12-3
坊やとアシュリーは、一階ロビーの螺旋階段を昇って、二階中央ホールへ移動した。愛と鬼庭と青服隊は、ロビーを横断して一階右翼部へ向かった。
坊や達はドーム屋根の二階中央ホールを通って、鏡の壁の廊下を移動した。この先には玉座の間があった。
鏡の廊下の途中に、黒ローブの五郎八が冷たい顔で立っていた。アシュリーの姿を見て、女王の凍えた表情が揺らいだ。
A「愛を悲しませるな」
B「そこをどけ」
C「君を助けに来た」
↓
A 五郎八は俯いて、黙りこくった。
B「この先には行かせない!敵は!絶対に通さない!」
C「来るの遅いよ、お兄さん……」
アシュリーは袋の中身を床にばら撒いた。中には沢山の手紙が入っていた。送り主はアシュリーだけではなかった。千代浜市民や村の子供、軍人、役人、鬼、様々な名前が記されていた。
五郎八は自分の唇を噛んで、嗚咽を堪えた。アシュリーは手を差し伸べた。
「ごめんね、友達なのに気付いてあげられなくて。本当に辛い時、隣にいてあげられなくて。今日からは一緒だよ」
「……ママが、五郎八は要らない子だって。ママの本当の気持ち、分かってあげれなかった……」
「そんな事、本当に言うと思う?どんなに疲れていても、ゴロちゃんにご飯作ってくれた。周りの大反対を押し切って、家族で一緒に暮らせるようにした。わがまま言って困らせる事があったかも知れないけど、それで大好きなゴロちゃんの事を嫌いになるはずないよ!」
「分かんない。もう、何も分かんない。誰を信じたらいいの?ママに会いたいよ……」
五郎八は両手で顔を抑えた。
A「五郎八の国は五郎八が守れ」
B「大竹は愛を殺しに行った」
C「お兄さんを信じろ」
↓
A「五郎八の国……女王様……」
B 五郎八は泣きじゃくった。しかし確かに、後ろの玉座の間に人気は感じられなかった。母親が消えれば、女王は完全に篭絡されるだろう。自分達は、大竹の仕掛けた分断の罠に嵌った。
アシュリーは坊やを咎めた。
「そんな言い方!……あなたは確かに正しい。だけど冷たい人、怖い人」
C「五郎八より弱いくせに、悪い人のくせに……何回も戦ったから分かる。お兄さんがどんな人か。お兄さんだって、五郎八の事分かるでしょ?」
坊やは頷いた。五郎八は涙を拭って、二人を見つめた。その幼い赤い瞳には、王者の風格が漂っていた。
「ママを、この国を守りたい。五郎八を助けて、お願い……」
坊やとアシュリーは頷いた。
坊やは何かを察して振り返った。二人はまだ何も気付いていなかった。坊やは全身を黄金骨で覆うと、体当たりで壁を破壊した。
愛と鬼庭、青服隊は、五郎八の私室に通じる一本道の廊下を歩いていた。二階から大きな音がして、一行は立ち止まった。
一人の兵士は天井を見上げた。天井から、黒い液体が垂れ落ちてきて、兵士の口に入った。兵士は棒立ちで全身を痙攣させながら、白目を剥いた。
兵士は愛に襲いかかった。鬼庭は愛の前に仁王立ちになって、突っ込んでくる兵士を(急所を全力で蹴り上げる古流の)巴投げで放り投げた。兵士は背中から地面に落ちて、大の字になった。
天井が崩れて、黄金骨坊やが落ちてきた。彼は血吸の太刀で兵士を突き刺した。鬼庭はこの世の終わりのような顔になった。
坊やは長く伸びる巨大筋肉腕で、廊下の先にある私室をぶん殴った。私室のドアは打ち壊され、中の家具類はもれなく破壊された。鬼庭は腐乱死体のような顔になった。
本丸御殿の壁が崩れて、瓦礫と一緒に大きな腕が飛び出てきた。瓦礫の中には大竹が混じっていた。彼と瓦礫は芝生の庭の上に投げ出された。