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買い出し

「キャーッ泥棒よ、誰か捕まえてぇッ」


 文化祭の買い出しを終え、ルンルン気分で歩いていたら、甲高い声が聞こえてきた。

 ここの治安も悪くなったのかなぁ、なんて思いつつ振り返れば、なんとすぐそこに泥棒らしきおじ様が!


「オラオラオラァ! どけぇ!」

「キャーコワーイ」


 彼の指示通り横にどいて、足を出す。私の足に引っかかり、顔面から転ぶ泥棒さん。

 私はしゃがんで、彼に話しかけた。


「あのねぇ、おじ様。私、最近疲れてんだわ。せっかくの長期休暇なのにさ、私がもうすぐ仕事をやめたいって言ったからか、仕事が次から次へと舞い込んできて······。人間って、結構重いのよ。私の仕事って、逃走してる殺人犯とかを蹴り飛ばしてくんだけどね、一回一回は楽だよ? でも、何十回となると、大変で大変で······」


 無表情のまま愚痴る。空達にも手伝ってもらってるけど、そもそも一回で複数人相手にすることも多いしな。こないだ、『最近仕事多すぎてさすがにつらいんで、もうやめますね』と言ったら一気に仕事が減って、元の量になったけどね。


「それにほら、おじ様、この荷物持ってごらんよ。面倒だから持たなくていいけどさ。重いのよ、コレ。たっくさん物が入ってて。コレをね、さっき私、ひーこらひーこら言いながら持ってたワケ。そしたらおじ様がこっち来てさぁ。『どけぇ!』とか言ったじゃん? どかなきゃダメじゃん? でもおじ様泥棒だから、捕まえなきゃダメじゃん? 要するにね、もうホンット疲れたんだわ。分かる?」

「あ、あの······」

「ん? ああ、さっきのお姉さん。どうぞどうぞ。卵とかガラスとか、割れやすいものは入ってませんでしたか?」

「あ、はい、粉ミルクだけなので······。ありがとうございました」

「いえいえ~。気をつけてくださいね~」


 にこやかにお姉さんを見送り、大きな溜め息を吐いた後、立ち上がっておじ様を引っ張った。しょぼんとしながら立ったおじ様に、再度溜め息を吐く。


「おじ様、歩けますか? ······問題ありませんね。免許証とか持ってます? 何か、身分を証明できるもの。······ああ、出さなくていいですよ。じゃあ、交番に行ってくださいね。どうせ証拠がないから、身分聞かれるだけでしょうけど、スリをやったのは事実ですし。約束ですよ」


 おじ様が頷いたのを確認して、解放する。これで私が彼を見張らずとも、責められる筋合いはないだろう。


「綾ちゃん、良いの?」


 突然、後ろから、名前を呼ばれた。声の主は分かっていたため、ゆっくり振り返る。


「······こんにちは、夏草会計。君も買い出しかな?」

「うん。荷物持つよ」

「え······ああ、ごめん、ありがとう」

「気にしないで。それより、さっきの人、逃げるかもよ?」

「別に構わないさ。何でわざわざ、交番まで連れていかにゃぁならん。面倒くさい。誰かが被害を被ったワケでもないしね」

「ふぅん。ま、綾ちゃんならそうだろうとは思ったけど。それよりコレ、ホントに重いね。何入ってんの」

「ダンベル」

「······えっ」

「の玩具」

「あ、だよね」

「あと鉢植えがいくつか入ってる」

「それでこんなに重いのか······。クラスの人酷いね」

「いや、これでも配慮してくれた方だよ。柔道部の人とか、観葉植物頼まれてたもん。しかも人より少し低いくらいの背丈のやつ」

「うわぁ······」

「今わりとガチで引いたよね」

「うん」


 私が両手で持っていた荷物を、葵は片手で持っている。さすが男子高校生。


「夏草会計は、何買ったの?」

「血糊とか、特殊メイク用品とか」

「そっか、B組はお化け屋敷だったね」

「俺、生徒会の仕事があるから、期間中も本番も、あんまり手伝えないでしょ? だから、買い出ししてるの」

「あー、文化祭中、急に仕事来るんでしょ? 風紀と生徒会。去年椿先輩が凄いピリピリしてた」

「委員長は去年単独で動いてたから、どうでもいいことでも仕事を作って、関わろうとする女の人が、多いのなんのって。綾ちゃんは、今まで委員長と文化祭回ったりしてなかったの?」

「椿先輩と? ないねぇ。一時的に知り合いとお化け屋敷に行く、とかはあるけど、椿先輩はなぁ。あの人、生徒会室にずっといるでしょ」

「そうでもしないと、文化祭中は走り続けることになるからね」

「君達も、生徒会室にこもるの?」

「うん、その予定。動くとしても、ペアで動くよ。二人だったら、よっぽど大量の女の子に囲まれない限り、動けはするから」

「あはは、大変だね。生徒会室で何してるの?」

「好きなことしてるよ。藤崎先生は、一人で回ってることも多いけど。俺達は遊んだり、仕事したり。やなりんとかは、寝てることもあるし。それに、ペアでなら文化祭回れるしね」

「でも退屈そうだねぇ」

「外で女の子に囲まれるよりはマシ」

「ん~、そういう話を聞いてると、イケメンに生まれなくて良かったと思うよ」


 たしかに、と、葵が頷く。そしてこちらを見た後、苦笑いした。


「何か、結局『どこか遊びに行こう』ってのが、これになっちゃったね」


 どこか遊びに······ああ、夏休みの始めの方に、葵が送ってきたメールのことか。


「気が向いても行けない状況だったんだよ······」

「『仕事が次から次へと舞い込んできて』?」

「そう、それ。仕事が多すぎて、友人達ともほとんど遊べなかったんだ······。まとめ役達からも、結構お誘いが来てたんだけど、すべてお断りさせていただく羽目になったよ」

「お誘いとか来てたんだ⁉」

「毎年いくらかはあるよ。まとめ役達って、アクティブな方が多くて、買い物とかじゃなくて、日帰り旅行を提案してくれるんだよね。彼女達はマナーに関して心配しなくていいから、旅行を存分に楽しめるんだ。······だから、楽しみにしてたんだけどねぇ」

「仕事、そんなに忙しかったの?」

「泊まり込みの時もあるし、十人単位の相手した二日後にまた仕事ってあったら、たとえ日帰りでも、旅行になんて行けないから」

「ブラック企業じゃん······」

「ん~、まぁ辛かったら辛いって文句言えるし、そこまでブラックではないよ。私が仕事やめて困るのは、あちらの方だし」

「凶悪犯捕まえられなくなるもんね」

「それもあるけど、今はヤクザさん達の逆恨みを、私が引き受けてるから。あちらさんが私の方を見ている間は、お上の人達も安心できる」


 多分お上の方々が心配してるのは、危険人物が減ることじゃない。

 今まで何も考えずに、どんどん厄介な組織に手を出してきたおかげで、もはや自分達だけでは勝てない相手。いつか来るかもしれない仕返しを、恐れている。

 ······それを女子高校生に押し付けてるのだと考えると、滑稽だねぇ。


「お偉いさんが恐れるようなものを、高校生に······」


 おお、同じこと考えてた。


「酷いよね、ホント。しかもあの人達欲まみれだからさぁ、私がやめるって言いだしたら、できるだけ厄介ごとを減らすために、一気に仕事作りやがって」

「もうやだー、裏社会の話なんて聞きたくないよー」

「そう? 私達ぐらいの年なら、裏の話とか好きそうなのに」

「まぁ興味はあるかな」

「だよねぇ」

「綾ちゃんは、そういう話とかしても大丈夫なの?」

「うん。君達のことは、ある程度調べてるから。······あ、プライバシーは配慮してるよ? ただ、狐の仮面のことや、仕事について知られても、君達に被害はないかを調べただけだから」

「自分達の被害じゃないんだね······」

「まー身バレして困るようなものでもない。むしろ頭がスッカスカのお馬鹿ちゃんじゃなければ、私達に手ぇ出しちゃダメって分かるでしょ」

「相変わらず、凄い自信」


 そう言う彼に、私はにこにこと微笑みながら返した。


「いつ死んでも良いや~ってなったら、爆発的な勢いで強くなったんだ~」


 彼が、絶句した。それに構わず、続ける。


「それから、死にたくない理由ができて、もっと強くなったの。最初に捨て身で戦うのを覚えちゃってるから、若干危ないとこもあるんだけどね~」


 教室が見えてきて、葵から袋を受け取る。ありがとう、と言うと、彼は苦笑しながら小さく洩らした。


「綾ちゃんは、よく分からないよ」


 所詮他人だからね、と答えておいた。

タイトルの要素一切なし! 反省はしている! でも面倒だから書き直さない!

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