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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第12章 虹を架ける
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12-7-C-3

 三人の通う高校は、麓の高級住宅街の中にあった。周辺には、プール付きの白亜の豪邸が建ち並んでいたが、校舎は鉄筋コンクリの堅実な造りだった。雰囲気は真面目で厳しく、生徒は模範囚のようだった。

 三人がやってくると、堅苦しい学校の雰囲気は一気に明るくなった。アシュリーは女子生徒から、先生は男子生徒から沢山の声をかけられた。


「おっすー、アシュリー」

「ごきげんよう、アーバインさん」

「アシュリーちゃんおはよー」

「すずちーっす」

「おはよ田村、今日も暑いよな~」

「すずー、俺におはようは?」


 先生とアシュリーは、この学校の2トップアイドルだった。二人は生徒に手を振り返し、また挨拶を返した。両サイドは人気者だが、真ん中は誰も相手にしなかった。人々の好意を、少年は戦場の鉛玉のようにやり過ごしていた。

 校舎の屋上から、「女子サッカー部 祝 全国選手権出場」「女子サッカー部 祝 共和国杯優勝」の垂れ幕が吊るされていた。

 玄関脇に飾られたトロフィーは、先生が所属する女子サッカー部のものばかりだった。

 昇降口の壁に張り出された校内テストの順位表は、アシュリーが総合一位だった。

 しかし大陸を救った元ヒーローは、極力目立たないように学園生活を送っていた。順位は真ん中から下ぐらい。部活は帰宅部だった。生徒は何故彼が三人組のセンターなのか、全く理解出来なかった。

 アシュリーは存在を消している彼の姿に苛立ち、本当はこんなにすごい人なんだよ、と世界中の家を回って教えてあげたい気分だった。一方、先生は彼が変わっていない事に、信頼と寂しさを覚えていた。

 学校の職員室で、朝のミーティングが開かれていた。校長の愛は、教育実習の学生三人を教師陣に紹介した。


「先日お話した通り、今日から教育実習の先生方が加わります。誰でも皆、最初は初めてです。先輩として、しっかり支えてください。実習生の皆さんも、分からない事があれば何でも先輩方に聞いてください。皆さん優しいですよ」


 アットホームな職場だった。しかしスーツ姿の学生達はかなり緊張していた。そんな中、テリーだけはベテランのようにどっしりしていた。


「様々な事を吸収して、この教育実習を実りの多い時間にしてくださいね。それでは、簡単に自己紹介してもらいます。田中先生からどうぞ」

「はい!ただ今、校長先生から紹介されました、仁徳女子大学教育学部の田中玲と申します!一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」

「南府教育大学のテリーアーバインです。短い間ですがよろしくお願いします」

「重陽大学の……」


 社会人の道を歩き始めた学生達に、愛は愛情一杯の眼差しを注いだ。

 三人は昇降口で靴を替えた後、教室に向かった。

 アシュリーは坊やに注意した。


「隠れよう、隠れようする方がよっぽど不自然だよ。休み時間はいつの間にか消えてるし、試験だって、体育だって……」

「しょうがないでしょ。バレたら」

「バレても私が守ります。そのために、ここに来たんです。あなたには毎日楽しく過ごして欲しい。もう、我慢しなくていいんだよ?」


 何も我慢していないし毎日楽しい、と伝えても、アシュリーは納得してくれなかった。色んな人からご褒美がもらえて最高だ、と伝えると、先生はケラケラ笑い、アシュリーは悔しがった。

 三人は二階に続く階段を上った。彼ら以外、人はいなかった。

 踊り場に差しかかると、アシュリーは「ねえ!」と坊やを呼び止めた。アシュリーは恥じらいながらスカートをたくし上げて、ドット柄のハレンチ可愛い下着を見せた。はだけたシャツから、ほっそりしたお腹と、可愛らしいおへそも見えた。


「ほら、ご褒美。ありがとうは?」


 アシュリーの頬や耳は、恥ずかしさで真っ赤になっていた。坊やは目を背けた。


「ありがとうって言って。あ、り、が、と、う!」


 アシュリーは赤い顔で下着を見せて迫った。坊やは首を九十度曲げて、先生の方を向いた。


「じゃあ、私からもご褒美。ありがとうって言って?」


 先生も照れ隠しに笑いながら、スカートをたくし上げて、シースルーⅤフロントのお洒落いやらしい下着を見せた。はだけたシャツから、健康的な小麦色のお腹が見えた。

 両サイドからのご褒美攻撃で、坊やの乙女メンタルはズタズタになった。彼は謝り、許しを乞うた。ごめんなさい、許してください、と。二人の美少女は、照れた顔で笑い合った。

 三人は二階の廊下を歩いた。そろそろHRの始まる時間である。廊下にいた生徒が教室に戻っていった。

 先生は坊やの左手を握って、坊やに告白した。


「今がつまらないなら、私が毎日楽しくしてあげる。だって君の幸せが、私の幸せだから。君が好き。大、大、大、大好き!」


 アシュリーは右手を握って、坊やに告白した。


「あなたには自由に生きて欲しい。あなたが望めば何だって叶うんだよ?自分を信じてあげて。自分を傷付けたり、蔑んだりしないで。私が大好きな人の事、嫌いにならないであげて。ずっと傍にいさせて」


 坊やは頷き、二人は微笑んだ。いつの間にか、廊下から人がいなくなっていた。二人の美少女は坊やの頬に顔を寄せた。

 先生は坊やの左頬にキスした。


「大好きだよ、ずっと、ずっと」


 アシュリーは坊やの右頬にキスした。


「世界中の誰よりも愛してます」


 後ろから、三人は名簿の角で頭を叩かれた。振り向くと、テリーが呆れた顔で立っていた。頭を抑える三人に、彼女は申し渡した。


「廊下で不純異性交遊は禁止です。さっさと教室入る!」


 テリーの後から、厳しそうな担任の女性教師がやってきた。「どうしたの?」と尋ねる彼女に、テリーは「いえ、何でもありません」と答えた。

 先生とアシュリーは教室の後ろのドアから、女性教師は前のドアから入った。

 坊やとテリーは、廊下に二人きりになった。テリーは坊やにウィンクした後、照れた顔で投げキッスを飛ばした。それから、彼女は表情を引き締めて、前のドアから戦場に入っていった。

 美人JDの登場で、教室は騒然となった。坊やは後ろから入って、窓際の席に付いた。彼の隣はアシュリー、前は先生だった。

 女性教師は生徒にテリーを紹介した。その間、生徒は様々な目で彼女を眺めた。女性教師はテリーに名簿を渡して、出席を取るよう指示した。テリーは視線に負けずに教壇に立ち、生徒の名前をゆっくり読み上げた。


「アシュリーアーバインさん。田村鈴さん。江田島陽さん。久保桜さん」……


 沢山の戦いがあり、多くの悲劇が生まれた。その悲しみを残さず分かち合い、赦し合って少年達は生きていく。人生という戦いは続く。

(終わり)

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