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翌日、佑民軍は鉄道を使って北部の山岳地帯に退却した。寂しい終着駅で下りて、そこから険しい山を登っていく間に、兵士は一人逃げ、二人逃げ、五百人いた部隊は砦に着く頃には二百人に減っていた。
山頂に四稜郭似の近代城砦が建っていた。北の敵に備えた砦なので、南からの攻撃に脆かった。抜け道さえあった。到着した部隊は、まず大砲を南に配備し、バリケードや塹壕を作った。南の抜け道はそのままにされた。
佑民は砦の屋上から工事を見下ろした。彼の背後から、木こりに扮した密使がやってきて、手紙を手渡した。佑民は一読して密使に言った。
「……了解した。北畠王の救援、大変感謝する。俺とゲッツェ将軍なら二年は戦えるだろう。同盟はまだ秘密にしたい。城へは抜け道から入ってくれ」
佑民はその場で返事を書いて、密使に手渡した。密使は一礼してその場を立ち去った。
深夜、大きな爆発が起こった。佑民は飛び起きて窓を開けた。
南の抜け道から、二両引の北畠家の旗を掲げた部隊が、アリの如く這い出てきた。完全武装の北畠軍は、無防備な佑民軍を一方的に殺して回った。
佑民は寝巻きのまま、拳銃と刀を持って部屋を飛び出した。
廊下に護衛の死体が散乱していた。返り血を浴びた大竹が、青い血の海に立っていた。
佑民は大竹に向けて一発打った。玉は心臓を貫いて、黒い血を飛び散らせた。傷はすぐに塞がり、血も止まった。
大竹は全身から黒い炎を吹き出して、黒い火竜に化けた。その高熱で死体が燃え、石の廊下が溶けた。佑民は愕然とした表情で呟いた。
「この国は、いつの間にか鬼と魔王に乗っ取られていたんだ……」
「先に乗っ取ったのはあなた方だ。田村俊宗は我々の全てを奪った」
「お前達は駆除対象の害獣だ!人間と同じと思うな!」
「ワシントンも言ってましたよ。インディアンは人じゃないとね。アメリカも、コロンブスとかいうゴキブリが一匹迷い込んだせいであのザマだ。我々はムー大陸のインディアンです。俊宗の子孫は一匹だって生かしておかない」
佑民は拳銃を乱射した。玉は蒸発して湯気に変わった。佑民は刀を抜いて叫んだ。
「見ろ化け物!これが人間だ!」
佑民は黒炎のドラゴンに切りかかった。近付いただけで全身火だるまとなった。ドラゴンは青い炎のビームを吐いた。炎は佑民の体を消し飛ばし、壁を打ち抜き、森を焼き、山に穴を開けた所で止まった。夜の山に、赤黒い一直線が刻まれた。