応援という名の
「乙、お前昨日何やってんだよ······」
「メールにも書いたじゃないか、乙女ゲームさ」
「そのメールが問題なんだ······」
いつも通り野見山くんと体育館に向かいながら、昨夜私が彼に送ったメールの話をする。
昨日私は乙ゲーのキャラに全力で萌えた後、その興奮を文字にして野見山くんに送った。結果、『落ち着け』との返信が来た。
なんだかんだで野見山くん、返信してくれるんだよなぁ。
「お前のメール、2chの言葉で溢れてたんだが。······一言で言うと、元々壊れかけてたイメージが、完全に崩壊した」
「幻滅ってやつかい?」
「嫌いになったワケじゃねぇから、幻滅とは違うな」
「それは嬉しいね。······ね、野見山くん。君、あれらの意味が分かったってことは······」
「······そういうこった」
「仲間だー!」
「言い返せねぇ······。ってかなんで俺にあんなメール送ってきたんだ?お前、他に送るやついないのか?」
「いや、いるよ。でもメール作るときに電話帳で君の名前を見ると、『おっしゃコイツ巻き添えにしたろ』って気分になるんだ」
「ひでぇなオイ!?」
「あはは、君はそれだけ気楽に接することの出来る相手、ということさ」
「······そうだな」
「認めたね」
「お前がそう言うんなら、事実なんだろ」
特に照れた様子もなく、野見山くんは真顔で言ってのける。しかも、当たり前かのように体育館の扉を開けてくれるという、紳士的行為付きでだ。
「こ······これぞ紳士······!」
「何がだ?ほら、中に入れよ」
「どうしよう野見山くんのジェントルマンっぷりに惚れそう」
「······早く入れ」
野見山くんに急かされ、笑いながら体育館に入る。
──────そこに広がるのは、衝撃的な光景だった。
「夏草くん達、今日は体育祭に向けてのダンスを練習するんでしょ?頑張って!」
「「「「日向くん、葵くん、頑張ってぇ~!」」」」
「······君達、授業は?俺らとは違う科目じゃないの?」
「私達、二人の応援に来たの!」
「そっか、帰ってくれた方が僕達は嬉しいな」
何故かココにいるのは、書道をとっているはずの花咲さんと、体育を選択していない事はたしかな女の子が十人ほど。
······しっかしまぁ、花咲さん、人を操んの得意だな。その術を生かす場は、いくらでもあるぞ。そこで生かしなさい。
「野見山く~ん」
「······なんだ」
「一緒に授業サボる?」
「そうするか。俺、良い場所知ってるぜ」
「おや、意外だね。ついていくよ」
「「綾ちゃん待ってえええええっ」」
「お呼びだな」
「みたいだね。······ああ、逃がさないから」
「俺一人で逃げねぇよ」
「キャーカッコイー」
「棒読みやめろ」
「あはは、まぁ入ろっか」
「おう。······あいつら、喚いてるけど、助けねぇの?」
野見山くんに後ろを指され、少し振り返る。私を罵るレディ達と、ひたすら私を呼ぶ夏草兄弟。
面倒だね。
「仕方ない。野見山くん、先に行ってておくれ」
「暴力沙汰になったら、俺のとこに走ってこい」
「······そうだね」
きっと、その必要はないけれど。
その心遣いは、非常に嬉しい。
「······お二方、君達は彼女らにどうしてほしいの?」
夏草兄弟のもとへ行き、彼らに尋ねる。
「女の子達には悪いけど、僕としては、こういう事はしないでほしい」
「俺らを応援とか言って、結局迷惑なだけだし」
「うん、迷惑なのはたしかだ。······えーと、夏草庶務、もしくは夏草会計のファンクラブの方々かな?そちらにも授業はあるだろう、どうなんだい?」
花咲さんに何を言われたかは知らないが、ただサボるだけではなく、他にも被害を出すというのは······いかがなものかな。
見たところ、全員私と同じ学年だ。なら、敬語を使わずとも問題はないな。
「······今すぐ、帰りなさい」
長々と説得はしない。脅しもしない。
ただ、普段より声に力を込めて、ほんの少し威圧しただけ。
······ほら、それだけで一人の女の子が『帰ろう』と言い出した。
「ちょっと、何、どういうこと!?」
「花咲さんも、帰ろーよ······。授業サボってんの、ホントだし」
「葵くん、喜んでないし」
「日向くんに嫌がられちゃった」
「でも、それは······!」
私が口を挟まずとも、勝手に女の子達は帰っていく。花咲さん一人が残ると目立つので軽く肩を押すと、彼女は忌々しげに私を睨んで去っていった。
「凄い······。催眠術?」
「嫌だなぁ、催眠術だなんて······。人聞きの悪い事を言うなよ、夏草庶務。私は彼女らに命令しただけでさ、他に何もしていない」
「命令しただけで、あんなに上手くいくもん?あいつら、俺らが帰れっつっても気にしなかったけど」
「上手くいくもん、だよ」
声が相手に与える影響は大きい、というのを昔どこかで読んだことがある。
実際、『声に惚れる』ことは多いのではないだろうか。惚れるまではいかずとも、イケボの方がガラガラ声よりマダム達に人気だったり、高く可愛らしい声だと、低く暗い声の持ち主より庇護欲が湧いたり。
まぁ生まれ持った声を変えるのは難しいけど······声の出し方でも充分印象は変わる。その程度ならば誰にでも可能だ。
それ以上を望む場合は、専用の書物を読み漁ってくれ、としか言えない。
「乙ー······先生、そろそろ授業始めていいかー······?」
「すみません、急いで座ります」
困り顔のゴッツイ男性教師に、苦笑いする。
あの女共、楽しいダンスの授業の時間を減らしやがって。いっぺん蹴っとばしてやろうか。
「······じゃあ、ペアを組んでくれ。別に野郎同士でも女同士でも構わない」
先生はそう言うと、私に心配と憐れみの入り混じった目を向けた。
どういう意味だろう。私がぼっちになると思っているのか。私には、野見山くんに頼み込むという必殺技があるんだぞ。
······それでも断られたら、先生に頼み込もうかな。
「おい、乙」
私の名前を呼ぶ野見山くんの声を聞き、こちら側も野見山くんに話しかけようと口を開く。······が、私は声を発することなく、にっこり笑顔のまま固まった。
「乙さん!俺と組んでくれませんか!」
「僕とペアになってほしいんだけど······」
「一緒にしない?俺、相手いないんだ」
ワァオ。いつの間に、私は人気者になってたんだい?ははっ、嬉しいよ。
······んな冗談は置いといて。
さて、どうしましょうかね。よっぽど男同士で組むのが嫌みたいで、わりと本気っぽい方もいらっしゃる。野見山くんに頼ってはダメだろう。
······どうしよう。
「あー······」
彼らの目的がはっきりと分からないから、効果的な断り方が浮かばない。
適当に茶化す?それとも先生の場所へ行く?
そうやって迷っていると、後ろから手を引かれて僅かによろめく。支えられた時の感覚で、野見山くんではないと判断した。
野見山くんは、もう少し背が高いからね。
「綾ちゃんは、僕と組もう?良いでしょ?」
「······ああ、是非」
楽しそうな日向に、少し引きつった笑みで答える。
レディからの理不尽な視線というものは、慣れてもやはり苦手だ。
野見山くんの方を見ると、彼はよく分からない顔をしている。何を思っているのか、読み取れない。······他人の感情に、私はとてつもなく疎い。感情を読み取る練習をする気もないけど。
あ、目があった。野見山くんは、シッシッと追い払う仕草をした。
どう返すべきか分からないまま、日向に手を引かれて体育館の隅へと向かう。
「助かった、ありがとう、夏草庶務」
「気にしないで」
······そういえば、葵はどうなのだろうか。日向はペアを組む際、毎回葵と組んでいたが。
疑問に思い、体育館に目を走らせる。葵は、野見山くんと一緒にいた。······野見山くんが、『俺は今度から夏草弟と組む』なんて言わなきゃいいけど。
もし彼がそんなこと言ったら、誰と組もう。中学の時からの知り合いあたりでも、当たってみようかな。
文化祭の準備が忙しいんじゃあ······。




