『友達』は、『友人』には。 前半 ~南 千尋視点~
時間がないせいで千尋ちゃんのストーリーが······二つに分かれてしまった······。
さっき、花咲さんが出て行った。今の玉入れが終わったら、次は彼女が出場する借り物競争だからだ。
当然、イベントが発生する。ヒロインが引いた紙には、最も好感度の高い攻略対象に関係する?ことが書かれていて、選択肢はない。好感度も上がらない。
紙に書いてあるものは一人一人違うから、紙を見ただけで誰の好感度が最も高いのか分かる。
桐生 尊なら『ワガママな人』、菊屋 聖なら『綺麗な人』、というように。
イベントの内容は、好感度が一定以上あるかないかで変わる。
一定以上あれば、男の子がヒロインに恋しかけている様子が、基準が足りなければ、ほのぼのとした様子が描かれる。
「誰だったとしても、足りてないんだろうな······」
朝に生徒会の待機場所を訪れたとき、ほとんどの人が花咲さんに対して、あまり良い顔をしなかった。綾ちゃんはいつも通りニコニコしてたけど。
あと、書記もそこまで不快そうな顔じゃなかった。攻略が上手くいってるというより······単に攻略出来てない?なんていうか、『興味ない』って感じだったし。
風紀は、どうなのかな。ゲームでは風紀は隠しキャラだったから、この体育祭イベントに関係なかったんだよね。
花咲さんが風紀と同じ園芸部に入ったって噂は、聞いたことがある。でも仲が良いって噂は聞かない。
「······『情報役』なんて、名前だけだよ······」
「そこのアナタァ!」
「!?」
「ご安心を!そのお悩み、このわたくしグァッ」
呟いた途端にドアが開いて人が入ってきたと思ったら、後ろから来た人にチョップされていた。
予想外の展開にぽかんと口を開けていると、もう一人知らない人が入った後、綾ちゃんも入ってくる。
「そーちゃん酷いわ、背後から奇襲やなんて」
聞き慣れないイントネーション。綾ちゃんがたまに零すのと、同じものだ。
綾ちゃんは前世でお父さんが再婚した時、新しいお母さんに標準語を使うように言われたらしい。
『関西弁使いまくってた父が、急に東京弁使い始めて、驚いたよ』と彼女は笑っていた。
「チカが馬鹿な事をしてるからだ」
「チカ、騒ぐのは構わないが、せめてドアを閉めてからにしてくれ」
「そもそも騒ぐこと自体があかんのとちゃう?」
「いやでもよお考えてみ?こっちが静かーにしてたら、それはそれで気持ち悪いやろ?」
「あ······えっと······」
「ああ、千尋、ごめん。こっちの三人が、君に紹介したかった、私の友人達だ。······空、悪いが、あとは任せてもいいかな?」
「構わねぇよ。でもお前、仕事はないはずだろ?」
「桐生会長んとこのまとめ役から、ヘルプコールが来たんだ。また花咲さんが荒らしてったみたいでさ」
「そうか。ま、行ってこい。終わったら連絡する」
「了解。······ごめんね。千尋、また後で」
出ていく直前に私に微笑んで、綾ちゃんはドアを閉めた。
それを確認して、先程『空』と呼ばれた人がこちらを見た。
「じゃあ、あたしから始めるな。高野 空、高1。『君に誓う~永遠の誓い~』の情報屋。ゲームと違って、あっちでは今、生徒会の副会長をやってる」
さっき出て行った綾ちゃんを含む4人の中で、一番背の高い女の人。男の人みたいな話し方。服装もオシャレとはいえない。『あ~気を遣ってないんだなぁ』って感じ。
赤みを帯びた茶髪は、綾ちゃんみたいに一つに束ねられている。目は二色にハッキリ別れてて、外側はオレンジ、内側は黄緑。
三白眼のせいか、ちょっと怖そうな印象を受ける。
「次こっち!こっちは黒川 壱夏!『ドキドキ!パラダイス!』のキャラ!あ、キャシーもそうやけど、あたしら三人とも高校一年生やで」
好きに呼んでな、と黒川さんは目を強く瞑って笑う。
高野さんほどではないものの、綾ちゃんよりは背が高く、テンションも高い。
それはいいんだけど······。
······性別が、分からない。名前でわかるかなって思ったけど、『いちか』は男の人でも、いけないことはない。
全体的にぶかめの服や、銀色に光るリングを複数個嵌めた手を見ると、男性的。
でも、腕とか肩幅とかは、男性と断言できるほどじゃない。
喉仏もあんまり出てないし······。でも、その、胸は······ぺったんこ。触ってないから、正確には分からないけど。
顔はイケメン。男女共に人気な、明るいタイプ。
量の多そうな黒髪。先の方が、外にはねてる。
髪よりややこげ茶に近い黒の瞳は、大きくて子供っぽさがある。
あと判断材料になるのは声だけど······。男の人にしては高く、女の人にしては低い、中性的?な声。綾ちゃんやみたいに、低いのになんとなく『女性』って分かる声でもなく、『分からない』としか説明しようのない、綾ちゃんとは違う意味で不思議な声。
「こういうカッコが好きやけど、こっちは立派な女の子やで。胸は元々まな板なんを、ナベシャツでさらにつぶしとる」
女の子なんだ。『ナベシャツ』が何かは分からないけど、多分胸を平らに見せるための何かなんだろう。
「次はウチやね。ウチの名前は、木住野 崇です。『惑う星々』の悪役で、既にゲーム期間は終わりました」
朗らかで可愛らしい彼女は、四人(綾ちゃんも含めて)の中でも、一番背が低い。私と同じぐらいかな。
黒川さんと一緒で関西弁だけど、黒川さんほど訛りはきつくない気がする。
目に優しい金髪で、肩につかないぐらいの長さ。目は青色。肌は『色白』って言葉が似合う。『真っ白』ってわけじゃない。
穏やかそう。
あとは、前世で『惑星』を遊んでる時も思ったけど、名前が完全に男の子なんだよね······。ゲームでもコンプレックスだったはず。
他の三人が『キャシー』って呼んでるのは、『たかし』の『かし』を、少し崩したのかな。
見た目が見た目だから、特に違和感はない。
「わ、私は、南 千尋です。『君を想う~咲き誇る想い~』の情報役で、一年生です。『ドキドキ!パラダイス!』以外はプレイしたことがあります」
「よろしくな」
「んじゃ、自己紹介も終わったところで、移動しましょか!ちーちゃん、仕事大丈夫ー?」
「え!?えっと、はい!」
「敬語なんて使わんでええよ~。こっちなんか遠慮なくニックネームつけとるしな」
「チカちゃんは······なおりそうにないね。まぁ、嫌なことあったら、ハッキリ言うてな。ウチらも、そうさせてもらうから」
「あ、うん!」
「行くぞ」
「地図持っとんの、そーちゃんだけやねんから急いでぇな」
「分かってる」
無表情に頷く高野さんに連れて行ってもらったのは、『風紀』と書かれた看板がさげられた部屋。
高野さんが念のためノックして、私の待機場所と同じスライド式のドアを、横に滑らせる······直前に出てきたのは、クラスの待機場所の方にいるはずの風紀委員長。
「あ、すみません」
「ああいや、気にしないでください。······あれ?」
学校外の人の前だからか、風紀は普段と違う言葉遣い。
ゲームではそれが普通なんだけど、こっちはそうじゃないから、ちょっとだけ妙な感じがした。
「ちょっと待って」
「?」
「······あー、思い出した!乙さんの『友人』!」
「覚えててくださったんですか。久しぶりです」
「久しぶり。一年ぶりくらいかな?乙さんから聞いてる。荷物を取りに来ただけだから、僕はもう入らないよ。ゆっくりしてって」
「はい」
「じゃあね」
そう言って私達の隣を通って行った風紀に軽く会釈し、中に入る。
風紀の人数より多い椅子は、おそらく綾ちゃんが頼んでくれたんだろう。
「······じゃ、まずはちーちゃんのお悩みに答えてからやね」
ニッと笑った黒川さんに、私は少し迷ってから、尋ねた。
前、綾ちゃんに尋ねて、結局答えが聞けなかったものを。
千尋ちゃんの苗字、久々に思い出した。
中間が終わったと思えば、すぐそばに忍び寄る期末の影。




