。ママだって……」
アシュリーは五郎八の手を強く握った。
「そんな事ない。おば様は誰よりもゴロちゃんの事大事に思ってるよ。ちゃんと話したら、きっと分かってくれる。それにね、これは詳しく言えないけど、今パパが千代浜にある人を呼ぼうとしているの。もしかしたらだけど、ゴロちゃんの助けになれるかもしれない」
五郎八は自分を納得させるように何度も頷いた。それから、「今日泊まる?」と縋るように尋ねてきた。「うん、今日はずっと一緒にいよう」とアシュリーが答えると、五郎八は花咲くような笑みをようやく見せてくれた。
「本当だったら、今頃は、千代浜の離宮でアシュリーやママやじいじと遊んでるはずだったのに。ねえ、戻っても五郎八に沢山お手紙書いてね?」
五郎八はアシュリーに抱き付いた。
「書く、書く。毎日書いて送るから。もう、ゴロちゃんコアラの子共みたいだよ?」
「王女になんて生まれたくなかった。大人になったらコアラになりたい」




