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ゲームオブスローンズのような国取りファンタジーです。
スローンズは登場人物がとても多く、話が長いドラマです。エログロシーンも多いです。
こちらではキャラを出来るだけ減らして、テキパキ話を進めていきます。グロも減らしますが、エロは増やします。
全十二話。一話大体十分~二十分程度で読める分量です。十二話ラストでノーマルエンド、バッドエンド、ハーレムエンドに分岐します。
毎週日曜夜~月曜朝に更新する予定です。ジャンプのついでに読んでいただければ幸いです。
第1章 革命の魔王
爽やかな夏の朝、草原で二つの軍隊が対峙していた。
一方は戦国時代のような古い軍隊。服装も年齢もバラバラだった。陣笠を被った鉄砲足軽もいたし、馬に跨った侍大将もいた。若いのもいれば、若すぎるのもいたし、五十を過ぎたのもいた。数は八千。二列横隊でだらしなく並んでいた。
一方は十九世紀の新しい軍隊。服装は全て赤のシャコー帽(バケツのような帽子)と赤の軍服に、年齢は屈強な二十代に統一されていた。数は六千。中央に二列横隊のマスケット銃兵隊が規則正しく並び、その左右に騎兵隊が控えた。銃兵隊の後方には砲兵隊が展開していた。
古い軍隊は法螺貝を長く吹いた。それを合図に、兵士達は一斉に鬨の声を上げた。八千人の咆哮は草原を震わせた。続いて、声の大きな兵士数百名が前に出てきて、散々に罵声を浴びせた。
「西洋かぶれの売国奴!」
「田村はキリシタンだ!諸君らに隠れて毎日赤血を飲み、肉を食べているぞ!」
「我ら固有の美しい伝統を容易く打ち捨て 西洋の軽薄な技術に飛び付いた!」
「鉄道が通れば白人が来る!白豚とその仲間に奴隷にされる!」
「田村が宰相(総理)を続ければ ムー大陸は必ず滅ぶ!」
古い軍隊は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。が、新しい軍隊は右から左に聞き流した。
新しい軍隊の砲兵隊指揮官は、ホイッスルを短く鳴らした。砲兵隊は攻撃を開始した。大小の火砲が火を吹いて、大量の砲弾が発射された。
敵陣に砲弾が降り注いだ。敵兵は木っ端微塵に吹き飛んだ。もげた手足やピンクの肉塊、大量の青い血が空高く跳ね上がって、敵の頭に雪崩落ちてきた。
砲兵隊は絶え間なく砲火を浴びせた。一部の敵は勝手に撤退し始めた。服装、年齢だけでなく、組織もバラバラだった。
砲撃が止まった。新しい軍隊の銃兵隊指揮官、田村佑民は右手を振った。それを合図に、進撃を告げるラッパが高らかに鳴り響いた。
猛々しい青年である。身長百九十センチ、体重百十キロ(ほぼ筋肉)。坊主頭で、目付きは鷹のように鋭い。黒い馬に跨っていた。
ラッパの合図で、銃兵隊は敵に向かって前進した。全員が同じ歩幅、同じ速度で歩く様は、まるで運動会の行進のようだった。少数の槍騎兵が、彼ら銃兵隊の側面に付き従った。
古い軍隊は距離五百メートルから弓攻撃を開始した。命中率は低かった。矢は地面に、あるいは兵士の足に、肩に突き刺さった。頭を射抜かれた兵士は青い血を撒き散らして倒れた。降りしきる矢雨の中を、銃兵隊は死体を踏み越えて黙々と前進した。この間、彼らは一度も反撃しなかった。
古い軍隊は弓に加えて、距離三百メートルから大口径火縄銃攻撃を開始した。大口径銃は通常の火縄銃より威力と射程が高いが、この距離では届きはしても、まず当たらなかった。発射された十匁の大玉は銃兵隊の頭上を飛び越え、または脇をすり抜け、または地面にめり込んだ。人に当たれば二、三人貫通して、青血を霧状に飛散させた。銃兵隊は頭から血を被りながら突き進んだ。
銃兵隊は距離二百まで接近した。敵の攻撃は一層激しさを増した。一部の銃兵は死の行進から逃げ出そうとした。両脇に付いていた騎兵が、槍を振るって脱走兵を突き殺した。彼らの任務は側面のガードではなく、味方の脱走防止だった。
銃兵隊は距離百まで接近した。ここまで来れば、どちらの玉も外れる事はなかった。互いの顔がはっきり見えた。どちらも怯えた表情だったが、古い軍隊は敵を恐れ、銃兵隊は指揮官の田村佑民を恐れていた。
ラッパが二度吹かれた。銃兵隊は敵前衛の目前で立ち止まった。前列は座り、後列は立ったまま銃剣付きマスケット銃を構えた。
ラッパが一度吹かれた。銃兵隊は一斉射撃を敢行した。彼らは発射煙の黒い雲に包まれた。敵は一度に千人以上が打ち倒された。青い血しぶきが霧のように漂った。
ラッパが一度、長く吹かれた。半壊した敵前衛に対して、銃兵隊は銃剣突撃を敢行した。
敵は武器を捨てて逃げ出した。佑民は後に残された古めかしい武器―焙烙玉や投石(殺傷力を高めるため、縄文時代の石槍のように加工されてある)―を見て、舌打ちした。外敵がこの大陸を狙っているのに、彼らは何も変わろうとしなかった。
新しい軍隊の後方に、小高い丘があった。遠目には古墳のように見える丘だった。
丘は大きな頭蓋骨の形をしていた。目は六つあって、角は二本、牙は無数に生えていた。全体が緑に覆われているが、所々土が剥げていて、そこから白い骨が露出していた。
これは丘でも古墳でもなく、空母ほど巨大な鬼の頭蓋骨だった。注意して見ると、草原のあちこちに、巨大な鬼の骨片が散乱していた。ストーンヘンジ状に埋もれた指の骨、瀬戸大橋状に大地を走る肋骨……
鬼の頭の上に、新しい軍隊の司令部が置かれていた。司令官の田村佑国は、白馬の親衛隊と共に戦場を見下ろしていた。佑国は嘆いた。
「白人は野蛮だな。こんな戦が蔓延れば世界は滅ぶ」
二メートル、百二十キロの大男である。ザンギリ頭で、目付きは鷹のように鋭い。前線で指揮を取る佑民の父親だった。前線指揮官の長男が荒々しいアメフト選手とするなら、将軍の父は慈悲と憤怒を併せ持つ東大寺南大門の金剛力士像だった。
佑民の活躍で、前線が大きく動いた。敵前衛は総崩れとなり、後衛の諸隊は戦わずに退却した。新しい軍隊の騎兵隊は、逃げる敵を追撃した。
佑国の次男が丘を下り始めた。父はアドバイスを送った。
「坊や、常に余裕と緊張を保て。人は城、人は石垣。情けは味方、仇は敵なり!」
坊やは一騎で駆けていった。正佑は小柄な美少年軍師、田村秋水に命じた。
「あれを補佐しろ。初陣で周りが見えていない。誰を殺しても構わんが、正貫の持つ騒速ソハヤの剣だけは無傷で手に入れろ」
秋水は頷いた。名前の通り、澄んだ秋の水のように清らかで、切れ味鋭い日本刀のように聡明な美少年だった。顔立ちは誰よりも気高く、そして何よりも美しかった。肌は儚げなほど白く、瞳は澄んだ海のように青く、ポニーテールに結った髪は滴るように黒かった。年は中学生ぐらい。会う人全てが恋に落ちる王国一の美少年で、佑国とは信長と蘭丸のような関係と思われているが、実際には劉備と孔明の関係だった。
秋水は一隊を率いて丘を下った。砲兵隊の後ろ辺りで、秋水隊は坊やに追い付いた。
「坊ちゃま!」と秋水は彼を呼び止めた。
「勝敗は決しました。無駄な血を流す事はありません。軽く一当てして終わりましょう」
坊やは美少年軍師の進言にこう答えた。
A「任せる」
B「敵を皆殺しにするまで勝利とは呼べない」
C「早く終わらせて早く帰ろう」
↓
A 秋水は頷いた。
「新しい世作りには人手がかかります。敵も味方もなるだけ生かすべきです」
B 秋水はたしなめた。
「彼らが無理やり戦場に駆り出された善良な市民である事、どうかお忘れなきよう」
C 秋水はため息を付いた。
「余裕を持つのは結構ですが、緊張感も人一倍持ってくださいね?」
坊や隊は前線に到達した。
敵は逃げ惑い、味方はそれを追いかけ回していた。と言っても、止めを刺すような戦い方ではなかった。突撃して敵が逃げれば善し。戦おうと踏み止まれば、味方騎兵は敵前でピストルを発砲して後退した。積極的に切り込む味方はいなかった。敵の方も、象のように大きな馬が猛スピードでやってくると、戦わずに逃げ出した。両手を上げて降伏する部隊もあった。
古い軍隊の後方に、車前草の旗を掲げた敵本陣があった。辺りは静まり返っていた。
田村佑民は銃兵隊を率いて敵本陣に突入した。旗を残して、中はもぬけの殻だった。大将の姿は既になかった。佑民は吐き捨てた。
「御初代様からの御旗(車前草の旗)を残して逃げるとは、叔父とはいえ情けない。見ろ、これが伝統を愛する者の本性だ!」
坊やが初めて見る戦場は、確かに危険で残酷ではあったが、一方で不真面目な空気も漂っていた。秋水が説明した。
「降伏した敵は身代金と交換です。放っておいても誰も死にません。皆お金のために戦っている。海の向こうのアメリカでは、理念のために一会戦で数十万人が死んでいるそうです。それがいい事とも思いませんが……」
田村佑国は軍事改革を断行して、元亀天正(戦国時代)の軍隊をナポレオンの軍隊に変えた。しかし時代はナポレオンからリンカーンに移りつつあった。佑国は田村軍を世界最先端だと思っていたが、実際には一周遅れの古い軍隊だった。彼の半端な改革は、保守派にも改革派にも憎まれていた。
坊やは憂い顔の秋水にこう答えた。
A「人が大勢死ぬ新しい戦争が正しいなら、古い間違った戦争を戦おう」
B「この国は長いまどろみの中にいる」
C「リネン(麻)だけに、革命の朝が来たな」
↓
A「……はい!」
B「僕は信じています。この寝ぼすけな大陸を目覚めさせるのは坊ちゃまだって」
C「ハァ……本当に世話のかかるお兄ちゃんだなあ……」
坊やを先頭に、親衛隊は前線に飛び込んでいった。