勇者38名の召喚①
その少女は召喚するための準備を整えていた。回りには護衛らしき人が多数。彼らも、その少女の行いを、固唾を飲んで見守っていた。
召喚するのは異世界の『勇者』。この世のありとあらゆる困難を突き破り、世界に安寧をもたらしてくれる神の使者。
「世界線への干渉………座標…固定……該当………38人」
魔力を最大にまで練り上げる。この儀式を行うためにミスリル水晶に貯められた膨大な魔力。魔力は召喚をするものによって消費量が異なる。強い者を召喚するときには大量の魔力を消費するし、弱いものならすくない。少女は『いまは弱いが後に強くなる素質を秘めた者』を指定する
これが失敗したら、次に出来るのはいつになるのかわからない。失敗しないように。成功するように。
綿密に魔力が練られていく。
「属性……魔力………閾値………到達」
そして、準備が整ったあと。
少女は詠唱を始めた。
床には巨大な魔方陣。
そこに手をつきながら、古から伝わる呪文を紡ぐ。
『五大属性に二大事象。火と水と風と地と雷を闇と光で束ねよ。』
少女は言葉に魔力を乗せる。練りに練られた魔力により、その言葉一つ一つは膨大な力を宿した。
『問う。我はこの世の安寧を祈るもの。我の願いを聞き届け。この願いを叶える者は何処に。』
この呪文は代々王家に受け継がれ、世の中が混沌に満ちたときに使われ、勇者を召喚してきた。
召喚された勇者は、一人の時もあれば百人の時もあった。しかし、共通していることは、召喚された人々は必ず世界を救っているということである。
『今ここに。我らが主の神名を。』
普通、世界線の移動など人間ごときがなにをしたところで、なし得ることではない。しかし、そこに『神』という絶対的存在を介した瞬間、それはなんら不可能なことではなくなるのだ。
『勇者よ。召喚に応じ、今こそ世界に光を示せ━━━━━━』
魔方陣から、とてつもなく眩しい光が溢れた━━━━━━━
★★★★★★★
(せ、いこう…………した?)
ルテミス王国の第一王女ソフィア=ルテミスは、未だに光が溢れている魔方陣を前に、魔方陣から手を離して立ち上がった。
成功したかどうかは、勇者が現れるまでわからない。
現れたら成功であるし、現れなかったら失敗なのだ。そのとき、一人の護衛が私に話しかける。
「せ、成功したのでしょうか?」
「………まだわからない。………あっ」
そこで、魔方陣から溢れている光の中から、人影らしきものがみえた。
「ひ、姫様!あれは、」
「っ、えぇっ!成功だわっ!」
ソフィアとその護衛たちの歓声で部屋は包まれた。
しかし、喜んだソフィアは。その表情を一瞬にして苦痛に歪め、座り込む。
━━━━━━『 』━━━━━━
何かが、違う。
そう思った。
召喚自体が初めての行為であるはずなのに、確信した。これは絶対に違う。
いきなり、ながれの変わった魔力に護衛たちは気づかない。未だに喜びをあらわにしながら叫んだりしている。
しかし、ソフィアはそうはいかなかった。
(な、によ………これ……………)
初めに練られた魔力は、言葉にのせて魔方陣に流し、召喚の際に使われたはずだ。現に勇者は、現れようとしている。光の中からうっすらと見える人影は、最初に該当した38人。それだけの転移を行えば、送った魔力は転移の際に使われてなくなるはずである。
しかし、どうか。
魔方陣からは光と同時に魔力が大量にあふれでていた。
(こんな魔力量…………それこそ…………神にしか…………)
その魔力は何故かソフィアに向かって流れてこんでいる。
ソフィアは、その魔力を押さえ込むのに精一杯であった。この国の王女たる私が気絶していては護衛に、そしてなにより勇者達に示しがつかない。
それはもはや意地であった。
魔力の流れが止まった。そして、浅い呼吸が続く。
深呼吸をしてソフィアは立ち上がった。
あれだけの魔力だ。
よほど神の祝福を受けたものに違いない。
是非ともこの国に取り込まなければ、と。
勇者にこの国の現状を伝えるのも王女たる私の仕事である、と。気合いを入れながら。
そしてついに。
光は消え、
総勢38名の勇者が現れた。