世界の終焉
300年程前の話だ。この世界は氷河に覆われた世界だった。
理由はただ単に異常気象が頻発したからとか、そういう類のお話ではない。
その理由を理解するにはさらに200年ほど遡らねばならない。
500年以上前、当時の世界は豊かだった。テロや貧富の差など多くの問題を孕みつつも、人類は世界各地に根を下ろし、空まで届く摩天楼をいくつも建てた。
機械と科学が融合した素晴らしき世界、その世界では”大空を飛ぶ鉄の鳥”や”大海を渡る鉄の船”や”水の底へ潜る事の出来る船”があったという。
だが、人類はその叡智を間違った方向へと向けてしまった。
科学の進歩により発展したのは何も民間だけではない。軍事的な方向も発展してしまった、否、発展しすぎてしまった。
彼らは”目に見えない魔法の毒雲”や”自ら歩く鉄の箱”・”一発で世界を滅ぼす魔法の弾”などを駆使し、全世界を戦争へと巻き込んだ。そうして荒廃した世界でも人類は、欲望を実らせ続けた。
そしてついに人類は、開けてはならない禁断の扉を開けてしまった。それが何を契機としてであったのかは今の我々には知る由もない。ただ唯一解っているのは、“人類が神に近付く”そのためだけだった。
人類はその叡智を結集し、高次元の存在を呼び出そうとした。捕縛しその叡智の欠片を手に入れようという欲望だったのか、それともその叡智の欠片との交換を望んだのか、それは解らない。
少なくとも、その高次元生命体の手によって、人類の歴史は氷河期―象の一種を狩っていた時代―まで退化した。その日、たった一日で全世界の99%が死んだ。
生き残ったわずかな人々は、氷河期を耐え忍ぶために食糧や水・住まいなどを自ら手に入れねばならなくなった。
それがほんの500年前だ。
だが高次元生命体は何を思ったのか、東の最果ての島国―かつて日本と呼ばれていた国―のどこかに村を創り、かつての人類がそうして生きてきたかのように、生き残った人類と共存し始めた。
と同時期に、生き残った人類の村々に彼らの作った石碑が建てられた。
石碑にはこう記されていた。
『我ら、過去の驕り高ぶりし人類によりてこの世界に放逐されし者なり。いつの日か、我らの試練を全て潜り抜ける勇者が出る事を切に願わん。彼の勇者が全ての試練を達成せし時、我らの悲願は成就せん。我らは希望を持ちて去らぬ』
石碑が建てられると、幾人もの男が自らを【勇者】と呼称し、彼らの村を探しに旅に出た。しかし、生きて二度とその姿を見た者はいなかったという。