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夜、大竹と黒ローブは、赤坂迎賓館似の本丸御殿を二人きりで歩いていた。
「ママは昔から君が大嫌いだった。あんな奴産まなきゃよかったって、よく言っていたな。あいつのせいで城に監禁されて、やりたい事が何も出来なくなった。なのにあいつは、いつもハエみたいに纏わり付いてきて。殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい」
「止めて!もう、止めてよ……ママはそんなひどい事言わない……」
「ママの何を知ってるの?だってさ、結局君を見捨てて逃げたんだよ?」
「……」
「ずっとそういう機会を待ってたんだろう。君が産まれてからずっと、君を憎み、恨んで、どうやったら捨てられるか、それだけを考えて生きてきた。君はママの本当の気持ちも知らずに、ママ、ママって甘えてたんだ。ママ、どんなに苦しかったかな?」
「……ずっと、ママに辛い思いさせてた。ママを困らせる悪い子だった」
「君だって辛いだろう。泣いてもいいんだよ?僕だけは、ずっと君の味方だからね?」
二人はバルコニーに立った。王宮広場を、黒づくめの部隊十万が埋め尽くしていた。大河の川面には、蒸気軍艦が百隻単位で浮かんでいた。
「夜が明ける頃には、鬼怒川を越えて百万の鬼がやってくる。僕達の国を作ろう。世界一優しい国にしようね?さあ、そんなお面は脱いで、可愛い顔を見せてくれないかい」
黒ローブはキツネのお面を外した。天使のように可憐な、五郎八女王の素顔が現れた。彼女は泣かなかった。その表情からは、全ての感情が失われていて、お面の下にもう一枚の仮面を付けているかのようだった。
「はい、お父さん」
(続く)