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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第2章 ラストピース
13/136

2-5

 坊やと立烏帽子先生は栄岡の近くまで戻ってきた。二人は林の中から様子を探った。坊やは僧侶(笠+袈裟姿)に変装していて、頭も坊主だった。

 城壁には王家の旗が翻っていた。城内からは火事の煙が昇っていた。街道は避難民で渋滞を起こしていた。王都からの輸送列車が線路を走っていた。

 先生は親指を軽く切って、手を払った。飛び散った黒い血は数匹のカラスとなって、栄岡へ飛んでいった。黒血カラスは街のあちこちを飛んで情報を集めた。

 輸送列車は食料を運んでいた。大きな焦げ跡が付いた駅前広場に、食料配給所が出来ていて、腹を空かせた市民が長い列を作っていた。

 広場の端で地元紙「栄岡タイムス」が売られていた。市民は食べるのに精一杯で、新聞には見向きもしなかった。紙面には「ざまあみろ佑民 凶賊の死に喜ぶ栄岡市民」「次男はどこだ!?売国奴田村の血は根絶やしにしろ」「白蓮寺炎上 田村一族の骨はゴミ箱に捨てられた」といった文言が踊っていた。

 市内は混乱していた。豪邸は燃やされ、商店は略奪を受けた。軍や警察は巡回パトロールを強化して、治安回復に努めた。刀狩が徹底している栄岡では、暴徒は木刀と包丁しか持っていなかった。警察がやってくると、暴徒は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 王子軍は市内のホテルや寺に分宿していた。宿舎の前には、反乱に備えてバリケードとガトリング砲が威圧的に設置されていた。木刀しかない反王子派に出来るのは、壁に落書きする事ぐらいだった。宿舎近くの壁に、「栄岡から出て行け」という落書きが書かれていて、王子軍の兵士がそれを必死に消していた。

 偽江戸城上空を行くカラスは、口から黒血のゴキブリ一匹を吐き出した。ゴキブリは宙を飛んで、本丸御殿へ向かった。

 かつて佑民達が司令部として使っていた部屋が、そのまま王子軍の本部になっていた。スタッフが指示書を作り、王子がサインして、電信担当がそれを各地に送っていた。

 ドアをノックして、鬼庭将軍と、軍服姿の秋水が入ってきた。捕虜の身でありながら、彼の目は未だに強い光を放っていた。

 王子は秋水に写真を見せた。王子軍が宿に使っている寺の写真で、壁に「バカ息子」と赤いペンキで落書きされていた。王子は表情一つ変えずに宣言した。


「実行犯はノコギリ引きで首を刎ねた後、駅前広場に晒す。これを見逃した市民も同罪だ。今夜九時、市門を封鎖して街に火をかける」


 本部スタッフの手が止まった。それから、王子は手紙を机に置いた。差出人は「栄岡公爵 田村佑民」だった。


「何故持っていると思う?一分以内に答えて俺の怒りを鎮めてみせろ」


 スタッフは息を飲んだ。秋水は堂々と答えた。


「公爵は盗聴を恐れて、重要な通信は文書で行っていました。追い詰められた公爵は必ず北の北畠を頼る。王子はその動きを先読みして、北への使者を捕えました。

 この部屋には大竹伯爵がいません。伯爵は使者として北に派遣されました。公爵が救援を求めた時、既に北畠は敵に回っていたんです。公爵は……公爵は、味方と思っていた救援部隊に殺害されました」

「叔父上はお前を使いこなせなかったようだな。冗談だよ冗談。火なんて点けるか」


 王子はニコリともしないで言った。スタッフは冷や汗を拭った。


「この年老いた帝国は、若く新しい国民国家に生まれ変わらなければならない。最初の五年で大陸を統一し、次の五年で兵を養い、最後の五年で世界に戦いを挑む。そのためにはお前が必要だ」

「殿下は誰よりもお強い。誰の力も必要としないお方です」

「言い方が悪かったな。お前の『存在』が必要だ。(鬼庭に)こいつを西陽に連行しろ」

「教えてください!坊ちゃまはどこにいるんです!?」

「鬼怒川の底だ」


 通気口の隙間から、黒血ゴキブリが二人のやりとりを見ていた。

 坊やと先生は、城外の林に隠れていた。彼女はゴキブリ情報を坊やに伝えた。


「城は敵に占拠されてる。今城にいるのは敵の王子と、君の妹?彼女、王子に気に入られて、お城に連れて行かれようとしている」


 A「妹を助けよう」

 B「王子を倒そう」

 C「兄は?」

 ↓

 A「OK。でも戦闘は極力避けて」


 B「落ち着いて。絶対に勝てると確信を持った時が、復讐を果たす時よ」


 C 先生はどう伝えたらいいか考えた。その辛そうな表情を見て、坊やは全てを察した。坊やは笠を取って頭を下げた。頭頂部は、(´・ω・`)の形に刈り込まれていた。先生は馬鹿馬鹿しくて笑った。坊やは頭を下げたまま、摺り足で近づいてきた。先生は明るく笑って、先ほどまでの辛い顔を吹き飛ばした。


 先生は坊やに提案した。


「仇は討てない、城も取り戻せない。今君に出来るのは嫌がらせだけ。護送列車を叩いて、最大限の嫌がらせを与えてやりましょう」


 坊やは頷いた。


「私はガードに専念する。攻撃は君の担当。一撃離脱を心がけて、作戦が終わったらすぐ現場を離れる。いい?絶対に深追いはしない事」

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