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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第10章 天使の証明
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10-8

 大河の北岸に、富士山似の白く美しい独立峰が聳えていた。その麓には華やかな門前町が形成されていた。街の港には、大観音像が立っていた。この街は山岳信仰によって発展した自治宗教都市であり、その中立的な性格を買われて、今回の交渉場所に選ばれた。

 軍艦は街の港に泊まった。坊や達は、秋水とアシュリーと先生を残して船を降りた。

 港には、マスコミとファンの大集団が待ち構えていた。


「伯爵様!こちらに目線お願いします!」

「豊津戦は歴史に残る大勝利でした!今の気持ちを一言で!」

「坊や様ー!結婚してくださーい!」


 一行は馬車に乗って港を出た。大集団もそれに従って移動した。提督と少数の水兵が港に残って、軍艦を警備した。

 一行は街の大通りを北上した。テリーの黒服隊が、一行の馬車を護衛した。大通りには規制線が張られていて、その外から、観光客が見物していた。

 大通りの左右に、新旧の大伽藍が建ち並んでいた。ギリシャ神殿を彷彿させる飛鳥時代の寺もあれば、派手な朱塗りの平安時代の寺もあり、質実剛健な鎌倉時代の茅葺の寺や、室町時代の枯山水の寺、城砦のような戦国時代の寺もあった。五重塔が何十本も聳え立っていて、通りは高層ビル街のようだった。

 大通りの北の外れに、寛永寺を模した大きな寺が建っていた。ここが今回の会場である。

 馬車は東の表門を潜って、偽寛永寺の境内に入っていった。軍人は中に入れないので、テリー達は表門前を固めた。境内は僧兵が守護した。

 馬車は寛永寺で言えば葵の間の辺りで止まった。ここはやがて徳川慶喜の蟄居の場となる、武士の墓場のような、侘しい書院造りの屋敷である。近くには物悲しい五重塔が建っていて、これは卒塔婆のようだった。

 坊や、ゆるパパ、ピアースは馬車から降りた。葵の間の周辺にも、既にマスコミが集まっていた。マスコミは容赦なくシャッターを浴びせ、コメントを求めた。三人は揉みくちゃにされながら屋敷に入っていった。

 三人は南の玄関から上がって、L字型の廊下を北へ歩いた。ゆるパパは終始無言だった。ピアースは警戒して周囲を見回していた。その腰には、信号弾を装填した銃が吊るされていた。

 廊下の突き当たりに、広い和室があった。この和室の床の間側に、王国の重臣数名と、大竹が正座して待っていた。三人は彼らと向かい合う形で廊下側に座った。一同は互いに座礼した。

 今から、ここで西海岸の未来を話し合う。部屋に張り詰めた空気が漂っていた。

 同じ頃、坊や達を送り出した港は、野次馬が去って静まり返っていた。提督と水兵数十名だけが、埠頭に残っていた。

 マントを羽織った貴婦人が、馬に乗って駆け込んできた。貴婦人は見事な馬術で提督の前に止まった。


「千代浜伯爵はいらっしゃますか!お伝えしたい事があります!」


 貴婦人はマントを脱いで、宝石のような素顔を晒した。水兵はその美貌に目を奪われた。

 提督は彼女に答えた。


「坊やはここにはいねえ。あんたは?」


 貴婦人は馬を降りて、「武振愛と申します」と申し出た。一同は慌てて平伏して、女王の母を出迎えた。


「顔を。千代浜海軍のネビル提督ですね?今すぐ伯爵に連絡して、街を離れるように伝えてください。この交渉は罠です!」

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