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ゆるパパは市役所で緊急会見を開いた。会場には多くの記者が集まった。
会見は事前に用意したコメントを発表した後、記者との質疑応答に移っていった。
「先日、安福寺で行われた和平会議に際し、王国軍は交渉団を襲撃しました。軽傷者五名、行方不明者一名。千代浜政府はこのような非道に対し、断固厳重に抗議いたします。また、今後このような事が二度と起こらないよう、情報、警備体制をより一層磐石にして参る所存です。
なお、この件に関して大変不明瞭な報道がなされております。マスコミ各紙の皆様におかれましては、徒に煽る事なく正確な報道に努めていただけますよう、よろしくお願いいたします。
それでは質問に移ります。社名、氏名をどうぞ」
男性記者が手を上げて質問した。
「千代浜新報のシアラーです。伯爵様が行方不明というのは事実でしょうか?」
「お答え出来ません」
「王国軍十万が千代浜攻略のために編成されました。具体的な対策をお聞かせください」
「ここで話せる事でありません。防衛には充分な自信を持っているとだけお答えします」
「全部答えられないじゃないですか。こんなの会見じゃない!市民は何か隠してると思いますよ!」
「我々はこれまで、あらゆる事を皆様に情報公開してきました。しかしながら、軍事機密までは、全てを曝け出す訳には参りません。良識ある千代浜市民の皆様、並びにマスコミの皆様におかれましては、何とぞご理解いただければと思います」
記者は怒らせて失言を引き出そうとしたが、ゆるパパは終始笑顔で対応した。女性記者が手を上げた。
「大陸経済のクラウチです。会見場に鬼が現れ、大竹宰相を襲って返り討ちに遭いました。その鬼は、日常的に千代浜城本丸御殿に出入りしており、警備兵も顔パスで止めなかったといいます。一体、伯爵様は鬼と何をなさっていたのでしょうか?」
「その情報はどこから?」
「ニュースソースは明かせませんが、絶対の自信を持っています」
「全くの事実無根であります。政府内でも緊急にプロジェクトチームを立ち上げて、この問題を徹底的に調査していく所存です。しかしながらこういった状態ですから、調査終了時期が何時になるかは確約出来ません」
「街を人質に取っているように聞こえます。戦争が始まるから調査しないのですか」
「そのような意味で申し上げたつもりではありません」
「数でも、装備でも、経験でも、王国軍に劣る千代浜軍の唯一の長所が士気の高さです。常勝のカリスマに対する全幅の信頼が、兵士を支えていたのです。
しかし疑いを抱いた兵士は、もう以前のようには戦えません。どれだけ防衛作戦に自信があるのか知りませんが、真実を公表して、疑いを晴らさなければ負けますよ。戦争を口実にするのは卑怯です。申し訳ないが、総裁は市民を軽く見ている!」
「政府の最大の仕事は独立の維持です。王国は忠誠を誓えば制限的な自由を与えますが、歯向かえば容赦はしません。批判記事を書いた記者が行方不明になり、本社が大砲で破壊された事件。皆さんもご存知でしょう。そのような国に千代浜を渡す訳には参りません」
ゆるパパは笑顔で脅迫し、記者は口をつぐんだ。ウェイン記者が手を上げた。
「あけぼののウェインです。市民は今の政府の下では戦えないと言っています。辞任する気はありますか」
「粛々と務めを果たしていく事が責任と感じています」
「ですから、政府と市民の信頼関係が今ゼロなんですよ!自称ヒーローのために戦いたくないとね、逆に自分を騙してきた裏切り者と戦いたいと、皆そう思っていますよ!解散するのが筋じゃないですか!?」
「敵が迫っています。この状態で政権を投げ出すのは無責任です」
「構いません!敵が迫っている中解散して、市内に大砲が落ちる中投票して、占領された議会で首班指名しましょうよ!そしてゼロからスタートするんだ、そっちの方がよっぽど清々しい!嘘吐きのあなたが政権に居座っている限り、市民はこの戦いをボイコットします!マスコミがさせます!」
「解散はしません。その上で街も守ります。全兵士がボイコットするなら、私が一人で戦います。これは私が伯爵様の家臣だからではない、友人だからです。世界中が敵に回っても、私は彼を信頼し続けます」
マスコミは沈黙した。ゆるパパは心の中で、年離れた友人を応援した。
(孫の顔見るまでは絶対死なないって決めてるんだ。任せたぞ、ヒーロー)