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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第2章 ラストピース
14/136

2-6

王都からの輸送列車が何便も駅に到着していた。下り側のホームは常に騒々しく、人や物資の出入りも多かった。一方、上り側のホームは静まり返っていた。この上りホームに、装甲列車が一本だけ止まっていた。ホームの屋根には、黒血カラスが一匹だけ止まっていた。

 汽笛が鳴って、装甲列車のドアが閉まった。列車が徐々に動き出した。カラスは屋根から飛び立って、列車上空でゴキブリ数十匹にばらけた。ゴキブリの群れは各車両に散っていった。

 秋水を乗せた装甲列車は、栄岡駅を出発して王都を目指した。

 坊やと先生は栄岡郊外の、見晴らしのいい桑畑に潜んで列車を待っていた。坊やはゴーグルとマスクで顔を覆っていた。

 空は雲一つない青空だった。遠くに見える山は白く雄大で、手前に見える桑畑は青く輝いていて、その中をもくもくと黒煙を上げながら狂暴な装甲列車が走ってきた。


「十両編成。目標は前から六両目。一気に六両目に飛び乗って制圧する。OK?」


 A「説明それだけ?」

 B「頼む、立烏帽子」

 C「勇気が欲しい。パンツを見せてくれ」


 先生は坊やの頭をヘッドロックして、そのまま大ジャンプした。

 栄岡方面から装甲列車がやってきた。車内に潜んでいたゴキブリの群れが一斉に破裂して、黒い催涙ガスを発生させた。吸い込んだ兵士は激しく涙を流し、あるいは咳き込んだ。列車は黒いガスに包まれた。

 先生&坊やは宙を飛んで、六号車の屋根に着地した。

 二号車の屋根に、ガトリング砲が搭載されていた。催涙ガスで半狂乱になった兵士が、ガトリング砲を三百六十度回しながら打ってきた。

 先生は剣を一本投げた。剣は黒い電撃となってガトリング砲を貫き、また剣に戻りながらブーメラン軌道で戻ってきた。

 先生は列車から飛び降りた。戻ってきた剣は、六号車入口前の空中でピタリと急停止した。先生は剣を三角飛びの足場に使い、入口を蹴破って六号車内に突入した。

 坊やは屋根の上でずっと棒立ちになっていた。車内から黒電撃が発射されて、坊やのすぐ横に穴が開いた。そこから、黒いガスが湧いてきた。坊やは車内に飛び降りた。

 車内にはガスが充満していた。敵は五人。全員涙を流して椅子に寄りかかったり、床に這いつくばったりしていた。鞘袋入りの太刀を帯びた秋水が、よろめきながら後方の七号車へ逃げようとしていた。

 先生は近くの座席裏に隠れていた。彼女の剣が飛んできて、坊やの周囲にファンネル状に浮遊した。


「君の剣は、鬼怒川の向こうにいるあらゆる鬼のあらゆる部位を召喚、使役出来る。操作精度が高まれば、強力な鬼を同時に使役出来るようになる」


 坊やは光る剣を抜こうとしたが、先生に怒られた。


「止めて、気分悪くなる。それは鬼を殺す剣。でも人間は切れない。鞘に入ったままでも大丈夫だから、一々抜かなくてもいいよ」


 坊やは鞘に入ったままの切っ先を兵士一人に向けた。列車の天井から鬼の腕が一本生えてきて、兵士を掴んで放り投げた。兵士は壁にぶつかって床に落ちた。天井の腕は消滅した。

 坊やは別の兵士に鞘の切っ先を向けた。床から足が生えてきて、兵士を三角締めで締め落とした。床の足は消滅した。

 兵士一人が拳銃を打ってきた。先生の剣ファンネルは、坊やの前に黒い電撃の(閻魔や鬼が描かれた垂迹)曼荼羅を形成した。兵士の打った玉は、電撃曼荼羅シールドに吸い込まれて消滅した。


「グッボーイ。手足の他に、骨や内臓も召還出来る。この状況なら、個別に対応するより目を出した方が早い。やってみて」


 坊やは切っ先を残りの兵士に向けた。空中に、血走った鬼の赤目が一つ現れた。邪悪な一つ目に睨まれると、兵士達は泡を吐いて気絶した。


「うん。一度ガードなしでやってみようか?良い試合をするのが良い選手。試合が始まる前に仕留めるのが良い戦士。戦いとは、如何にして自分の得意に引き込むか、だよ。複数召還が出来ない弱点は、一対一の状況を作り出す思考力でカバー出来」


 装甲列車は緊急ブレーキをかけた。車両全体が大きく揺れた。坊やも先生も座席にしがみ付いた。列車は徐々に速度を落とし、やがて完全に停止した。

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