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勘違い?

 適当に男に話を合わせながら、校門へと誘導する。

 男の名前? 『桐生さん』で事足りるから、覚える必要がない。


「澪ちゃんさぁ、本当に尊の恋人じゃないの~?」

「もう、違いますってば! さっきから何度も言ってるじゃないですか」

「ははっ、ごめんごめん」


 頬を赤らめて怒ると、笑いながら謝られる。二人で歩き出してから、一体何回この会話を繰り返しているんだろう。

 私に会話を楽しむつもりがないからか、そもそもこいつと話が合わないのか。こいつといるのは、予想以上につまらない。

 校門までの最短距離を考えていると、男が、今までとは少し調子の違う声で言った。


「こんだけ聞いても否定ばっかってことは、やっぱ尊の恋人じゃないんだね」

「やっと信じてくれました?」

「うん。······あいつの事だから、卒業式の日にでも、告るつもりなんだろうな」


 男の発言の意味を理解できず、首を傾げた。


「あ、やっぱり気付いてないんだ? 澪ちゃんって、鈍感そうだもんね~」


 うるさいな。顔覗き込んでくるなよ。何で立ち止まるんだ。壁ドンなんてするんじゃない。瞳が綺麗でもない奴に壁ドンされても、嬉しくないんだよ。

 うっわ······。顎クイしてくるとか、どんだけ自信家なんだよ······。あー、そういえばゲームの中で、会長が顎クイしてるシーンあったな。何だよお兄さんの影響か。

 顎クイは、二次元で見ても萌えないんだよね。男優位っていうか、男が慣れててヒロインちゃんが初心って感じなのが。

 ヒーローもヒロインちゃんも初心ってのが可愛いんだよ。そこで男の方が勇気を出してry

 ······ダメだ。手裏剣の浮かぶ裸眼()が近付いてくるから、現実逃避をしていた。

 とりあえず、困惑してるけど拒否はしない、こいつに好意的な大人しいレディを演じねば。


「桐生さん?」

「もし、澪ちゃんと尊が付き合ってたら、考えたけど······尊の片想いなら、俺が澪ちゃん奪ってもいいよね」


 ああ、やっとこいつの言いたいことが分かった。

 こいつは、会長が私に片想いをしてると思ってて、おそらく会長への嫌がらせで、私を奪うっつってんのね。


「······馬鹿ですねぇ」


 小さく零す。顔を傾けていた男は、眉を顰めて。


「⁉」


 後ろへと飛んで行った。


「わ、乱雑~」

「······乙、お前、何で逃げないんだ」


 わざとらしく驚いて見せると、自分の兄の襟を掴んでいる会長が、呆れ顔で言った。

 逃げろって言われてもね。


「ほら、後ろ、壁でしたし」

「それでもお前なら逃げられただろうが!」

「それはそうですけど」

「じゃあ逃げろよ! それとも、あのままで良かったのか?」

「まっさかー。間近でその手裏剣模様見続けるなんて、目がチカチカしてキツいですよ。第一、その人気持ち悪いんですよ。欲を隠そうともせずに、こっちをジロジロ見てきて」

「······酷い言い様だな」

「そんなことより、桐生会長。いつからつけてきてたんですか?」

「最初からだ。こいつがお前に手ぇ出すことは、予想してたからな」

「この人、そんなに素行悪いんですか······」

「普段の女癖の悪さもそうだが、お前は······まぁ、特に狙われやすかったんだよ」


 会長が言葉を濁す。お兄さんのいる場所では、話せないのだろうか。

 ······後で聞けばいいかな。


「桐生会長、その人どうします? 天音がまだ外で騒いでるんで、その人に天音を処理してもらうつもりだったんですが、その人頼みを聞いてくれそうにありませんし」

「お前の従妹と、まとめて片付けるか?」

「そうした方が良さそうですね。知り合いが門の方に先生を呼んでくれてるので、私達もそっちに向かいましょう」

「いつの間に頼んだんだ?」

「ついさっきです」


 嘘だけどね。

 さっきのは、男の反応を見るために言ったハッタリだ。こいつの反応次第では、本当に先生を呼ぶけど。


「待て、おい、尊ッ」

「うるせぇよ、動くな」


 男が顔を真っ青にして暴れた。やっぱり、先生に補導されたら、かっこ悪いしね。でも、会長は顔を顰めただけで、何もしない。見苦しく暴れる男を、鬱陶しそうに眺めるだけだ。

 会長の力が強いのか、男が弱いのか。まぁこいつは通報されたがってないようだし、取引を持ち掛けてみましょうかね。


「桐生さん。私、今、困ってることがあるんですよ。桐生さんなら、簡単に解決できます。ですから、それを解決してもらえませんか? 代わりに、先生に引き渡すのはやめます」


 二人が驚いたような顔をする。会長は嫌がるかと思ったが、案外嫌そうな顔はしていない。よっぽど自分の兄に興味がないのだろう。


「今、門のところに、女がいます。そいつ、イケメンと遊びたがってるんですよね。そんな理由でここに来られても、迷惑なんです。ですから、桐生さんがあいつをナンパして、どっかへやってくれませんか?」


 無茶な要求ではないからか、男は顔を輝かせた。私の頼みを聞いてくれたからって、先生にチクらないとは限らないのにねー。いや、ちゃんとやってくれたら、黙ってるけどさ。


「乙、こいつは逃がすのか?」

「逃がす······まぁ、そういう事になりますね。桐生会長が嫌でしたら、やめますけど」

「俺は別に構わない。こいつがどうなろうと、興味はないしな」

「あはは、それは良かった。じゃあ、桐生さん、お願いしますね。あ、無理矢理とかはダメですよ。後始末が面倒なので」

「人道的な問題でダメだろ」


 会長が男の襟から手を離すと、転びかけながらも男が走っていく。人通りが少ないし、男が誰かにぶつかる心配はなさそうだ。

 男は早くも校門に到着して、天音に話しかける。上手くいくか監視しながら、私は会長に尋ねた。


「会長、何で私は、特に狙われやすかったんですか?」

「あー、あれだ、お前の見た目が、あいつの好みなんだよ」

「うっわ投げやり~。次は嘘を吐かないでくださいね」

「一瞬で分かるとか、お前怖いな」

「会長の嘘が分かりやすかったんですよ。で、どうしてなんですか」


 改めて尋ねても、会長は答えなかった。引くつもりはないから、ひたすら答えを待ち続ける。

 あ、男は無事に天音を連れて行ってくれたみたいだ。さすが。天音の父親は、とりあえず娘を音羽学園から追い出せたことで安心したらしい。男と共に行く娘を、止めようとはしていない。

 三人とも出て行ったのを確認してから、再度会長に問うと、会長は諦めたように顔を伏せた。


「······あいつも、言ってただろ。ほら、俺が、お前に······」


 語尾は不明瞭だったものの、何が言いたいのかは理解できた。


「あの人は、会長が私に片想いしてると思ってるからって事ですか」


 本気にはしていない。暗にそう伝える。

 会長は、曖昧に笑った。そんな会長の様子に、目を細める。彼の表情に何を思ったのかは、自分でも分からない。ただ、不快な感情なのは確かだ。

 返す言葉が思い浮かばなくて、私は話題を変えた。


「会長って、どんぐらいお兄さんの事嫌ってるんですか? もう嫌いを通り越して、無関心だったように思いましたが」


 複雑そうな顔。それは、今の話題に対してというより、私が話題を変えたことに対してという感じ。


「少なくとも、あんな奴になりたくないと思う程度には、嫌いだな。尊敬できる要素が見当たらない」

「会長より特に秀でている部分も、見受けられませんでしたしね」

「本当に、何で親があんな奴を甘やかすのか分かんねぇよ」

「理屈では説明ができませんねぇ。······まさか、これが運命⁉」

「嫌な運命だな」


 そうですね、と相槌を打って、いい加減窓から離れた。生徒会室に向かう。

 その途中で、ふと思った。どうしてあの男は、会長が私を好きだと勘違いしたのだろう。冗談じゃなくて、本気で思い込んでたみたいだから、よほどの根拠があったはずだ。

 特別興味はないのだけれど、なんとなく考える。

 誰が誰を好きかなんて、どうやって判別するのだろう。

 ゲームだったら分かった。親しくなればなるほど、恋愛感情が大きくなっていくシステムだったから。でも現実だと、そうとは限らないんだよね。だから、判別が難しい。

 んー、会長と私がいるところでも見て、勘違いしたのかなー?




「かいちょー、藤せんせー捕まえてきたよー」

「おう。日向、諒、お疲れ様」

「すみません、僕の監視不足が原因なのに、お二人に任せてしまって」

「······副会長は、疲れてた、から。それに、副会長じゃなくて、先生が、悪いし」


 全員が揃って、生徒会室が賑やかになる。藤崎先生は、副会長との行動中に、女の子達に声を掛けられ続けるのに嫌気がさして、生物実験室に逃げたらしい。先生が一人で逃げたから、副会長が物凄く怒っている。おかげで、一緒に帰ってきた葵は、副会長に怯えまくっていた。

 毎年こんな感じなのだろうか。


「藤崎、さすがにもう言い訳は聞き飽きたぞ」


 あ、毎年っぽい。


「逃げるのは仕方ないから、せめて聖を連れていってくれ。一人で置いて行かれた方が困る」

「駄目です。二人で逃げると目立ちます」

「じゃあそもそも逃げるな」

「嫌ですよ。聖くんはまだ、同年代以外の女性にはあまり狙われませんが、僕は幅広い女性に狙われるんです。せっかくこんな見た目にして、彼女らが忌避するようにしているのに······」


 男性にしては長い髪に触れて、先生は心底嫌そうな顔をした。

 その辺の男の人だと、ロン毛だから嫌だという人もいるだろうが、藤崎先生の顔だとねぇ。気弱そうな草食系で、肉食系の女の子や、おばs······お姉さま達に狙われそうですねとしか言えない。


「藤崎先生は、こう、頭の上にピラミッドが乗ってるみたいな髪型にしたら、一気に残念なイケメン扱いされて、女の子達から敬遠されますよ。もしくは常に変顔するか」

「それ、藤せんせーに限らず、俺ら全員いけるよね」

「いや、夏草庶務なら······『イメチェンしてるー! 可愛い~!』みたいな展開になるかもしれない」

「······綾ちゃん、僕、一応男子高校生なんだ。男子が頭にピラミッド乗せて、ずっと変顔してたら、さすがに引かれると思う」

「君の顔補正と、キャラ補正があれば······いける!」

「そんなことはどうでもいいですから、藤崎先生、仕事をしてください。先生の分、そこに溜めてますので」

「はい······分かりました······」


 机の上を見て、その量の多さに、絶望したような声で答える。一日中生物実験室にいたんだから、仕方ない。


「あー、藤崎先生、何か椿先輩が探してましたよー」

「椿が? お前、いつ椿に会ったんだ?」

「メールが飛んできたんですよ。菊屋副会長達が藤崎先生を捕まえに行く、ちょっと前ぐらいに」

「······椿に、バレてた、みたい」


 席についた先生が、顔を青くした。反対に、柳瀬さんは少し楽しそうな表情になる。多分、先生を捕まえるために外に出されて、腹立ってたんだろうな。

 椿先輩にバレてたってのは、先生が逃げたことがかな。バレてたとしても、別にそこまで怖がる必要はないと思うんだけどなぁ。椿先輩、優しいし。部員集会サボっても怒らないし。

 単に、私が良い子だから、怒られないだけかも知れないけどね。


「委員長って、怒ると凄い怖いよねー。僕達にもとばっちり来るから、藤せんせー逃げるのやめてよ」


 やっぱり、私が怒られるような事をしていないだけみたいだ。


「藤崎先生が逃げたぐらいで、椿先輩は怒りそうにないですけどねぇ」

「それは、委員長が綾ちゃんに甘いからだと思うよ。俺達には、普通に怒ってくる。俺達っていうか、綾ちゃん以外には」

「椿先輩は、私以外にも優しいよ? 少なくとも、女子には優しい。園芸部の子にどれだけ纏わりつかれても、たまに愚痴るだけで、君達みたいに突き放したりしないから」

「······見事にあいつに洗脳されてるな」

「椿は、女子に、優しくない」


 柳瀬書記が言うとか······マジか?


「······まっさかー」

「おい! おい、今迷ったな⁉ どっちを信じるか迷ったな⁉」

「乙さん、諒が正しいんですよ! 椿さんは確かに優しいです。でも、女生徒に対しては違います!」

「そうだよ綾ちゃん! 委員長は、僕達よりずっと冷t「あら、副会長さん、庶務くん。私がどうかしたのかしら?」うわぁぁぁぁっ」

「夏草庶務、五月蠅い。こんにちは、椿先輩」

「こんにちは、乙さん。そろそろ文化祭も終わるし、教室に戻った方が良いわよ。後、藤崎先生は引き取っていくわね。連絡してくれてありがとう」

「乙さん! 僕を売ったんですか⁉」

「売ったワケじゃないですよ~。『藤崎先生がどこにいるか知ってる?』ってメールが来たから、『しばらくしたら生徒会に戻ってきます』って送っただけですもん」

「乙さんは悪くないわよ。さ、先生、職員室に行きましょ」


 椿先輩は、私に向かってにっこり微笑み、先生を連れて行った。

 彼が扉を閉めたのを確認して、部屋のメンバーに言う。


「ほら、怖くなかったですよ?」

「怖いよ! 充分怖かったよ! 副会長が怒ってるときと、同じオーラ背負ってたよ!」

「······日向?」

「聖、事実だ。お前はあいつと同じ怒り方するからな」

「あー、確かに。笑いながら怒ってんのは一緒っすね」


 日向と会長に、葵が同調する。······三人は気付いていないのかもしれないがな、今副会長は非常に憤っていらっしゃるぞ。うん、椿先輩とは比にならないぐらい怖いぞ。


「······日向、尊、葵」


 副会長が立ち上がって、棚から大量の書類を取り出す。


「これは本来、明日の分なのですが······貴方達は、今日中に終わらせなさい!」

「はぁ⁉」

「「嘘でしょ⁉」」

「待て聖っ、会長権限を発動する!」

「この学園に、そんな権限はありません! ほら、さっさと仕事をしなさい!」

「乙さん、教室、戻ろう」

「あ、乙······」

「会長、乙さんに、迷惑かけちゃ、ダメ。行こ」


 ······これは、部屋に残れない流れだな。仕方ない。外に出よう。

 階段のところで柳瀬さんと別れて、携帯電話を取り出す。仕事に支障が出るかもしれないが、まぁそこは気にしないでおこう。

 メールの送信アドレスの中から、目当ての名前を探す。昼にメールしたから、彼の名前は比較的上の方にあった。本文欄に一行だけ打ち込んで、送信する。


『さっき、どうしたんですか』


 少し待って帰ってきたメールもまた、一行だけ書かれていた。


『何でもない』


 昼の時みたいな、よく分からない気持ちになって、私は携帯電話を閉じた。

ヤヴァイ。いや何がヤヴァイって、サブタイトル案が浮かばなさ過ぎてヤヴァイ。

サブタイトルが決まらなかったせいで一日投稿遅れたとか絶対言えない。


三月十四日って、世間ではホワイトデーなんですね。某イラストサイトでホワイトデーネタ見て思い出した。

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