表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/103

血縁

 会長に、一枚のハガキを渡す。

 去年もらった年賀状だ。


「······やっぱり、似てないな」


 年賀状に刷られた写真を見て、会長が呟いた。


「全く似てませんよねぇ」


 写っているのは、私の従妹である天音と、その両親。どこかの遊園地に行った時のものらしい。後ろに真っ赤な観覧車がある。

 天音に住所がバレる可能性が高まるから、送ってこないでって言ってるのに。

 無礼だとは分かっているが、こちらから年賀状を送りはしない。家を出た最初の年に年賀状を送ったことが原因で、天音が私の家の前にいたことがあったからな。その二週間後には引っ越した。


「お前の従妹って、母方? 父方?」

「父方です。あいつの母親が、私の父の······姉?だったっけ? その辺覚えてませんけど、私の目の色とかは母譲りですから、天音は父方の従妹です。それは間違いありません」

「雑な覚え方だな」

「いやぁ、興味がないもんで」

「仮にもお前の血縁だろうが」

「血縁だろうと血縁じゃなかろうと、関係ありませんよ。私はあいつらのことが好きじゃない。だから、あいつらのことに興味はないんです」

「父親の姉か妹かは、従妹の親だけじゃなくて、自分の親も関係することだろ」

「それでも一緒です。自分の両親のことも、好きじゃないので。嫌いでもないんですけど。それに、本音を言いますとね。私、あいつらのことを『血縁』って思ったこと、ほとんどありません。ホント、他人?って感じが強くって」

「従妹だったら、幼い頃から一緒に遊んだりするんじゃないのか?」

「父とあいつの母親の仲は、昔っから険悪でしたからねぇ。父が会わせようとしなかったから、引き取られたとき、あいつの両親の顔、覚えてなかったぐらいです。······あれ、今思えば、私、嫌われてたんですかねぇ」

「複雑な家庭環境だよな」

「複雑といえば、複雑ですけど······昔のことですから」

「いや現在進行形で従妹に悩まされてるじゃないか」

「ん~、あいつは元家族というより、ただの厄介な女って感覚ですね」

「ひっでぇ」

「あいつが私にしてきたことを考えれば、当然の報いだと思いますけど」

「ははっそれは言えてるな」


 会長が、快活に笑う。

 ······今家族に悩まされているのは、むしろ会長じゃないのだろうか。


「会長こそ、ご家族とはどうですか」

「どうって言われてもな。今まで通りの暮らしをするしかねぇだろ。お前みたいに、一人暮らしをする余裕もないしな」

「高校卒業と同時に追い出されないことを、祈るしかないですね」

「一応バイト始めといた方が良いか?」

「ええ、念のために。会長も、大変ですねぇ」

「······お前さ、前、俺に四つの家族の話、してくれただろ」

「ん? ああ、しましたね」

「その時お前、三番目の両親は、好きでも嫌いでもないって言ってたよな」

「はい」

「あれ、何でだ? それとも逆に、一番目の母親は好きって方が珍しいのか?」

「うわぁ、会長の記憶力凄ぇ」

「聞いた時から、結構引っかかってたんだよ。ただ、聞いてもいい話題か、分からなくてな」

「会長なら別に構いませんよ~。隠すようなもんでもないし。いやね、私、基本的に自分を好いてくれる人は好きなんです。でも、一回好意を向けられなくなると、途端に私も相手を好きじゃなくなる」

「三番目の両親が、一度好意を向けてくれなかったのか?」

「そういうことです。まぁ育ててくれたので、嫌いではありません。ただ、好きにもなれません」

「じゃあ、やっぱり一番目の母親以外が特殊だったんだな」

「それは······どうでしょう。一番目の母親は、親というより、友達でした。あの人、あまり『親』っていう実感が湧かなかったみたいで」

「それはそれでまた······」

「まぁ、結局最後まで、あの人は私を好きだと言い続けてくれました。だから私も、あの人が好きです」

「あー······でも、三番目の両親も、最初は好きだったんだろ?」

「はい、勿論。一応あの人達は、私に親としての愛情を注いでくれましたから」


 途中まで、だけどね。途中からは明らかに私に怯えてて、そのまま和解することなく、あの人達は事故に遭った。

 あの人達が私を怖がってた理由は知らない。私があの人達を好きじゃなくなったのと、同じころだったのは覚えている。


「会長は、ご両親が嫌いですよね」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、お兄様は?」

「嫌いだ」

「わ、即答」

「······あいつが悪くないことは分かってる。兄じゃなくて、親が悪いことぐらいは理解できてるんだ。でも、そういう話じゃないだろ?」


 頷いて、肯定する。


「『あの人のせいじゃないから』って、そんな風に割り切れたら、どれほど楽なことか」


 もうね、感情をすべて理論で片付けようとする奴らに言ってやりたい。

 『感情は理論で説明しきれねぇんだよ! お前だって生理的に無理とか、そういうのあるだろ⁉』って叫びたい。

 それやったら完全に負け犬の遠吠えになるから、やらないけどね。


「だよな!」

「そんな嬉しそうに言われても、微妙な気分になります。やっぱり、この意見に眉をひそめる方も多いですから」

「そういう奴らこそ、体験すりゃあいいんだ」


 不愉快そうに、会長が視線を逸らす。


「それで俺に、教えてほしい。兄を嫌わずにいられる方法をな」

「ん? 会長、お兄様を嫌いたくないんですか?」

「いやそれはない」


 またしても即答した彼に、ほんの少し安心した。

 天音はともかく、特別私に酷いことをしたわけでもない前世の姉を、私は嫌っているんだからな。本当は好きでいたいなんて、思ったこともないし。

 なんだかんだで、私も会長と感情を共有したいのだ。共有は無理でも、せめて、理解は示してほしい。

 この感情を非難するような人に、自分の感情をさらけ出したくない。

 その人が赤の他人ならば、尚更。

 だから、会長には分かってほしいんだ。


「単に、腹が立つだけだ。嫉妬?なのか? とりあえず、この気持ちを理解できねぇ奴が、ごちゃごちゃ言ってくるなんてムカつくだろ」

「あはは、そうですねぇ」

「······軽いな」

「んなこたぁないですよ。ただ、わざわざ空気を重くする必要もありませんから」

「それもそうだな。こんな無駄に重い話はやめよう。なぁ、お前、今年の夏祭りに行くか?」

「夏祭りですか? ああ、あの公園のやつなら、友人と行きますよ~。会長は?」

「俺······っていうより、生徒会と椿は、毎年一緒に行ってる。バラバラで行ったら面倒なだけだしな」

「行かないって選択肢はないんですね」

「もう習慣だからな······。俺達は両方行くけど、お前達も両方行くか?」

「いえ、日曜だけです」

「土曜日の方は?」

「文化祭の準備で、学校に招集かけられてんすよ」

「あ~、なるほど」


 招集といっても、文化祭の準備は自由参加だ。毎年、ほぼ全クラスで行われている。

 ······文化祭が、二学期の序盤にあるためだ。

 二学期が始まり、実力テストも終わった後、一週間の準備期間が与えられる。だが、その間も普通に授業があるので、準備できるのは放課後の2~3時間のみ。

 文化祭は合計三日間。そのうちクラスごとの催し物が必要なのは、最初の二日間。三日目に関しては、後で説明する。

 とりあえず、この二日間を乗り切るため、夏休み期間に何度か招集して準備を進めていくのだ。特に一日目は学校外の人向け(生徒や教師以外)だから、皆かなり気張っている。

 そのせいか、一日目に比べると、学校内の人向けである二日目は、そこまで激しくは盛り上がらない。なんかこう、穏やかな盛り上がりというか。一日目で騒ぎまくった人が多いし、お客さんは生徒や教師だけだから、リラックスしているのだ。


「お前、三日目どうすんだ?」


 で、三日目。二日目の二週間後にある、文化祭という名をした、ただのお休みの日。一部の人にとっては、お休みの日じゃないけどね。

 この日は、各々学校に来たあとは、自由に過ごせる。授業なんてものはない。まぁ一個だけ、体育の授業と言えなくはないものはある。······いや、うん、やっぱあれ授業じゃない。

 ······学校内のいくつかある体育館のうち、最も大きい体育館で、ダンス祭りが行われる。やることはその名の通り、ずっと流れ続ける音楽と共に、ひたすら踊り続ける。

 時々体育館に来ても踊らず、何かしらのパフォーマンスやってる人もいるから、案外体育館は賑やかだ。

 踊る相手も自由だし、二人じゃなくて、10人ぐらいでフォークダンスをやっても構わない。

 そもそも踊らなくてもいい。他の体育館や運動場、教室などで遊んでもいいし、この機会を利用して、特別忙しそうではない先生に、質問しにいくのもいい。できないのは入部届や退部届など、処理が面倒なものだけだ。生徒会や風紀が機能してないから、そういうのの処理ができないんだよね。


「気が向いたことをやります。体育館には行くと思いますよ。ダンス、好きですから」

「まさか、フルで踊るのか······⁉」

「さすがにそれは死にます」

「だよな」

「······かいちょー、特定の人物を出禁って無理ですかね」

「よっぽどの理由がないとキツいな。······なんだ、従妹が来そうなのか?」

「前にあいつの両親を脅しましたから、多分大丈夫でしょうけど······。ほら、一日目じゃなくても、面会目的なら通されるじゃないですか。あいつの両親、一時的に私の保護者だったんで」

「脅したのかよ!」

「これで来たら、あいつらは真の馬鹿です。どうしようもないキングオブ馬鹿。死んでも治らないタイプの馬鹿」

「ま、まぁ、お前が脅したんなら、来ねぇだろ」

「······ですよね!」


 何度も約束を破るなんて、一応社会人である天音の親はやらないだろう。そう信じて、数秒悩んだ後、彼に賛同する。

 だが、頭の片隅で思った。

 ······コレ、フラグじゃね?と。

パソコンを新しいのに変えました······!

ゲームのデータとかも移せたのはよかったけど、なぜか最新機種であるこっちのパソコンの方が、動作が重いっていうね。

今年もガキ使があることを知って歓喜。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ