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第11章 命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人
寺の五重塔から、人質の子供と敵部隊が降りてきた。男の子二人は泣きじゃくり、女の子一人は気丈に振舞っていた。
「泣いちゃ駄目!泣いたら負け!絶対に坊やさん来てくれるから、それまで頑張ろ!」
「来ないよ。皆死ぬんだ」
「来る!ヒーローだもん!来る!」
「ママパパ助けて。先生ごめんなさいもう宿題忘れないから許して……」
「来るもん……絶対来るもん……」
三人は馬車に乗せられた。敵は外から鍵を掛けて、油を撒いた。中に閉じ込められた子供達は、音で大体の事情を察した。三人は身を寄せ合って、互いに励まし合った。
「来るんだもん……絶対、絶対……」
「泣くな!優子が怪我したら、俺が責任取って結婚してやる!」
「来いよ鎧マン!全員ぶっ倒してやる!俺がヒーローだ!」
外から、刀で切り合う音がした。子供達は恐怖で身を固めた。やがて静かになり、馬車の戸が開いて、テリーが現れた。
「大丈夫皆!?怪我はない!?」
テリーは子供達に手を差し伸べた。彼女を見た瞬間、子供達はテリーに抱き付いて、大泣きに泣き始めた。テリーは彼らを抱き締め、励ました。
「怖かったね、辛かったね。偉いよ皆」
テリーの部下は、鬼将軍の優しい一面を見て、目を点にした。
テリーは子供達を外に出して、部下に村まで送るように命じた。
「この子達を願い。命に代えても守るのよ。皆も兵隊さんの言う事をよく聞いて、ちゃんとお利口にしていられる?」
鼻水まみれの三人は「イエスマム!」と胸を張って敬礼し、テリーは「よろしい」と微笑んで、彼らの頭を撫でてやった。
副官は彼女に尋ねた。
「彼らの事はお任せください。それで、将軍はこの後どうされるおつもりですか?」
「今は言えない。これまでありがとう。どうしようもない上官で、苦労ばかりかけました」
テリーは副官に敬礼した。副官や部下は一斉に敬礼して、命を共にした将軍を見送った。
テリーは部隊と分かれて、偽谷中墓地に移動した。墓場はひどく荒れていた。墓石はドミノ状に倒れ、地面は焼けて燻っていた。
地面に穴が開いていた。そこから、土や煤で黒ずんだ手が弱々しく出てきた。テリーはその手を掴んで、一気に引き上げた。
地中から、黒く汚れた坊やが現れた。見た所怪我はなかったが、かなり衰弱していた。ソハヤも持っていなかった。テリーは呆れた。
「あなた、本当に無茶しすぎ。ともかく、すぐここを離れるわ。誰かに見られたら計画が台無しよ」