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第七話 報いるために


 「それじゃあ、俺は道案内するだけでいいんだよな?」


 「ああ、邪魔さえしなければ後は好きにしろ」


 タックと名乗ったバンダナ男は、この町を中心とした地図を広げると幾つかある森や山などの中からやや小さい規模の一つを指さす、タック曰く木こり達が使っていたであろう小屋と木材があったらしいので自分たちで増築し、そこを拠点にしているという


 「確かに……そこには魔物の影響で放棄された村があった、拠点にするにはうってつけだ」


 「一応魔物除けに柵は設けてるが……傷んでいて形くらいしか機能してないだろうよ、もっとも人除けには十分だろうがな」


 「つーことは、大勢の中真正面から突っ込めって話か……?」


 いくらチンピラより強いと言っても、逆に言えば拳太の強さなんてそんなものだ、仮にここにいる二人の力を借りても正面突破は難しいと言わざるを得ないだろう、幸助の推定によれば相手は50人近くだ。


 「……その事だが、僕に作戦がある、というより、これに乗ってくれないと僕としては乗り込むことに賛成できない」


 「作戦?」


 その時、幸助がはっきりと拳太の方を見る、タックへの交渉に乗ってくれた当たり拳太はてっきり拠点攻めに賛同してくれたものだと思っていたが、どうやら無条件にとはいかないらしい

 とは言え、自分ではいい案も浮かばないのは事実なため、拳太は確認の意味合いを込めて幸助に聞き返した。


 「ああ、それはだな――――」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 完全に日が落ち、木々によって月明りも遮られる森の中、村の入り口に立っていた盗賊の一人は退屈そうに欠伸をしていた。

 夜の見張り番にさせられていた彼は、気温の肌寒さもあって傍らの松明に身を寄せる、体を暖めるなら酒の方がいいななんてことを考えながら


 「……ん?」


 その時、彼の目にぼんやりと明かりが見え始めた、最初は剣を握って警戒し、その明かりを見ていたが、その明かりに照らされた緑のバンダナが目に入ると、脱力してまた松明に寄りかかる


 「タックか、お前こんな夜更けまでどこで油売ってたんだ?」


 「す、すまねーな、ちょっと見つかるヘマやらかして、今まで隠れてたんだ」


 「ふーん……ん? お前髪の色そんなんだったか? 声も変だし……」


 「あ、ああ! 変装だぜ変装、ちょうど近くに染料があったからな、声は……今ノドを痛めちまってこの通りよ」


 一瞬、身を強張らせ、焦ったような気配を感じこそしたが、タックの言い分は見張り番を納得させるのに十分なものだった。

 これ以上疑ってもキリがないだろうし、夜の見張り番などで疲れている時に更に疲れるようなことはしたくない、なによりちゃんと緑の布を身に着けているから仲間だろうと結論付けると、親指で後ろの村を指す。


 「じゃあとっとと入れ、明日も仕事なんだ……今度はヘマすんなよ」


 「わ、分かった、すまねーな」


 タックはやや早足で村の中へと入っていく、あの分だと翌朝あたりには親分に絞られるだろうが見張り番には知ったことではない、考えているのはせいぜい罰を見張りの交代に進言することぐらいだ。

 面倒ごとを押し付ける当てができたことで幾分か気合を入れ直した男は、改めて暗闇の向こう側へと目を凝らす。


 「……んん?」


 と、また明かりが見えた、それも今度は一つではない、いくつもの光が横に並んでこちらに向かっている、それと共に響いてく、馬の嘶き、そして蹄の音

 男が疑念を抱いたのは一瞬、それが確信に変わる時間もまた一瞬であった。


 「な、な、な……」


 明かりに照らされる、この国の象徴である草紋章の盾と、その前で交わされた剣と槍が描かれた旗

 それに集う大勢の甲冑を着込んだ騎士たちの姿、その数は自分たちより遥かに多いだろう、そして――


 「聞け! 愚劣なる賊どもよ! 僕の名は幸助! 『蛇風の騎士』、幸助だ!」


 今の世論を騒がす、『天上戦士』と謳われる人間の一人だった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 「ふぅ……上手く入れたみてーだな」


 少し無理があるのではと思いはしたものの、暗がりのおかげかそれほど上手く疑われずに済んだタック――に変装していた拳太は、すぐに外套を脱ぎ捨て、この夜に溶け込める学ランへと着替える

 村の明かりに当たらないように無造作に置かれていた樽の陰に身を潜めて様子を伺う


 「翠鳥のヤツ……上手くいけばいいが」


 にわかにざわつき始めた村の盗賊達を眺めながら拳太は自分の緊張を解すように与えられた作戦を反芻する


 「大軍を引き連れてやつらの注目を集めると同時に、動きを牽制、膠着状態に陥っている隙にオレが人質を救出、全員が脱出した後に離脱……か」


 乱戦による消耗や、錯乱した敵によって獣人たちが傷つけられるのを防ぐために幸助たちは降服勧告と威嚇のみを行って時間を稼ぐ算段だ。

 一応、事前にタックから渡された情報によってバニエットたちがどこに捕らえられているかは分かっているが、隠密行動を保ったまま上手くいくかと考えると手汗が滲み、疲れてもいないのに呼吸が乱れそうになる


 「……ッ、しっかりしろオレ、あいつらが命懸けてまでやってくれたんだ」


 今は甲冑に隠れ、顔が見えなくなってしまっているが、幸助の側にいるあの部下たちだって不安でいっぱいなはずだ。

 彼らを問い詰めた時には頭に血が上っていた拳太だったが、よくよく考えれば彼らの返答は実に当然のものだった。

 彼らは町を守る兵士である以前に一人の人間だ、死ぬのは怖いし、危険にもなるべく関わりたくないだろう、ただ拳太が勝手に獣人たちに肩入れして、勝手に彼らに期待しただけだ。

 それでも拳太のわがままとも言える獣人の救助に乗ってくれたのは勝算があることもそうだが、何より彼らの根が善人であったからであろう、拳太としては頭の下がる思いだ。


 「待ってろ、ぜってー助ける」


 今日まで笑顔で接してくれたバニエットに、関りの無いクラスメイトの安否を気にしてくれた幸助に、自分の身勝手に命を懸けてまで付き合ってくれた兵士たちに、そして誰かを想う心を思い出した自分自身のために、拳太は誓いの言葉と共に、その一歩を踏み出した。


 「……よしっ、行ったか」


 拳太が樽の陰から飛び出して暫く、その樽の蓋から顔を覗かせる男がいた、拳太達に道案内をした後、騎士に両脇を固められながらその場を後にしたはずのタックである

 彼はある考えの元、騎士たちにやはり最後まで手助けしたいと改心したフリをしてまで盗賊の村に忍び込んでいたのだ。


 「遅かれ早かれ、あいつらは全員お縄だ……今なら人の目も無いだろうし、お宝お宝」


 タックは最初こそ釈放されることに浮かれていたが、すぐさま自分には行く宛てなどないことに気づいたのだ。

 賊として生きようにも、二度捕まったとなれば今度こそ打ち首は免れないだろうし、徒党を組もうにも仲間を裏切るような男など信用できるわけもない、もちろん賊になっていた時点でタックの社会的立場など論外なためまともな職に就くなど夢のまた夢だ。


 実は幸助に頼み込めば町の兵士という安定した職に就けるのだが、それに気づいて激しく後悔するのはまた後の話。


 「さーて、連中のため込んだ金……全部俺がいただくぜぇ!!」


 こうして、拳太達とは違って自分のためにしか動かない男は樽に擬態したままコソコソと動き出した。

 その先はもちろん盗賊たちの倉庫小屋――奇しくも拳太の向かう先と同じであった。

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