祭りは賑やかに
二日遅れですが、あけましておめでとうございます。
冬休みの宿題が一割も終わっておりません。
チャイムが鳴って、玄関へ降りる。
ドアを開けると、友人達が並んでいた。
「······チカ、大荷物だね。どうしたの」
「浴衣!」
「······とにかく、家に入って。上で待ってる」
「寝室でいいな?」
「うん」
チカから荷物を受け取り、先に上に行く。
手を洗うだけだ。そう時間もかからず、三人とも上がってきた。
「なんで浴衣持ってきたの」
「今年こそ! 着てもらおう思て!」
「お前、去年あたしらが言ったこと忘れたのか? こいつが浴衣着て歩いてみろ。まず間違いなく、虫がつくぞ」
「三人で守ったらええやん! 花火大会やないから、そんな混雑せぇへんし!」
「······すまないが、私は浴衣を着る気はないよ」
「あややが着たくないんやったら、これ以上問答続けても無意味やで」
「うう······。······せめて、服は選ばせてぇな」
「動きづらいの以外なら」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「あんま時間はかけるなよ」
「フッ、こっちがオシャレに時間かけたことあったか?」
「······ねぇな」
「やろぉ~?」
チカは悪戯っぽく笑うと、空とキャシーを部屋から追い出した。こうなるのはいつものことだから、二人も慣れた様子で下に向かったようだ。
「あーちゃんは、落ち着いた色の方がええと思うんよ~。イヤリングとか持ってきたけどどうする?」
「喧嘩中に外れそうだね」
「そっかぁ、でもアクセサリーないんはなぁ」
悩む素振りを見せながらも、手が止まることはない。
彼女は男装好きだが、誰かを飾るのなら男女関係ないらしく、仕事の関係などで少し改まった場に出る際は、私達三人分の服を選んでくれる。
彼女の見立てが外れることは、ほとんどない。ただ······たまに独特のセンスを発揮して、ドエライことになる。ダサいって意味じゃないんだ。ダサいんじゃなくて、悪趣味。それのせいで、一度私がフランス人形になった。
化粧はチークだけだ。本当に、チークだけ。
なのに、フランス人形になった。あの不気味な感じが、うまいこと出てたのだ。うん、『可愛い』じゃなくて『不気味』。お化け屋敷にいそうなタイプだ。
そんな私を見て、チカは『ええやんええやん、美人やわ~』とか言ってうっとりしていた。
他にも、チカの好きなように着飾らせたら、悪趣味としかいいようのない格好になったことは多々ある。
目に痛い赤に金色の刺繍を入れたドレスを着せられ、首や指には銀のアクセサリー、金が散りばめられた暗い赤のバラの髪飾りをつけさせられた。
······空とかは『悪趣味だが綺麗だな』って言ってたけど、絶対あの格好で外に出たくない。
「この服どう?」
「良いねぇ、そういうの好き」
「せやったら、さっそく着てみて!」
「分かった。······はい」
「さすが、早いわぁ。髪結い直すで?」
「どうぞ」
チカが背後にまわり、私の髪をほどき、櫛で梳きだす。
髪型はもう決まっているようだ。髪に指を通しながら、世間話を始めた。
「あんな、前マ●ドで食べとったらな、離れたとこに、わっかい男女が座ってん。平日の朝やったから空いとってんけど、急に女の人が泣き出してな、男の人が『ごめんね、君に勘違いさせちゃって······』とか言うとってさ」
「うん」
「どんな話かは分からんかったけど、朝のマク●でする話ちゃうで。自分に酔うとったんやろうな、男の言い方が完全ロミオやったわ」
「朝から重いな~。髪、終わった?」
「終わった終わった。なんか気になるとこない?」
「ないよ」
「せやったら、これでええかな。······あーでも、ちょっと大人びすぎとるか」
「そうなの?」
「うん、夏祭りみたいな派手な場所に、この格好は控えめすぎや。な、これだけでもつけてくれん?」
絶対似合うから!と自信満々に出されたのは、鍵がモチーフのシルバーペンダント。鍵の頭には、深緑色の小さな飾りがついている。
「いいよ」
チカから受け取ったペンダントをつければ、チカが「完璧や······!」とかなんとか言って悶えている。
肌に触れたところがひんやりしていて、一瞬違和感を覚えたが、私はそこまで神経質ではない。すぐに慣れた。
「あーちゃん、今度その格好でこっちの学校来てぇや! 絵に残さして!」
「気が向いた時に」
「約束やで!······そーちゃーん、キャシー、終わったでぇ」
早く降りてこい、と空が言うのが聞こえた。それに従い、下に降りる。
毎回のように思うけど、わざわざチカに選んでもらわなくても、服ぐらい一人で選べる。服装に興味なんて、あんまりないし。
でも『もったいない』とか言われて、チカ達が家まで迎えに来てくれた時は、チカが私の服を選ぶ。
三人は喜んでいるようだから、別に構わないけどね。
「おお、さすが美大志望。センス良いな」
私の姿を見て、空が褒める。
空が言った通り、チカは美大志望だ。もう専攻まで決めていて、油絵をとるらしい。チカは多趣味だからどれをとるのか悩みそうだと思っていたが、案外すんなりと決まっていた。
なんでも、勉強してて楽しそうなのは絵ぐらいだから、だそうだ。
友人達は私のように既にお金を稼いでるから、そっちの方面は気にしなくていいしな。
「そらりん逆やで、美大に行く人は、センスが独特な人が多いんよ。前にそらりん、フランケンシュタインになってたやん」
「······それもそうだな」
「なんという偏見! むしろオシャレな人多いで⁉ あと普通にかっこええやん、フランケン」
「あれは······あたしも悪趣味としか思えねぇわ」
「何でぇ⁉」
「ケバいフランケンシュタインなんて見たないよ。ペアはどうする?」
キャシーが私を見る。私達はこういうイベントとかに行く時、四人では行動しづらい&ナンパor逆ナン(チカと空が、時々逆ナンされる)防止のため、二人でペアを組んで恋人的な感じにするのだ。
そのために、チカはいつも通りの男装、空はより一層男に見える格好をしている。
「去年と反対で、今年は私と空、チカとキャシーで行こう」
「分かった。おい、無線機は持ったか? 人の多いとこでは使うなよ。喧嘩になったら、人気のないとこに誘導して、そこで連絡」
「了解。花火大会じゃないから、そこまで混まないと思うよ」
「七味唐辛子の屋台あるかな~」
「キャシー辛いのいけたよね?」
「うん、大丈夫。チカちゃんの好きなやつ食べてみたけど、死ぬほどやなかったから」
「どうする? もう腕組んどこか~?」
「そこまで混まないってのが聞こえんかったん?」
「いいから早く行くぞ」
「キャシーもそーちゃんも冷たいわー」
空が私の腕を引っ張った。彼女のそばに行くと、耳元で囁かれる。
「······従妹の心配は、しなくていいのか?」
「天音なら来ないよ。両親と旅行に行ってるらしい」
「あいつが?」
「『君想』には夏祭りイベントがなかったからじゃない?」
納得したように、空が頷く。
天音が約束を破る理由が、私に喧嘩を売るためか、攻略対象達に手を出すためかは知らないが、『君想』に夏祭りイベントはないから、チェックしてなかったんだと思う。
「じゃ、何も気にせず遊べそうだな」
「ん、そうだね」
自然な仕草で、腰を引き寄せられる。
人が増えてきたためだろう。
空にされても不快感はない。私は彼女に寄り添った。
「七味ッ七味や、七味があるッ」
「はいはい。あやや、そらりん、また後でな」
「いってらっしゃ~い」
「チカと離れんなよ」
「分かってる」
既に走り出していたチカを追いかけるキャシーに、手を振って見送る。チカも本気で走ってるわけじゃないから、キャシーはすぐに追いつくだろう。
「空、何やりたい?」
「射的」
「向こうから音聞こえてくるから、行ってみよ~」
「おう」
空と一緒に射的屋へ行く。空は射撃で玩具のナイフをゲットして、私にプレゼントしてくれた。刺すとナイフの刃が、柄の部分に引っ込むアレだ。
射的をやった後に、ぶらぶら屋台を回る。お面屋もあったが、まぁ私の好みに合うものが売っているはずがない。プ●キュアとか仮面ラ●ダーなどが並んでいた。
「仮面、いらねぇのか?」
「こういうのを欲しがるほど幼くないよ······!」
「それもそうだな。さっききゅうりの一本漬けがあったんだけど、買いに行かねぇ?」
「野菜好きだねぇ」
「あとかたぬきもあった」
「おお、懐かしい。行く?」
「きゅうり買ったら」
「やりづらくない⁉」
「大丈夫。······綾、もうちょいこっちに寄れ」
「はいはい。どうしたの?」
「こっち方面に来る金髪三人。顔は平均的。数秒前に一人が女に声掛けて成功してた。結構慣れてるみたいだから、喧嘩にはならねぇと思う。でも表情がアホっぽい」
「酷い言い草だねぇ。それに、今私には、君という恋人がいるんだよ?」
「気を付けるに越したこたねぇよ。······クソが、綾、道変えるぞ」
「は~い」
何が『クソ』なのかは分からないけど、多分金髪さん関連だろう。理由は聞かず、空に従う。
空の足の動きが、徐々に早くなっていく。
顔の位置を変えないまま、空が小さな声で言った。
「追いつかれる。にっこり笑え。お前に釣り合わねぇことを分からせてやれ」
「ん」
短く返して、肯定の意を示す。
何歩か足を進めたところで、後ろから肩を叩かれた。
「ねぇねぇお嬢さん、俺達と遊ばない?」
当然スルー。が、肩を掴まれ、強引に後ろを向かされた。
「お嬢さ······」
相手が、私の顔を見て絶句する。何だ、私の顔を見て声を掛けようとしたワケではないのか。
ナンパなんて、大抵こうだけどね。
「どうなさいましたか?」
いつもとは違う声。できるだけ清楚に聞こえるように、声の出し方を変える。
「え⁉ いや、その~、僕達と一緒に、お茶でもしませんか?」
ガラッと態度が変わったな······。
「ごめんなさい、今日は婚約者と来ているので」
「あ、そうなんですかぁ! いえ、すみません、はい」
「では、失礼しますね」
「はい、さようなら~」
ふざけた会話をして、立ち去る。念のため、空の方に身体をやや傾け、ラブラブアピールをしておく。
金髪さん達が視界から消えたことを確認して、元の体勢に戻した。
「物分かりの良い人達だったね」
「お前に声掛けようとした時点で、自分の顔のレベルも理解できねぇアホ共だよ」
「ん~、それは言い過ぎな気がするけどねぇ。空、きゅうりの一本漬け、行こっか」
「おお、忘れてた」
「じゃあ行かなくていいね。かたぬき行こう」
「待て! きゅうり! きゅうり行こうぜ!」
「ふふ、冗談さ」
空と手を繋いで屋台に行き、きゅうりを買う。空の好みに合ったらしく、すぐに平らげてしまった。
もう一本、と言われ、仕方なくきゅうりを買いに戻る。
そこで、よく知る五人に会った。
「あ、綾ちゃん、やっほ~」
日向がこちらに手を振り、他の四人もこちらに気付いた。
「こんばんは、皆さん」
「あー、うん。こんばんは、綾ちゃん。······隣の人は、彼氏さん?」
予想していなかった質問に、空と視線を合わせる。
空が、目を細めた。
それだけで、方向性を判断する。
「彼氏じゃなくて、婚約者。書類とかはないし、婚約指輪も用意してもらってないけどね」
「手につけると隠しにくいから嫌だって言っただろ」
「それはそうだけどさ」
「それに、代わりとして、このペンダント贈ったし」
私がつけているペンダントに触れる。
チカにつけてと言われてつけたものだが、空が選んだのだろうか。
今聞くことでもないし、嘘だとしても、面白いから良いけどね。
「えっ······綾ちゃん、恋愛事は、全くといっていいほど縁のない話だって······」
狼狽える日向。彼の言った言葉を、脳内検索する。
「······かなり前のことだよね⁉」
「うん! 体育祭前!」
「すっごい昔!」
「それでも、綾ちゃんが婚約者を作るのは無理だよね⁉」
「酷くない⁉」
「綾、違う、多分お前の性格からしてって意味だ」
「ああ、なるほど」
「ホントに婚約者なの⁉」
「ううん嘘だよ」
「だ、だよね······。びっくりした」
······引っかかる言い方だな。まぁいいか。
「婚約者、じゃない、なら、誰?」
彼女を紹介してもいいものか。なんとなく迷って、空を見る。
空も察してくれたようで、自分から名乗ってくれた。
「高野です。綾の友人です」
「御友人でしたか。こんばんは。僕達は、乙さんと同じ生徒会に所属している者です」
「こんばんは。······綾」
「はいはい」
適当に挨拶をして、空が私の名前を呼んだ。面倒なんだなぁと思ったが、どうやら違うらしい。
「会長さんの奥」
「⁉」
「ん~? ······お~」
空が役職を知っていたことに驚く会長。の、奥に見える、二人の人物。
椿先輩とかじゃない。そういえば、椿先輩と藤崎先生を見かけないな。生徒会と椿先輩で来ると言っていたから、一緒にいるものと思っていたが。
······ああいや、今はどうでもいいな。
会長の向こうから走ってやってくるのは、別行動中の友人達。
もっと詳しく言うならば、赤い何かを持ったチカと······黒っぽい何かを入れた袋(金魚すくいで金魚とった後に入れるやつ)を持ったキャシーだ。
とりあえず、警告しておこう。
「桐生会長、後ろ」
「はぁ⁉」
「あーちゃーんッ!」
チカが、会長に突進するかと思われた、その時。
キャシーがチカの首根っこを掴んだ。
「ふぎゃっ」
「······チカちゃん」
「ストッ······ト、トッポギがぁっ」
「尊、大丈夫ですか」
「俺は今、かなり貴重な体験をした気がする」
「······気のせいじゃ、ないと、思う」
「チカ、なんでこんな非常識な行動を······」
「トッポギこうた直後に、あーちゃん達見つけたから、報告したかってん」
「報告してどうするつもりだったの」
「ん? なんもせん」
「そう。凄く辛そうな色だね」
「実際にメッチャ辛いでぇ。食べる?」
「······桐生会長、いかがですか」
「えっ⁉」
「あ、会長さんなん? こんばんは~。あーちゃんの親友で、黒川 壱夏っていいます。会長さん、辛いのいける人? いけるんやったら食べてみません?」
美味しいですよ~、という誘い文句に乗り、会長が真っ赤なトッポギを一つ口に含む。
私? 死ぬから食べない。辛い物は嫌いなんだ。
「······!」
「あれ、辛かったですか?」
「会長、そんなに辛いんすか」
「食べてみます?」
チカが被害者を増やそうと(いや本人にそんな気は一切ないんだけどね)、葵にトッポギを差し出す。
「え······じゃあ、一つもらいます。······!」
「おいチカお前何入れたんだよ」
「何って、普通にお店で売ってたんを、まんまもろうたで」
「他に買ってた人は、どんな様子だった?」
「そこまで見てへん」
「ほとんどの人が、飲み物買うかお手洗い行くかしとったで」
「······チカ、それは君が食べな。他の人に分けちゃぁいけない。現に先程の二人は、既にラムネを買い求めて、あちらの方へ行ってるだろう」
「ほんまや~。分かったわ」
「よし、良い子。キャシーは何持ってるの?」
「おたまじゃくし」
「え、ねぇねぇ見せてください!」
「ええよぉ」
おたまじゃくしを入れた袋が、キャシーから日向に渡る。
日向は純粋に眺めて楽しんでいるようだが、柳瀬さんと副会長がドン引きしているのは、よく分かった。
袋の中で、大量のおたまじゃくしが動いているんだからな。
「これ、屋台であったんですか?」
「うん。えっと、チカちゃん、おたますくいの近くに何があったか覚えとる?」
「え~っとな、わたあめと、金魚すくいとカチワリ、たぬき煎餅やったかな? 横にカチワリと金魚があって、前にわたあめとたぬきがあったで」
「らしいで」
「ありがとう! 副会長、やなりん、行こー!」
「日向、待ちなさい!」
「二人を、待たないと、酷いことに······」
「······三人行動が駄目なら、二人とかもっと駄目なんじゃないんですか」
「「「!」」」
空の呟きに、三人は今気付いた、と言いたげな顔をした。
それと重なるように、レディ達の黄色い声が聞こえてくる。
「すみません、乙さん。失礼します!」
「綾ちゃん、バイバイ!」
「······高野さん、達も、さようなら」
「さようなら~」
「どうする? また別行動する? ウチらはどっちでも良いけど」
「私も、どっちでも構わないよ。空は?」
「気が向くまで一緒で良いんじゃねぇの」
「そうしよそうしよ!」
トッポギを口に運びながら、チカが明るく笑う。途中、キャシーが分けてもらっていたが、彼女は問題ないようで、「辛いね」とだけ言っていた。
あたりはすっかり暗くなり、来た時よりも、ほんの少しだけ静かだった。
私は気づいた······他者視点の数とか全然気にしてなかったから、葵3副会長2ほかの攻略対象それぞれ1という、実に不平等な状態であることに······!(もとより平等にする気皆無でしたけどね)
サラッと「紹介」にテディと野見山くんの一人称追加しました(すっごい今更)。




