野々村保 登校拒否
ある日相談室に1人の母親が来ていた。
「保が学校に行きたくないって言い始めたんです。理由を聞いても何も答えないし、
このまま引きこもりにでもなったら」
ハンカチを目に当てながら母親は悩みを話していた。
誠史郎が口を開く。
「何か心当たりはありませんか?」
ただただ首をふる母親。
「子供に」とっては学校だけが『社会の世界』なんです。
そこに行かないのは自分で自分の首を締める行為ですね。
思春期の子供たちは感性が豊かで同時に頑なです。
内面の大きな変化に自分自身ついていけないのです。
学校に行ってそこで色々なモノに触れて自分に合うものを探し出してくれれば」
誠史郎が母親に説明をする。
「私は何をすれば良いのでしょうか?」
母親の涙は止まらない。
「会話をとにかくしてください。例えそれが一方通行でも。あきらめず、腫れ物に触るようにせず。
野々村君はは『誰か僕に注目して欲しい』と思いつつ、
『親は僕の事をわかってくれない』『誰からも必要とされていない』と、強く半面性を思っていると思います」
「そして、一人ぼっちで家に居させないようにしましょう。
少し学校をお休みしてもいいですから、日常の買い物に連れ出すとか。
『おはよう。おやすみ。』だけの一言でもいいんです。必ず存在を認めてあげて
私たちはあなたの味方だから。ということを印象づけてください。」
「そして、原因を見つける事が最優先ではありませんし、担任の先生もいます。
色々な登校の仕方もありますし、少しずつ進んでいきましょう?」
誠史郎は微笑む。
「心配いりませんよ。野々村君は引きこもりにはなりません」
「私たちが家庭訪問に行きますし、これが私の仕事ですから」
「大丈夫。私たち以外にもフォローしている場所もたくさんありますし」
誠史郎は優しく母親の肩に手を添える。
母親は北斗のほうに視線をやり、北斗は大きくうなずく。
誠史郎の言葉に母親はまたハンカチを目にあてて、静かに保健室を出る。
「引きこもりですか?」
「いやあ、まだ多分登校拒否くらいですね。やり直しはそんなに難しくありませんよ?」
ふう。と誠史郎はコーヒーを口にする。
「親と学校・・どっちかなあ?」
静かに呟きながら。