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葵の間の大竹は、笑顔で坊やに話しかけた。
「鬼怒川でお会いして以来ですね。剣一本でよくここまでのし上がった。ヒーローごっこ、楽しかったですか?」
ゆるパパは謝罪を求めた。
「撤回していただきたい。我が主に対して余りにも無礼だ」
「この数ヶ月、君はあらゆる人から注目されて、チヤホヤされた。何をやっても絶賛された。今じゃ、君を見た女の子が気絶するくらいだ。君の名前は、実態以上にブクブクと醜く膨らみ切ってしまった」
ピアースは開き直った。
「人気が過熱している事は気になっていた。しかしそれがどうした?悪名を垂れ流す魔王よりはましだ」
今度は重臣がいきり立った。
「貴様撤回しろ!」
「お前の主は大逆犯だろうが!」
大竹は涼しい顔でピアースに答えた。
「軍人さんは知らないかな。何故バブルが悪とされるか。弾けた時、元に戻るんじゃない。元より何倍も悪い状態に落ちるからです。そして弾けないバブルは存在しない」
「だとしても、今は弾けない。今日ここで、西海岸三国を統一して大王になるからだ」
「このバブルは私が作りました。そして私が潰します。君が何かするたび、『坊やさん素敵!』『坊や最高!』って世間に喋らせてたの、あれ私です。千代浜は暇人が多いから、簡単な腹話術でした」
床の間側の戸が開いて、黒づくめの部隊が乱入してきた。坊やは骨の壁を張って、部屋を二つに隔てた。
黒づくめの部隊は、床の間側の重臣を打ち殺した。
「話が違うじゃないか!」
「大竹!大竹!」
泣き喚く彼らを、黒づくめの部隊は容赦なく銃で打ち、刀で刺した。返り血を浴びた大竹は「『敵』を殺すと言ったんです」とそっけなく答えた。
三人は部屋を飛び出した。廊下の先に、黒いローブを羽織った人物が立っていた。黒ローブは三人に右手を向けた。その手には、黒い鎧武者の手甲が嵌められていた。
後ろから、骨の壁を炎でこじ開けて、血まみれの大竹がやってきた。
三人は前を黒ローブに、後ろを大竹に挟まれた。
坊やは全身を鬼の骨で覆って、廊下の壁に体当たりした。壁に穴が開いた。坊やは連続体当たりで屋敷にトンネルを掘り進めた。そして最後の壁を突き破ると、全身を骨のドリルに変えて、北の庭にダイブした。
黒ローブは全身に炎のドリルをまとった。ドリルは坊やを追って、壁にトンネルを掘り、北の庭に飛び込んだ。




