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第12章 虹を架ける
この世の支配者となるはずの朝だった。
大竹は王宮本丸御殿の玉座に座って、その手すりを我が子のように撫でていた。彼の腰には、赤瓢箪が吊るされていた。
伝令兵が駆け込んできて、緊急事態を告げた。
「鬼の軍勢が西から攻め込んできました!どの部隊にも田村の旗!」
提督は大蛇の巡洋艦や亀の戦列艦を率いて、単縦陣で大河を東に進んでいた。装甲艦の甲板や、亀の甲羅や、大蛇の背に、田村家の赤ムカデの旗が翻っていた。
大河の川面に、王国軍の蒸気艦隊百隻がひしめいていた。蒸気艦隊は鬼の艦隊に対して、大砲攻撃を開始した。
砲弾の雨が降り注いできた。鬼の艦隊は左右に波打つ蛇の動きで全弾かわした。時折まぐれ玉が落ちてきたが、硬い甲羅は砲弾を弾き返した。
速くて硬い。おまけに思い通りに動く。提督はすっかりメロメロになった。鉄の雨が降ってこようが、真近に砲弾が落ちて水柱が立とうが、船上の人々が慌てふためこうが、彼はずっとニヤニヤ笑っていた。むしろメーターが上がってきて、提督は般若のような笑顔になってきた。
水中から、シーラカンスの潜水艦隊が次々飛び出してきた。シーラカンスは宙を飛んで、蒸気艦隊に体当たりした。シーラカンスロケット攻撃で、敵艦隊は動揺した。
砲撃が止まった隙に、鬼の艦隊は滑らかな動きで雁行陣に移行した。メーターの振り切れた提督が叫んだ。
「ヒャッハーーーー!汚物は消毒だああああああああああああ!」
亀と大蛇も宙を飛んで、蒸気艦隊に体当たりした。シーラカンスロケット、大蛇のムチ、亀砲弾を浴びて、蒸気艦隊は炎上、沈没していった。
テリーは鵺の騎兵と鬼の歩兵、輪入道の砲兵を率いて、王都の西側から攻め込んだ。彼らも赤ムカデの旗を掲げていていた。
王都西側の、湖と森に挟まれた大草原に、黒づくめの大軍が展開していた。
輪入道の砲兵は、口から火球を短時間に連射した後、素早く移動した。火球は敵陣に着弾して、火柱を上げた。敵砲兵は砲弾を打ち返してきたが、輪入道はもうそこにはいなかった。輪入道は打っては逃げ、逃げては打って、敵軍を翻弄した。
鵺の騎兵は二隊に分かれて、両翼包囲行動を取った。一隊は湖上を走って敵右翼へ、もう一隊は樹上を猿のように飛び回って敵左翼へ回り込む動きを見せた。
敵は両翼包囲が完成する前に、全軍で打って出てきた。
黒づくめの敵軍は、小銃を打ちながら正面突撃を敢行した。
テリーはサーベルを抜いて指示した。
「雑魚が攻めてくる!車懸かりの陣で殲滅しなさい!」
鬼の軍隊はテリーを中心に円筒陣を組んで、逆時計回りに回転した。突っ込んできた敵部隊は、回転する鬼の輪に切り刻まれていった。
天狗の羽が生えたフリゲート艦が、テリー達の頭上を飛び去っていった。
空飛ぶフリゲート艦は王都上空に突入した。地上の敵陣地から、対空砲弾が打ち上げられてきた。フリゲート艦は速度を上げて回避した。
王都中心部に近付くにつれて、敵の攻撃は激しくなった。幾つかの砲弾が船底にトヒットしそうになったが、天狗の風のバリアが軌道を反らした。
フリゲート艦はやや傾いて、地上の砲兵陣地に一斉砲撃を加えた。砲弾が滝のように流れ落ちて、敵陣地は大爆発を起こした。
王都の真ん中に、二条城に似た平城の王宮があった。フリゲート艦は急降下して王宮の地面に着陸した。フリゲート艦は盛大に土埃を巻き上げながら、地面を数十メートル滑ってようやく停止した。
ピアースはサーベルを抜いて叫んだ。
「アボルダージュ!」
坊や達と青服隊は船から飛び降りた。秋水は坊やに言った。
「敵は僕が分断します。女王陛下を闇からお救いください。僕の時のように」
坊やは頷いて、藤原千方の四鬼や、式神の鬼軍団を召喚した。
青服の近衛隊が攻めかかってきた。秋水は鬼の軍団を率いて、敵軍を足止めした。
坊や達は極力戦闘を避けて、赤坂迎賓館似の本丸御殿に向かった。途中出くわした敵には、唐傘お化けの一つ目を食らわせた。坊やは出会う敵、出会う敵に唐傘お化けを使った。最後はキレられた。