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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第11章 命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人
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11-10

 少年は完全に豆の木と化した。しかし鬼の本隊は警戒して、まだ岸に上がってこなかった。

 子供サイズの唐傘お化けが一人でやってきた。勇敢な子供妖怪は、坊やの顔を下から覗き込んだ。

 一瞬、坊やの口がピクリと動いた。唐傘お化けは驚いて数メートル飛び退いた。


「脅かすなよー!おい坊や、まだ行けるなよ?」


 唐傘お化けは坊やに話しかけた。


「お前、おいらの事何回も呼び出したろ?最近は使ってくんないけど。おいらずっと、人間の国に憧れてたんだ。すげーな!列車ってな!ああいうの沢山あるんだろ?もっと凄いもん、一杯見たいんだよ!だからこんな所で負けんじゃねーよ!」


 坊やは無反応だった。


「ああ、見えないのか。ほら、おいらの目使いなよ」


 坊やの片目に、唐傘お化けの目が宿った。唐傘お化けの方は一瞬目なしになったが、すぐに新しい目が復活した。

 坊やは片目で彼を見た。何か言っているが、耳がないので聞こえなかった。

 様子を伺っていた鬼の本隊は、勝利を確信して、再び進軍を開始した。唐傘お化けは叫んだ。


「止めろよー!お前らだって坊やに呼ばれた事ある奴いるだろ!楽しかったろ!人間の国面白そうだろ!言われたまんま、本当に滅ぼす気なのかよ!」


 土蜘蛛が岸に上がってきた。戦車ほど大きな土蜘蛛は、鎌のような前足二本を持ち上げて、二人に切りかかってきた。唐傘お化けは身をすくめた。

 全身ムキムキの牛頭鬼、馬頭鬼が金棒で二本の鎌を受け止めて、ダブルフルスイングで川向こうまで吹っ飛ばした。

 牛頭鬼が嘆き、馬頭鬼が突っ込んだ。


「こんなモヤシっ子に使役させられていたとは、情けない。ほれ、さっさとワシの体を使え。いつものようにフルボッコにしてみせようぞ」

「豆だけどな。よう坊や。こうして会うのは初めてだな。俺は馬頭鬼。顔の周りの筋肉、馬油のいい匂いしたろ?あれ俺な。こっちが牛頭鬼。牛糞臭いのは大体こいつだ」


 五メートル級の鬼の軍団百体が攻めかかってきた。牛頭鬼、馬頭鬼は金棒を構えた。

 小柄な物体が高速で跳ね回って、鬼の軍団を物の数秒で叩き伏せた。物体は坊やの前に着地して、丁寧に礼をした。


「初めまして坊やさん。僕、せんと君って言います」


 頭に鹿の角が生えた少年だった。


「さあ!僕の血を使ってください!」


 坊やの全身を黒い血が巡った。肌の色が元に戻り、関節の硬直が解けていった。

 空から、川から、鬼の本隊が攻め寄せてきた。牛頭鬼、馬頭鬼とせんと君さんは身構えた。唐傘お化けも戦うポーズを取った。

 水中から、水晶骨のがしゃどくろが現れて、両者の間に割って入った。


「あーまだるっこしい!おばちゃんイボイボ出るわ!皆迷ってるんやろ!?坊やちゃんに味方する子はこっち来ぃ!ぬらり(ひょん)のドハゲに味方するアホはそっち!どっちが正しいかドツキ合って決めたらええんや!」


 唐傘お化けはがしゃどくろに尋ねた。


「クソババァ。助けてくれんのか?」

「そら、坊やちゃんとは長い付き合いやからな。骨まで捧げた仲やで」


 いつの間にか、坊やの隣に、バスほど大きな黒い狼が立っていた。狼は言った。


「立烏帽子(先生)は大変だったろう?あれはキツイからな。師匠の私にさえ食ってかかる。何かあったらお前に力を貸せと頼まれていた。今こそ約束を果たそう」


 様々な鬼が坊やの元に馳せ参じた。


「鞍馬天狗だ!お前に力を貸そう!」

「鹿島様(なまはげの王様)だああ!千代浜城では無茶苦茶な使い方しおったなあ!」

「相馬滝夜叉!あたいの血も使え!さっさと治しまいな!」

「サル、トラ、ヘビ。オマエ、トモダチ、タスケル」

「藤原千方である!坊や殿に助太刀いたさん!」


 鬼は自分の体を坊やに捧げた。彼の体から実や枝が抜け落ちて、元の姿に戻っていった。


「次は骨だ!」

「私の分を使ってくれ!」

「俺のはヒンヤリして気持ちいいぞ!」

「俺のはちょっとチクチクするかもしんねーな!まあ気合で乗り切れ!」


 坊やの体が骨に覆われていった。


「筋肉を!」

「大陸一の体、お前に預けよう!」

「僕のも使ってください!一緒に戦いたいんです!」

「さあ使え!我輩が勝利に導いてやる!」


 骨の体は筋肉に覆われていった。


「ラスト!」

「拙者の血、全て持ってゆけ!」

「チマチマ抜いてんじゃねえ!ガーッと行くんだよ!」

「私の血をあげる!人間の国を守って!」


 筋肉の体は血に覆われていった。血は固まって赤い鬼の皮となり、剥き出しの筋肉を包み込んでいった。

 鬼の助けで、坊やは完璧な(皮の虫食いや、いびつな膨らみのない、ギリシャ彫刻のように均整の取れた人間型の)赤鬼に化けた。彼は血吸の太刀を再び手に取って、その切っ先を敵本隊に向けた。

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