0-5 拳と蟹と巨赤鬼
part 巨赤鬼
コイツ ツヨイ オレ ハ コンナヤツ マッテイタ。ドイツモ ニゲル カ ヨケテ メンドウナヤツ バカリ。ツマラナイ。デモ コイツ チガウ。オレ ノ ウデ ニ ウデ ヲ ダシテクル。チカラクラベ オレ モトメテタ。フルサト カラ デカイカラ オイダサレタ。ズット タビ シテタ。 コイツ ト タタカウ タノシイ!ウデ カナリ イタイ、デモ タノシイ!!
part 蟹
この巨赤鬼かなり強いですね。戦いを楽しんでる感じがします。とんだ暴れん坊ですね。
そう思いつつ、もう何度も相手の繰り出してきた拳に自分の拳を打ち付けている。わざわざ力比べをしているのは此方に注意を惹き付けるためだ。回避をしては此方を無視し先に始末できる方を潰しに行ってしまう懸念があった。
腕に尋常じゃない衝撃が入るが、それは向こうも同じだろう。私の赤い甲殻に覆われた右腕と、巨赤鬼の巨大な右腕が再びぶつかり合う。私の甲殻が音を立てひしゃげ、割れた隙間から血が出てくる。だが巨赤鬼の腕からブチブチと筋肉が引きちぎれるような音がする。お互いにダメージは相当なものだろう。
「ぐ・・・!」
お互い顔をしかめてしまうが、腕の痛みを無視して今度は左腕を上げぶつけ合う。
轟音。そして腕から体中に駆け抜けていく痛みと衝撃。何とか足に力を入れ踏ん張る。が直ぐに巨大な右腕が迫ってきた。普段ならここで巨赤鬼の腕の横に攻撃を当てて起動を逸らしたりするが、上手く体が反応出来ない。慣れていない体という事態がここにきて足枷に感じ始める。
「な!・・・ぐううぅぅぅ!!」
体全体にかかるとてつもない衝撃。体中を覆う甲殻がビキビキと音を立てヒビ割れる。
だが空中に投げ出された自分の体に力を加え一回転し、地面に着地して直ぐに巨赤鬼に向けて跳ぶ
「やああぁぁぁぁぁぁ!」
声を上げながら体に回転を加え、遠心力が加わった回し蹴りを巨赤鬼の首本に叩き込む。
バァン!とぶつかった音とベキベキと骨が砕けるような音と足から感じる手応えがする。結構なダメージになったようだ。だが、
(何で腕で守らなかった?まさか!)
気づいた時には巨赤鬼は両手を組み金槌のような形にし、両腕を振り上げていた。
「ヤッバ・・・!」
アームハンマーが振り下ろされる。
直撃。甲殻が完全に砕け、体中にとてつもない衝撃が走る。そのまま受け身もとれず、目に見えない速さで地面に衝突する。
「がっ・・・!?」
意識が朦朧とするが震える足に力を入れ何とか立ち上がる。流石にもう一回死ぬかと思った。自分でも何で生きてるのか不思議だ。立ち上がる私を見て驚愕の表情をする巨赤鬼。そして何故か嬉しいハプニングのように笑いだす。
「ゴハハハハハ!」
やがて笑いを止め、直ぐに腕を持ち上げ構える。そして一気に勝負をつけようとしたのか、ラッシュを叩き込んでくる。腕の悲鳴を無視しこちらも徐々に速くなるそれに答える。
ドカ ドカ ドカ ドカ ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
「ハァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「ゴアアァァァァァァァァァァァァァ!!」
ドゴォォォォォン!!!ラッシュで最大の勢いの乗った拳と拳が最後にぶつかる。
その勢いは足で踏ん張る事も出来ず、私の体が後ろに吹き飛び木にぶつかる。
ダメージが想像以上に高く、意識が明滅する。だが巨赤鬼も限界だったようでその場で力なく倒れる。
その光景で疑問に思うものが目に映る。巨赤鬼が満足したような顔をしてるのだ。
(何で笑ってるんだろう)
だが彼女が自分自信笑ってることに気づくことはなく、そのまま意識が沈んでいく。
part ハルス
なんじゃこりゃ・・・ 先ず最初に思ったのがそれだ。リチャードとポピーの下に駆け寄り、回復魔法を促した後巨赤鬼の方を向くとそれは始まっていた。
魔族の拳と巨赤鬼の拳のぶつかり合い。そんなバカなという光景があった。思わず言葉を溢した感じで質問してしまう。
「・・・アイツはいったいなんだ?」
だが、その問いに答える者はいなかった。あの魔族はいったい・・・と考え込んでいると。
「回復が終わりました!」
という部下の声が聞こえてきて、現実に引き戻される。そこに目をやると、少し疲れた様子のポピーと足が治っても呆然とあの光景を見ているリチャードが視界に写る。
「大丈夫か?」
と声をかけると「え、あ、ああ大丈夫だ隊長」と上の空の様な返事を返してきた。
「よし、お前ら俺達も行くぞ。」
「「え・・・」」
コイツら「俺達もあの化け物大合戦に行くんですか?」という感じで顔を青くしている。
このバカ共・・・!
とその時、あの赤い魔族が巨赤鬼の首に強烈な蹴りを入れた。バァン!とデカい音が鳴る。
やったか!?と思ったが赤い魔族が今度は地面に叩きつけられた。あんな攻撃を受けて生きてるはずがない。
チクショウ!そう思い撤退の声を上げようとするが、再び立ち上がったのだ。あの赤い魔族が。
夢なのかこれは?巨赤鬼が笑い出したが直ぐに止め、戦いが再開する断続的なぶつかり合いがリズミカルで連続したものに変わった。
化け物共がラッシュを始めたのだ。あそこに割り込んだら直ぐに体の原型を無くしそうだ。俺も行きたくなくなった。だが魔法の援護ができると魔力を練ようとすると、赤い魔族が此方の近くにあった木に吹き飛んできた。
あちこちの甲殻は割れそこから血が溢れており、意識も朦朧としている様子だ。
ヤバい!と思い巨赤鬼の方に顔を向けると、ドサッと力無く倒れた。
まさか力押しだけで巨赤鬼を倒したのか?と再び赤い魔族の方に視線を向けると完全に意識を失ってるようだった。俺は慌ててポピーに回復を促す。
「ポピー回復してやれ!」
「は、はい!」
「は、はは、ははは・・・」
リチャードはもはや笑うしかなかったようだ。
俺は赤い魔族の事はポピーに任せ、倒れている巨赤鬼に向かう。巨赤鬼の討伐の証として黒い角を持ってく必要があるからだ。生きてるかもしれないので慎重に近づく。
「死んだフリじゃねぇだろうな・・・急に動き出すなよ・・・」
そう口にしつつ巨赤鬼の下にたどり着いた。持っている大剣で突っついてみるが、反応はない。念のため首を落としておこうと首に刃をいれる。
part ポピー
「うへぇ・・・これ生きてるのかなぁ」
そんなこと言いながら僕は赤い魔族に魔力を両手に集中させて、回復魔法を使い暖かい光が出てくる。赤い魔族は体中の甲殻が割れ、そこから大量の血が流れている。
「まず、止血からか」
そう思い、手の平に集まってた暖かい光を赤い魔族の人の体全体にを広げる。次第に割れた甲殻が何とか繋がり、血は止まった。だが甲殻の色は白く、まだ甲殻としては機能しないだろう。衝撃を加えるとまた割れて出血してしまう。
だが問題は腕だ。
「これ元に戻るかなぁ・・・」
完全に骨が折れており、甲殻が割れてるのではなく、無いのだ。赤く蠢めく筋肉と神経は長く見ていたい物じゃない。
おそらく最後のラッシュで吹っ飛んだのだろう。
「なぁ、それ生きてるのか?」
先輩が話しかけてきた。手持ち無沙汰なのだろう。まだ混乱が抜けきっていないのか、何故か警戒している。
「先輩、命の恩人をそれ呼ばわりですか」
「あ、いや、なんというか不気味でつい・・・」
まぁ、わからなくもない。赤い甲殻をして、赤い一つ目、今まで見たこともない魔族。十分不気味だ。
たが僕達の命を救ってくれたのは間違いない。そこで先輩にお願いをした。
「先輩、この人の砕けた甲殻を集めてくれませんか?そうすれば間違いなく治療出来るのですが」
「はぁ!?俺が!?この不気味な奴の!?「先輩」
僕は先輩に向けていう。
「命の恩人、ですよね」
「う・・・わ、わーったよ、やればいいんだろ、やれば!」
流石に命の恩人を蔑ろには出来ないらしく、半ばヤケになりながら集め出した。その間、僕はその他の部位の治療を行った。
そして暫くして、巨赤鬼の角を持った隊長と、血に濡れた赤い甲殻の山を嫌そうな顔で持ってきたリチャード先輩が戻ってきた。
「こ、これで良いかよ?もうこんなの勘弁だぜ・・・」
体のあちこちを血と肉で濡らしながら、甲殻の山を僕の下に置く。
「はい、これで大丈夫だと思います」
僕は赤い魔族の腕に赤い甲殻を置き回復魔法をかける。すると甲殻は腕に張り付いたが・・・止血はできた。だが割れ目を完全に修復できず、僕の魔力は尽きてしまった。
「すみません隊長・・・限界です」
「仕方ないか・・・お前らコイツ抱えてこの森を出るぞ」
先輩は案の定嫌な顔をしたが、隊長には逆らえずぶつぶつ言いながら運び出した。