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意地の張り合い

 私の教室。生徒会室。温室前。園芸部の部室前。

 どうやら会長は、私の行動パターンを覚えたようだ。文化祭明けの月曜日に比べて、場所移動の間隔が早くなっている。


『アンタ本当に性格悪いわ』

「くくっ、追われたら逃げたくなるのは、当然の心理だろう?」

『アンタにとってはね』


 言葉のわりに楽しそうな声で返してきたのは、文化祭中に番号を教えてもらった花咲さん。彼女は、早くも私に好意的な態度で接してくれる。ちょっとずつだけれど。

 それでも、私に番号を教えてくれるなんて、以前の花咲さんじゃまず有り得ないからね。


『どうせ尊サマと約束か何かしてるんじゃないの?』

「約束はしてないさ。してたら、こんな風に逃げ回ったりはしないよ」

『······それにしては、しつこく探してる気がするけど。······情報部隊を形成して、尊サマの位置情報集めて逃げるなんて、尊サマが可哀想になってくるわ』

「あっちにはファンクラブという協力者がいるんだ。情報提供だけじゃなくて、実際に動いてくれるレディ達がね」


 充分フェアでしょう、と言うと、ファンの子達は自主的に動いていることを知ってる彼女は、溜め息を吐いた。


「溜め息とか酷くな~い? 私、一昨日彼のファンクラブの子に会った時、追いかけまわされたんだよ?」

『追いかけまわされたって······窓から飛び降りて、一瞬で終わったじゃない』

「あっちも二階にいたんだし、飛び降りてきたら良かったのにね~」

『普通するワケないでしょ。ってか、こんなに長話してていいの? アンタ移動してないでしょ? どこにいんのよ。尊サマは今、図書室前にいるらしいけど』

「千尋情報かな? 私はしばらく動いてないし、ファンクラブか桐生会長のどっちかが私を見つけても、おかしくないんだけどねぇ」

『どこ?』

「ふふ、内緒」

『······理由は知らないけど、何とかしてよ。毎日教室に来られちゃ、迷惑なの。クラスの尊サマのファンも、良い顔はしないし』

「おやおや。もうちょっと遊びたかったんだけどな」

『これを遊びって言うアンタの価値観が分かんないわ。HRまでには戻りなさいよ』

「了解。じゃあね~」


 電話を切った後、携帯電話を閉じてカバンに入れた。

 会長は多分、私が告白に対しての返事をしてないから、探しているのだろう。最近生徒会室にいってないから、あそこで待つとかもできないしね。

 仕事の方は、来週の分まで前倒しでやってるから、全く問題ない。


「会長まだかな~」


 小さく笑って、足をぶらつかせる。今腰を下ろしているここは、定期的に掃除しているためか、人目につかないのに綺麗だ。掃除の際に点検もされているようで、私が座っても、軋みすらしなかった。

 会長と追いかけっこを始めてから、もう五日目。毎回、私の教室からスタートして、生徒会室、温室、園芸部の部室へと移動してから、適当に二回移動した後、ここに来ている。

 前半の三ヵ所は、次にどこに行くか普通にバラしてるから、この追っかけっこを面白がってる誰かが、会長に教えているのだろうけれど。

 それ以降は、気分で行く場所を変えているうえに、どこにいるか聞かれても答えないからね。といっても、すぐに移動して、最終的には必ずここにいる。難しい場所でもないし、見つかるはずなのになぁ。

 実際、下を通った人は、何人かいる。会長のファンクラブの子達だ。でも私を見つけられず、どこかへ行く。

 会長から逃げてるのは本当にお遊びだし、会長が来れば自分から降りるつもりだ。かくれんぼには、もう飽きたんだよね。


「······おお」


 噂をすればってやつかな?


「会長、こんにちはー」


 彼がこちらを見上げたのを確認して、体育館倉庫の屋根から飛び降りる。彼は大きく目を見開いた。そりゃ声がして上見たら、探してた奴が飛び降りて来てんだもんね。


「よいしょっと」

「乙! お前、何してんだよ!」

「私を必死に探してくれる王子様を待ってたら、ようやく来てくださったので」

「『王子様』って、お前なぁ······。俺を待つんだったら、そもそも逃げるなよ」

「ちょっと遊んだだけじゃないですか~。いやね、会長はどう動くのか、知りたくって」

「他人で遊ぶなよ······」


 会長が、がっくりと肩を落とした。その様子を見て、私は淡々と告げる。


「私は、こういう奴ですよ。自分第一で、自分以外がどうなっても構わない、自分が楽しかったらそれでいい典型的な利己主義者。まぁ極論言えば、人間は全員利己主義者になりますけど、それは置いといて」

「······何が言いたいんだ?」

「やだなぁ、分かるでしょう? 私の傍にい続けるなんて馬鹿な事、止めた方が良いですよってことです」

「お前は俺と付き合うのが、そんなに嫌か?」

「別に。私は白馬の王子様を待つような奴ですから、誰かと付き合ったら、その人とのハッピーエンドしか望まないので」

「それは、俺がお前とい続けたら良いんだろ?」


 ······軽く言うなぁ。


「恋人だったらそれで良いワケじゃないんですよ? 私から気持ちが離れたと判断したら、すぐにどこかへ閉じ込めますよ?」

「即殺すんじゃないのか」

「下準備がいりますから。後、その時の怒り具合によって、最期まで可愛がるのか、ひたすら苦しめるのかも変わってきますし。すぐに殺しはしませんよ。死ぬのに変わりありませんが」

「まぁ別に構わねぇよ」

「分かってませんねぇ。······というか、どうしてそんな拘るんですか。貴方なら、優良物件がたくさんあると思いますが。私に対しての執着心も、ここまで拘る程じゃなさげですし」


 私みたいなのを選ぶ理由が分からない。そう思って彼に尋ねる。

 返ってきたのは、ある意味意外な答え。


「確かに、一割ぐらいは意地だな」

「······ははっ」


 単に意地張ってるだけじゃないかとは思っていたけど、先に本人が認めたのがおかしくて。

 私はつい、笑ってしまった。会長の不審そうな視線が刺さる。私を笑わせるような事を言ったのは、そっちだってのに。

 いや、私への好意だけじゃなくて、そういう不純?な理由もというのが、ツボに入った。会長には分からないだろうがね。


「あはは、分かりました。良いですよ、くくっ、その意地の張り合い、付き合います」


 頑張って笑いを堪えながら、言葉を紡ぐ。今誰かが来たら困るなぁ。


「······は⁉」

「ワクワクしますねぇ、会長は最後まで私を好きでいられますかね。ふふ、楽しみですねぇ」

「乙、それ······」

「ええ、会長がよろしければ、これからお願いいたします」

「俺が断るワケねぇだろ!」

「ここで断られたら、乙女の心を傷付けた代償として、私が屋根に上るのに使ったそこの木で、首吊ってもらうところでした」

「物騒だな」

「今からキャンセルしても遅いですよ」

「しねぇよ」

「じゃあ問題ありませんね」

「······なんだかな······」

「おや、嬉しくないんですか?」

「嬉しいには嬉しいんだが、お前の態度のせいでときめきやら何やらが一切ない」

「私はこういう奴ですよ。色んな意味で、頑張ってくださいね」

「ああ」


 会長の言う通り、出来立てほやほやカップルとは思えない雰囲気。それでも別に······。


「乙」

「はい?」


 彼の顔が近付いてくる。表情的に何をしたいのか予想がついて、私は身を引いた。


「会長、どうなさいましたか」

「······お前、分かってて逃げただろ」

「会長が早すぎるんですよ。付き合ってすぐって、会長とは思えない早さですね」

「その言い方は酷くねぇか⁉」

「自分のものになった途端、態度を豹変させる······そんな女に引っかかって、可哀想な会長」

「······お前との距離が近くなったんだ、と思っておく」

「おや、もう私の扱い方分かりましたか」

「面倒くさそうなのは、よく分かった」

「頑張ってくださいね。私から譲歩するつもりは、ほとんどありませんから」

「全くではないんだな」

「そりゃ、0.3ミリぐらいはありますよ。······あ、すみません」


 ポケットの中の携帯電話が、情報部隊用に設定している音楽を流す。嫌な予感を覚えつつ、届いたメールを開く。


「······会長」

「どうした」

「しばらく近付かないでくださいね」

「はぁ⁉」

「さっきの場面、見られてたんですよ。ついでに、私が逃げるところまで。だから会長が嫌がってる私に無理矢理、みたいに誤解······誤k······誤解?されてるんです」

「誤解だろ⁉」

「あはは、冗談ですよ。メールの内容は本当ですけど。面倒なので、会長とのお付き合いは内緒方面でいきますね」

「ファンクラブの奴らが騒いだら、お前に被害が出るしな」

「いや、単に伝えるのが面倒なだけなので、その辺は気にしてませんけども。進んで言うつもりはないってだけですよ」

「ファンクラブなんてのがいる相手とのことを、進んで言う奴はいないんじゃないか?」


 会長が笑いながら言う。

 ······一人、該当者がいなくはないんだよねぇ。


「天音とかがそれですよ。あいつの場合、付き合ってない人とも『付き合った』みたいなこと言いふらしてますから、ある意味違うんですけど」

「······お前の従妹は、なんというか······理解できないな」

「私も理解できません。理解する気もありませんしね。······あー、もう結構な時間ですね。こんなに遊んだつもりはなかったんですが······。教室に戻んないと」

「あ、乙、その、今日から一緒に帰るとか、するか?」

「私の家が近いので、あまり意味はないかと。会長、駅の方へ行くでしょう? そしたら、方向も逆ですから。じゃあ、また生徒会室で」

「······おう」


 しょんぼりしたような声。私は小さく笑った。




 教室に戻ると、真っ先に花咲さんが駆け寄ってきた。クラスの子の反応を見るに、会長との関係が既に広まっている、ということはなさそうだ。

 真面目に考えたら当たり前だけどさ。


「ちょっと!」

「何だい?」

「来て」

「もう五分前のチャイム鳴ったよ?」

「そこまで遠出はしないから、早く来なさい」

「はーい」


 相変わらず強引な彼女についていく。······あの、どんどん教室が離れていくんですが。······まぁいっか。

 目的地に着くまでの時間も惜しいのか、花咲さんは動きを止めることなく話し出した。


「アンタ、尊サマに見つかったの?」

「見つかったワケじゃないけど。どうして?」

「南と図書室行ってたら、体育館の倉庫んとこで、アンタと尊サマがいるのを見たからよ」

「千尋と一緒に? 二人、図書委員だっけ?」

「そんな面倒なのやるワケないでしょ。アンタを探してたのよ。チャイムが届かないとことかもあるから、そこにいたら気付かないかと思ったの。アンタ見つかったんじゃないなら、何で尊サマと一緒にいたの?」

「やだ、怒ってる?」

「攻略対象に、そういう意味での興味はないわよ」

「そう?」


 ようやく目的地に着いたらしい。連れて行かれたのは、薄暗い階段の踊り場。

 どうしてこんな所に、と思う程不便な位置にあるから、内緒話にはそれなりに使える。

 完全防音の談話室の方が、内緒話にはピッタリなんだけどね。


「説明が面倒だから省くけど、私、倉庫のところで桐生会長待ってたんだよね。そこに桐生会長が来ただけの話」

「待ち伏せするんなら逃げなきゃいいのに」

「それ桐生会長にも言われたよー。いやさぁ、最初は桐生会長が私を捕まえるのを楽しみにしてたんだけどね、無理そうだなーって一日目に悟ったから、人の少ないところでの待ち伏せに変えたんだよ」

「ふぅん。ま、尊サマと話したって事は、何か問題は解決したって事よね」

「そういう事」

「何で尊サマがアンタを探してたの?」

「さぁ? ······ってかその『尊サマ』呼び、いつまで続けるんだい? 真顔で連呼するから、危ない人に見えてくるんだけど」

「ずっと『尊サマ』って呼んでたから、直すのが面倒なのよ。本人の前じゃ名前で呼んでんだから、問題ないでしょ」

「いつか間違えそうで怖いねぇ」

「アンタもいつか攻略対象の誰かと付き合いそうで怖いわ」


 ······うっわ。


「私が? ははっ、有り得ないでしょ」


 花咲さん鋭すぎるわ。何でこのタイミングなんだよ。私のセリフが嘘になるじゃないか。


「······アンタ、『君想』どんだけやり込んだ?」

「全員分のハッピーエンド、藤崎先生のみバッドエンドも。特殊エンドはやってない」

「損してるわね。幼馴染みエンドとか双子エンドとか、超萌えたわよ」

「アレだよ、『乙 綾』を告発するときのやり方が酷すぎて、ハッピーエンド一応さらって止めたんだよ」

「それでもアンタ、ハッピーエンドは全員分見たんでしょ? だったら、何で気付かないワケ? 冷静に攻略時の情報と照らし合わせてみたら、完全にアンタ全員攻略してるじゃない」

「え? ないないそれはない」


 会長は事実だったとはいえ、他の人はさすがにない。


「明らかにそうでしょ。南も気付いてたわよ」

「そういう風に見えるだけで、実際は友情向けられてるだけだよ。私、彼らを攻略するような事、一切してないもん」

「······じゃあ、今日のところは、そういうことにしてあげる。そろそろHRの時間だしね。誰かと付き合ったら報告しなさいよ」


 えーっ······。うーん、花咲さんに、これ以上嘘は吐きたくないしねぇ。


「何それ、皆に広める気ー?」

「そんな事しないわよ。過程を聞くだけ」

「絶対?」

「絶対。逆に広めてどうすんのよ。アンタが否定したら、一瞬で終わるじゃない」

「一瞬で、はないと思うけどね。それに、私が大切な友達の君を貶めるような真似、すると思う?」

「するでしょ。アンタ、裏切り行為は嫌いなんでしょ?」

「あはは、よく分かってるねぇ」


 意外と、彼女は私との関係を保つためのルールを、理解してくれているようだ。

 私は口角を上げた。


「君の言う通り、私は裏切られたら、すぐに友達をやめる人だからね。迷わず君を悪人に仕立て上げるよ。何故かは分からないが、こんな私に無条件で尽くしてくれる人は、結構いるからさ」

「······知ってるわよ、そんぐらい。······教室に戻りましょ。走んないと、間に合わないかも」

「君がこんな遠いところに連れてきたんでしょー」

「煩いわねっ」

「怒らないでよ~」


 花咲さんと走りながら、結局彼女の質問には答えていないことに気付く。

 でもまぁいっか。

 内緒は多いに越したことはない。······あー、こういう考えも、直さなきゃダメなのかな。会長は、どうやったら私とずっと一緒にいてくれるかなー?

 ······なるようになるよね。

とりあえずこいつのルートの本編は書き終えたった。なんかもう恋愛小説として成り立ってない内容になったけど、もうそこは許してくださいお願いします。

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