0-8 食事と人化とサービスシーン
part 蟹
「さて、じゃあ飯にするか!命の恩人もお腹すいてるみたいだしなぁ・・・くく」
「そ、そうですね・・・ぷぷ」
「だ、駄目だ、腹が、くるしい・・・くくく」
・・・さすがに笑いすぎじゃないですか。私だって生きてるんですから、お腹ぐらい空きます。全く失礼な人たちです。
そんなことを考えていたらポピー君が馬車に上がり、下にいるリチャードさんに皿などの食器を渡している。
その間にハルスさんが鍋にお玉を入れ、白い液体の味見をしている。が何か気に食わないのか首を傾げている。
「駄目だな・・・」
そう言って4つあるバックの内一つに手を伸ばした。私は気になり声をかけた
「どうしましたか?」
「いや、ちょっと気にくわなくてな」
「どれどれ・・・」
私は鍋に手を伸ばすが、ハルスさんに止められる。
「自分で納得のいかない物を相手に食わせるわけにはいかなくてな」
そう言われて追い出されてしまった。
そこで皿を馬車から持ってきたリチャードさんから皿が回されてきた。周りを見ると、皆いつの間にか座っており、皿を持っている。何もない空間に皿が浮いてるのもあるが気にしない様にする。
「なあ、さっきは笑って悪かったな。何か見た目とのギャップでついな」
「いえ、別にそんな・・・」
「そう言ってくれると助かるぜ」
幾らかこの人達から警戒の空気がなくなっていた。さっきの腹の音のお陰なのだろうが納得がいかない。
「よし出来たぞ!今回もなかなかの出来映えだぞ」
そう言ってハルスさんが自信満々の顔をして立ち上がる。周りにはさまざまな調味料が置かれていた。第五部隊メンバーから「おおー」という声が挙がる。私もどんな味か楽しみになった。
そうして、みんなの皿に料理が盛られた。白い見た目で液状になっており、中に肉やジャガイモ、ニンジン等も入っていて、とても濃厚な匂いがする。シチューのようだ。私は思わず喉を鳴らしてしまう。ハルスさんの挨拶で食事が始まる。
「では、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
私はスプーンを持ちシチューをすくい、口を開け食べようとしたとき、カランというスプーンを落とす音がなる。何だと思ってそちらを向くと、此方を見たまま固まっているポピー君がいた。いやポピーくんだけじゃない、皆此方を向いて固まっている。私は思わず聞いてしまう。
「あの、どうかしましたか?」
ポピー君が言いにくげな態度を見せる。
「いや、あの、その、えーとですね・・・」
そしてリチャードさんがバツが悪そうに言う。
「なあ、失礼なのはわかってるけどよぉ、その見た目はどうにかなんねぇのか?」
「?・・・あ」
そう私は口を開けてしまったのだ。つまり中にあるもうひとつのグロテスクな口を見られてしまった。
だが見た目はどうこうしようと思ってもできるモノではない。私は謝り、違う方向を向いて食べようとしたとき、ポピー君がポツリといった。
「そういえば、オリジンは姿をある程度変えられるって記述があったなぁ・・・」
「それ本当ですか!!?」
私はその話にガッツリ食いついた。この見た目が変えられるなら変えたいと思うのは女として当然だ。ポピー君の肩を両手で掴む。この際腕の痛みなんて無視だ。
「え、ええでも相当昔の記述なので確かかどうか分かりませんよ」
「構いません!その方法を教えて下さい!!」
「は、はい。ではまず目を閉じて自分のステータスを見るときと同じ方法で意識を自分の体に向けて下さい」
ポピー君が鞄から本を取りだしながらそう言う。私は目を閉じ、意識を自分に向ける。
「えっと・・・その状態でなりたい自分の体をイメージして下さい」
自分の人間の頃の体を思い浮かべる・・・すると、私の体が変わって行く感じがする。だがその際周りから戸惑いの声が聞こえる。
「は!?ちょっおまっ!」
「す、ストップ、ストーップ!!」
「おいおい・・・」
だが体の変化は急には止められず、それから1、2分で変化が止まった。
そしてゆっくり目を開くと目の前には、顔を真っ赤にして此方を瞬きもせず見続けるリチャードさんと、手で顔を隠しているけど指の間から此方を見ているポピー君、そして額に手をあて此方に一切目を向けずため息を吐くハルスさんと、やけにぐらついている空間があった。
いったい何だと思い自分の体を見ると、きちんと女性として起伏のある体に、白い肌で赤い髪が腰まで届いている。人間にとても似た体になっており、それ以外何も無かったのだ。
服も下着も無かったのだ・・・。
「き、きゃあああああああああああああ!!??」
私はすかさず拳を両手に作りハルスさんとリチャードさんに叩き込む!!そして何もない空間に回し蹴りをいれる!!
「「「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」」」
完全に無防備だった三人が地面に突っ伏した時、リチャードさんが何かを言う。
「な・・・何でポピーだけ・・・ガクッ」
そのあと私はポピー君に予備の騎士団の制服を貰い、シチューをすべて平らげ眠りについた。
part リチャード
いてて・・・くっそぉ・・・あの魔族思いっきり殴りやがった。まだ腹がいてぇ・・・
そう思いながら時間をかけゆっくり立ち上がる。そして一人だけ難を逃れた後輩を恨む。
「何でポピーだけ殴らねぇんだよ。アイツだって見てたじゃねーか、あの白い肌と女の体・・・を・・・」
頭の中に残る二分間が蘇る。女性としての起伏ある体、白い肌、赤い髪、全てが絶妙であり、完成されていた。
そこで顔を横に振り現実に戻る。
「な、何思い出してんだ俺!あれの本当の姿は全身赤い甲殻に包まれ、目は一つ目で不気味で、巨赤鬼と殴り合う化け物だぞ!それが・・・あんな・・・ひ、卑怯だろあんなの!」
顔を真っ赤にしながらそう言って、冷めたシチューを口にかき込み寝ようとするが
「よしリチャード、寝ずの番だぞ。起きろ!ん?・・・何だ起きてるじゃないか。」
絶望が襲う。どうやら隊長は気絶せずに済んだようだ。
「ち・・・ちきしょおおおおぉぉぉぉ!」
マジで恨みたくなった。藁人形でも買うか