自業自得
第2章スタート!
part ハルス
・・・ドウシテコウナッタ
デーア大陸の北側にあるミビリス火山の調査へ向けて出発した俺たち魔族騎士団第五部隊。
北側の大地は火山があるにも関わらず、年中無休で雪が降り続ける。そのため車輪などが痛みやすく馬車殺しで有名だ。
だが俺達の乗ってる馬車は騎士団が特注で作った代物。どんな道でも問題なく走れる。日の中水の中何でもござれだ。
問題なのは馬車の中と追ってくる奴らだ。
「レ、レヴィー!しっかりしろー!寝るなー!今戦闘中だぞおおおおおお!!」
「んみゅぅ・・・寒い・・・寒い・・・寒い・・・眠たい・・・」
「あちゃー、参ったね・・・犬くーんまだ追ってきてる?」
「やばいですよこれ!!?だんだん追いつかれてます!!やっぱり雪原じゃスノーウルフの方が速いです!!シジマさんもっとスピードだしてぇ!!!」
パシンパシンと馬の手綱を振るう透明になっている魔族シジマ。俺と同じく後ろ方向を双眼鏡で覗きギャーギャー喚く犬魔族のポピー。完全に機能停止し、いつの間にか赤い髪に戻った蟹魔族のレヴィ。それを必死に起こそうとする蜘蛛魔族で呑んだくれのタイナと鷹魔族で不良騎士のリチャード。
いやー、油断した。レヴィという最高戦力がいるから余裕だろと考えていたが甘かった。
「まさか冬眠するとはなぁ・・・オラァ!!」
黄色の2つの術式を重ねて魔法を発動する。1つ目は尖った岩を生産する術式。2つ目はそれを飛ばす術式だ。
岩はまっすぐ突き進み先頭に走っていた雪狼の眉間に突き刺さり即死させるが・・・
「くそ!!何頭いやがんだ!!タイナ、リチャード!レヴィはまだ起きないのか!!」
後続する雪狼の群れが倒れた死体を踏み潰しながら突き進んでくる。本来雪狼は五匹で1グループなのだ。その程度ならこの人数で余裕で退治できるのだが・・・
「目に見える数で30は余裕でいるぞ・・・!リーダーを倒さねぇとキリがない!!」
しかもスノーウルフは雪の中に潜れる。この中で雪の中に身を隠しながら移動している奴もいるはずだ。
「ポピー!群れのリーダーは見つけたか!!」
「・・・?いえ・・・見当たりません!!何処にもいません!!」
・・・いない?どういう事だ?雪の中に隠れて・・・それはねぇな、リーダーってのは基本見えてなくちゃ存在価値が激減する。それに今隠れてコソコソする必要はない。
「もしかしたらハルス隊長、この数って・・・グループじゃなくて群れの本隊じゃないですか?」
・・・リーダーのいない群れの本隊?
おい・・・だんだん読めてきたぞ・・・つまりこいつら
「誰かに巣穴を追い出されたのか!!畜生!!」
そうだとしたら獲物を取るのに諦めるわけがないし、神経が過敏になり攻撃してなくても敵討の如く追いかけてくるだろう。
とそこで俺とポピーの後ろ、リチャードとタイナがより騒がしくなる。
こんな時に何やってんだあいつら・・・!
「タイナ、それよこせ!!早く!!!」
「ま、マジで・・・!?いやいやいやいや!!これ外したら私達凍え死ぬよ!!?」
「うるせぇー!!さっさと炎熱魔石よこせー!!レヴィがいないとどっち道俺達死んじまうぞ!!ポピーと隊長もだ!!よこせぇ!!」
そう言って俺達のポケットから魔石を奪っていく。ポピーがギャーギャー騒いでリチャードから取り返そうとするが片手で処理されている。
まぁ俺は〈耐寒毛皮〉でへっちゃらなんだが、みんながズルイだの何だの言ってきそうなので寒い振りをする。
「先輩いいいいいいいいいいい!!!!!!がえじでぐだじゃいいいいいいいいい!!!!!!」
「ととととと、と、鳥くんんんんんんん!!!早くしてえええええええ!!!」
・・・本当に毛皮があってよかった。
リチャードがすぐさまレヴィに4つの炎熱魔石を押し付ける。その後リチャードも寒さで震えだす。
「や、ヤベェ、北の大地甘く見てた!!?超寒うううううううううううううううううう!!!!」
だがレヴィはまだ動かない。その間にも雪狼達も距離を詰めてきており、もうすぐそこだ。流石に寒さに耐えかねた三人が叫んでしまう。
「「「さっさと起きろ!!!この寝坊助脳筋不気味蟹女!!!!!」」」
ピクリと反応し、そのままユラァ〜と立ち上がる蟹。だが様子が変だ。
「だーれーがー、寝坊助脳筋蟹女だおらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「「「ってあの狼どもが言ってましたああああああああああああああああああ!!!!」」」
「ブッコロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオス!!!!」
酷い擦りつけを見た。つーか狼はしゃべんねぇよ。こいつら本当に騎士か?責任者は誰だ!!・・・俺ですごめんなさい。
寝起きと悪口でブチ切れた完全覚醒レヴィが荷物から鉄製のメイス二本を取り出し、全身を血のような真っ赤な甲殻で包む。顔の真ん中にある黒のラインから1つの赤く光る眼光が輝く。
「・・・行ってきます」
そう言って走る馬車から飛び降りて行った。その後メキョ!!という音が聞こえたのは聞き間違いじゃないだろう。後方から雪狼の断末魔が聞こえてくる。
途中まで馬車を走らせた後みんなで現場に戻ってくると白い雪の大地が真っ赤に染まり、スノーウルフの死体の山ができていた。
「あ!皆さん無事でしたか!!すみませんでした・・・完全に寝ちゃってて・・・」
「お、おう、あとな・・・レヴィ」
「はい」
「町に着いたら風呂に入ろうな・・・」
レヴィの現状は返り血塗れで所々にピンク色の臓物と思われる物がついている。正直あまり見ていたくない。
風呂というワードを聞いて逃げ出そうとするレヴィだが、そうは問屋が卸さぬとタイナが麻痺毒仕込みの蜘蛛糸を作り、リチャードがそれを風魔法でレヴィに向けて吹き飛ばす。あえなくレヴィはその場で倒れる。
「レヴィ・・・没収」
「ちょ・・・何を・・・ああああああああ!!!!寒いいいいいいいいいいい」
リチャードがレヴィから炎熱魔石を回収し蟹が再び冬眠する。魔石をポピーとタイナに渡し、最後に俺に渡そうとするが・・・疑いの目で見つめてくる。他のみんなもだ。
「・・・隊長」
「?な・・・なんだ?」
「なんで寒そうじゃないんだ・・・?」
「あ」
全員が裏切り者を見るような目で睨んでくる。
「えっと・・・だな、これは、その」
「隊長」
「はい」
「レヴィを一人でおぶって行ってくださいね」
「ちょ・・・!いや待てよ!!レヴィは華奢のように見えるが結構重いんだからな!!みんなで一緒に「へぇ・・・重い、ですか」・・・」
ギギギと顔を足元に向けると丸くなっている全身赤い甲殻で身を包んだレヴィがいた。だがドンドン甲殻の厚みが現在進行形で増えていた。リチャードとタイナ、ポピーはもはや走り去っていた。シジマは当然いない。
「あ、あのー、レヴィさん?せめて全身甲殻を解除してもらえないでしょうか?」
「〈重装甲殻〉・・・グゥグゥスヤスヤ」
「・・・ドウシテコウナッタ」
その後なんとか超重いレヴィを抱えて戻ってきたがみんなから無視された。
俺・・・隊長だよね。