朱と黒
広い霊園のとある1つの墓の前に少年と少女。
「ひっぐ、うう…ひっく」
「朱音…」
少年は少女の頭を撫でながら天を仰ぐ。
薄暗い空は少女の心を代弁するかのようにしとしとと冷たい雨を降らす。
とある冬の、珍しく雨の降る日だった。
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「くろにい、おにごっこしよー!」
「また鬼ごっこか…ほかの遊びはないのか?」
「むー…はしるのすきなんだもん!」
そういって幼い妹―朱音は公園のブランコのある場所へと走り出していってしまった。
「…よく走るだけで飽きないな」
そういって少年―黒羽はベンチに座り、母から渡してもらった水筒を取り出す。
「あかねー、お茶いらないのかー」
「いるー!」
そう言って我が双子の妹は一目散にこちらに走り寄ってくる。
「ほら、あかねの分」
そう言ってコップを差し出すと朱音はキキッと止まった。
「ほら、どうぞ」
「ありがとー!」
朱音は黒羽からコップを受け取ると美味しそうに麦茶を飲む。
「んく、っく、ん…ぷはあ」
生き返った!と言わんばかりに爽やかな顔の朱音。
俺は苦笑いしながら朱音の手を取る。
「ほら、もう5時だ、お母さんに心配かけないうちに帰るぞ」
「えー…わかった…」
朱音は感情豊かな妹だ。明日も来れるというのにこうしてしょんぼりする。
「明日も来れるだろ?また一緒に遊ぼう?」
「…うん」
そう言うと心做しか少し明るい表情になる。
2人で手を繋いで帰った、ある日の記憶。