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朝になった。子供はまだ見つからなかった。いつも小学校の木にカラスの群れが止まっていたが、今朝はまだ姿を見せなかった。
駅前の派出所に、憔悴した顔の親が集まっていた。夜通し探しても、発見出来たのは三つ編みの子の赤いリボンだけだった。
坊やと先生は、駅のホームの待合所にいた。思い詰めた表情で座る彼女を、坊やは何も言わず見守っていた。
先生は自分の甘さを責めた。しかし幾らここで悔いても、子供達は帰ってこない。
先生は隣に瓢箪を置いた。いつか船の中で見せてくれた、鬼を封じる赤い瓢箪である。
「覚えてる?初めて会った時の事。最初は私と君しかいなかった。あれから色んな事があって、周りに大勢の人が集まって、君は王様に、私は小学校の先生になった。君は前みたいに会いに来てくれるけど。でも二人きりでいられるのは、多分今が最後。
だからよく聞いて。鬼の名を呼んで、はいと答えれば、この瓢箪に吸い込まれる。出る時も同じ。この瓢箪を君に託す。教えてあげる、私とあいつの本当の名前……」