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臆病な心に、感謝を。 後半 ~南 千尋視点~

「私も転生、しました」


「やっぱり、南さんもなんだね。気づいてるかもだけど、花咲さんもだよ」

「えっ!?」

「ほら、新入生代表じゃなかったし、さっきも私に色々と喚いてたでしょ?」

「あ、確かに······」


 そう言われてみれば、確かに。乙さんも転生した人なんだし、他にいてもおかしくないよね。


「南さん、唐突だけど友達になりませんか。まぁ条件付きになってしまうけれど」

「条件······?」

「うん。合計二つね。結構真剣な話だから、冗談として笑い飛ばすのはやめてね」

「え、あ、はい!」


 友達になるのに条件があるのは悲しいけれど、彼女と友達になれるのなら構わない。ちょっと話しただけだけど、いい人だと思ったから。もっと、話したいと思ったから。


「まず一つ目~。私が友達になりたいっていうのはね、南さんを好きだなって思ったからなんだ。だから、利用するされるは抜きで、仲良くしたいの。そこを理解したうえで友達になってほしい」

「うん、勿論だよっ」

「ふふ、じゃぁ二つ目。私ね、大切な人には物凄く執着してしまうんだ。愛が重いってやつだね。別に監禁とかしないけど、時々執着が嫌になるかもしれない。それでも良い?」

「うん。生きていくうえで、問題が無いのなら」

「本当!?嬉しいよ、これから宜しくねっ」


 凄く嬉しそうな声をあげて、乙さんがギュッと抱きついてくる。その時、また良い香りがして、ちょっぴりドキドキした。


「呼び方は君に任せるよ」

「じゃあ、綾ちゃん。綾ちゃんも、好きに呼んで?」

「ん~だったら千尋にするよ。んじゃ千尋、話を戻そっか」

「あ、その前に聞きたいんだけど······」

「ん、どうした?」

「香水か何かつけてる?なんだかね、良い香りがするの」

「香水?いや、そういう物は持ってないよ。嫌いじゃないけど、欲しいと思わないから」

「そうなの?じゃあなんの香りだろう?」

「さあ?まぁ千尋が良い香りだって思うのならそれで良いや。嫌な香りだと思ったら言ってね?一緒に千尋が好きな香水を買いにいこう」


 ······そんなに楽しげに言われると、本当に大事にされてるのがわかってつい顔が赤くなる。もし綾ちゃんがかっこいい男の子だったら、女の子に囲まれてそう。


「今度は本当に話を戻そっか。千尋はどれぐらい『君想』について知ってる?私はゲームをそれなりにプレイしたぐらい。エンドも全部は見てない。全員のトゥルーとグッド、藤崎先生だけバッドも見たかな。あ、なんか二週目から好感度の他に執着度みたいなのあったよね?あれが何か知ってる?」

「えええええええっ勿体無いよ綾ちゃん!!綾ちゃん通常エンドしかみてないよっ!?」

「通常?何それ?千尋、詳しいの?」

「当然だよっ別売りの設定資料集も買って読み漁ったぐらいだもん!」

「へぇ。それは頼りになるよ。ねぇ、色々教えてよ。例えば、通常エンドの他に何があるの?」

「通常エンドの他にはね、特殊エンドがあるの。通常エンドはさっき綾ちゃんが言ってたトゥルー、グッド、バッドが各攻略対象に一つずつの合計21種類。特殊エンドは二週目以降に解放されるエンド逹のことで、執着度がカンストまたは好感度より高い場合のヤンデレエンドがそれぞれに一つずつの合計7種類。会長と副会長の好感度と執着度がカンストの場合の幼馴染みエンドに、双子君達の好感度と執着度がカンストの場合の双子エンド。勿論ヤンデレ化してるエンドね!!それから隠し攻略対象を除く全員の好感度が80%以上の場合の逆ハーエンド、隠し攻略対象を含む全員の好感度が80%以上の場合の真逆ハーエンド、そして最後に誰ともいちゃつかないノーマルエンド!通常、特殊合わせて33種類!妄想が広がるエンドの多さが良いんだよ!」


 一気に喋ったせいで荒くなった息を整えていると、綾ちゃんが背中をさすってくれた。


「たくさん種類があるんだね。ヤンデレエンドは見たかったな。でも正直攻略対象達はあまり好きじゃないんだよねぇ。なんかゲームで『乙 綾』のいじめを告発するときのやり方がね······。例えば、藤崎先生なんか教師のくせしてプライバシーをガン無視してるでしょ」

「いやもう設定資料集読んだらそれどころじゃないよ!大嫌いになるよ!」


 興奮しながらいじめに関して設定資料集に載ってたことを細かく話すと、彼女は『ワァオ······』と呆れていた。


「それじゃあ、千尋はヒロインや攻略対象達が嫌いだから、『南 千尋』を選んだの?」


 何気ない質問。別に聞いたって全くおかしくない。だけど、私は固まってしまった。

 ──────理由を話して、嫌われたら?

 嫌だ。嫌われたくない。でも。でも。


 ······ちゃんと、伝えたい。


 綾ちゃんなら、幻滅しないでいてくれるかな。

 ちゃんと言おうと思っても、口をついて出てくるのは。時間を稼ぐだけの、意味を成さない言葉。


「理由を言うのは、照れちゃう?」


 綾ちゃんは心配してる、というよりもただただ優しく笑いながら聞いてくれる。きっとごめんねって言ったら彼女は話題を変えてくれるのだろう。私が気付かない程、自然に。

 でも、それでは。臆病な自分が、ますます嫌いになるだけだ。

 ちゃんと決意して、彼女に説明しようとする。

 どうしても怖じ気づいてしまうから、先に彼女に確認する。


「······綾ちゃん、どんな理由でも、嫌いにならない?」


 今日友達になったばかりなのに縋りつく私に、彼女は断言した。


「千尋が私に好意的である限り、私は絶対に嫌いにならない。ずっと、大事にし続ける」


 彼女のどこか狂気を感じる言葉に、何故か凄く安心した。

 大丈夫。彼女は、受け入れてくれる。

 そう信じて、彼女に全部打ち明けた。臆病だから、このキャラを選んだことも。伝えるのを、迷ってしまったことも。死んだのさえも、臆病だからだと。

 全て話し終わって彼女を見ると、彼女は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、千尋の臆病さに感謝しないとね?」

「え······?」

「だってさ、千尋が臆病だからこそだよ?私達が今友達でいるのは。まぁ千尋が特別臆病って訳じゃないと思うけどね?普通怖い人が目の前に現れたら動けないし。いじめられるのは、そういう趣味じゃないと、誰だって嫌なもんだし」

「綾、ちゃん。私が、臆病だからこそって······?」

「ふふ、だって千尋いわく臆病だから、『乙 綾』じゃなくて『南 千尋』を選んだんでしょ?もし千尋がヒロインちゃんを選んでいたら、私はヒロインちゃんと関わりたくなかったし、『乙 綾』を選んでいたら、私は別のモブキャラを選ぶだろうから、千尋はきっと私に話しかけなかった。······ね?千尋がこれまでの選択をしなければ、今みたいにはいられなかったかもよ?」


 あぁ、そっか。そういう考え方もできるんだ。


「皆が皆、マンガのように勇気を出せる訳じゃない。辛いのなら、開き直るのもいいと思うよ?臆病だから悪い訳じゃない。ただ、恥ずかしいことだと思い込んでるだけ。臆病なら、誰かを守ることは出来ないかもしれない。でも、勇気を出して誰かを守れば、代わりに自分を守ることが出来ないかもしれないんだ。だから私には臆病が悪だとはとても言えない」


 彼女の考え方は、一種の現実逃避なのかもしれない。

 だけど、そうだよね。無理に変わらなくていい。時々、小さな勇気を出せたのなら、それで。

 今までの選択を、否定する必要はない。




 この日私は、これまでの選択をしてきた、この臆病な心に。

 初めて、感謝した。

タイトル回収が雑になってきてる······(汗

そろそろ学校が始まるので、真の亀更新になります。御容赦を。

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