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私の家族

「じゃ、最初にちょっと確認を」


 一言断りを入れて、会長に返してもらった鞄から、猫のストラップのようなものを取り出す。赤い瞳のその白猫の首輪には、非常に分かりづらいスイッチがあった。


「······何だ、それは」

「友人が作ってくれた、『盗聴器および起動中の録音機・監視カメラ発見ニャンニャン』です」

「······どこからどこまでが名前だ?」

「『盗聴器』から『ニャンニャン』まで。名付け親は、この子を作った人です。この子は半径十何メートルか以内に盗聴器などを発見すると、目が光ります。ないと判断したら、しばらくの間、目を閉じます」

「便利だな······」


 たしかに便利だ。そこは反論しない。······でも、このスイッチ、小さいんだよなぁ。だから、押すときに力を入れづらい。結果、私の指がややへこむ。

 この点は、今度製作者()にも言ってみようかな。


「······目ぇ閉じましたね。問題なさそうです」

「誰が作ったんだ、それ」

「私の友人です。ほら、前の『ピリッとなマシーン』作った人」

「ピリッとな······。あ、あのゴキブリが出てくるやつ作った人か!」

「はい。厳密にいうと、作ったのはゴッキーが出てくる仕組みで、ゴッキーの外装を担当したのは別の子ですがね」

「······すげぇリアルだったぞ、あのゴキブリ。······仕組みを作ったやつも、外装を手掛けたやつも、どこでそんな技術を手に入れるんだ······」


 以前の生々しいゴッキーがよっぽど気持ち悪かったのか、会長は死んだ魚のような目をする。

 私の友人達は自分の趣味に突っ走り過ぎて、プロ以上の腕前だからなぁ。彼女達いわく、『金とやる気と趣味に対する熱があれば、たいてい出来る』とのこと。

 ある程度はセンスも必要だと思うがね。


「んじゃま、本題に入りましょうか。会長が私に家族構成聞いてきたのは、私が会長の家族の誰かに似てたから、でしたよね」

「ああ。······明確な目的があって、聞いたわけじゃない。ただな······」

「ん~、私は誰に似てたんですか?お父様?お母様?」

「······母だ。お前の笑い方が、母に似ていたんだ」

「笑い方?どの?」

「俺は、一回しか見たことがない笑い方。あの顔を見るまでの経緯はうろ覚えだが、あの顔だけはハッキリ覚えている」

「うわ······そんな妙な笑い方した記憶ないんですが······。どんな顔だったんですか」

「相手を蔑むような、そんな顔」

「ええーっ。いつのことだろ。最近、人を蔑むような出来事あったかなぁ」

「じゃあ、今、人を蔑んでみてくれよ」

「······今?」

「今。蔑みの度合いは任せるから」

「······構いませんが······笑わないでくださいよ」

「おう、確認のためだからな」


 蔑みの表情、ねぇ。嫌いな人を想像したらいいのか?それなら、適任がいる。

 あいつを想像すればいい。

 分かりやすくするために会長の方を向いたまま、軽蔑してみせる。

 うん、やっぱり最近は誰も蔑んでないな!


「どうでした~?」

「······別物だった。······お前、あんな顔出来たんだな」

「私だって、嫌いな人はいますから~。でも、会長はその時の私の顔を、『人を蔑む顔』として認識したんですよね。会長のお母様がそんな顔をした理由を知りたいですねぇ」

「!」

「言ったでしょう、家族関連の話を存分にしましょうと。ですから、遠慮なく聞いていきます。······どうしても話したくないのなら、仕方ないですが」

「······いや、話す。よくある話だ。さっき、俺に兄がいると説明しただろう。······俺の親は、あいつばかり可愛がるんだ」


 なるほど、つまり会長の御母堂が蔑んだ相手は、会長だということか。そんな不快な表情を、私がしているのを見て亡くなった御母堂を思い出したのかな。

 家族構成を聞いたのは······家庭環境を知りたかった、と言ってたね。


「理由らしい理由はあるんですか?」

「······おそらくないのだろう。俺の家は長男が継ぐ必要のあるものではないし、兄がなんらかの大きな病にかかったという事もない」

「理由もなく、ですか~」

「······兄弟がほとんどいなかったお前には分からないだろうがな、こういうのは結構キツいんだよ」


 おや?私には分からない、とな?

 何を言ってるのだ。分からないどころか。


「あはは、むしろ分かりますよ~」

「······そうなのか?」

「はい、体験してますから。理不尽なのも、理不尽じゃないのも」

「どういう意味だ?」

「単純に、私は両方味わってるってだけです。それぞれ違う意味で嫌ですよ」

「······ちょっと待て。お前に兄弟が出来たのは、一回だけだよな?」


 うん、今世だけではね。前世も含めると、二回ですよ~。

 この関係を素直に説明したら、ます間違いなく彼に信じてもらえない。だが、嘘を吐くのは面倒だ。


「う~ん、一回だけ、というのは嘘ではない。どう説明すればいいんでしょうかね」

「そのまま説明すればいいじゃないか」

「そうですねぇ。ん~、会長、すみません。私はこの複雑な関係を説明する言葉を、持っていないのです」

「持っていない?」

「はい、あまりにも複雑すぎて」


 前世のことを話せば、簡単なのだがね。そうはいかない。

 誰かに口止めされてはないが、前世のこと関係のない人にそうそう話せる内容ではないのだ。

 『えへへー、私、実は転生したんですー☆』『なんだってー?前世の話を聞かせてくれよアニー』『良いわよ、ボブ』『『あははははー☆』』

 ······なんて展開になるわけねぇだろうがっ!

 というわけだ。


「なので経緯を説明するわけにはいかないので、結果だけ話しますとね。私には家族が四つありました。家族がわりとコロコロ変わったんです。勿論、毎回全員が変わるわけじゃないですよ。で、その内の二番目と四番目の家族の時に、私には姉妹がいたんです」

「······たしかに複雑だな」


 あ、とりあえず納得してくれたっぽい。これ以上深く掘り下げることは出来ないから、ありがたいな。


「二番目の時は姉が、四番目の時は妹がいました。それぞれの時の両親は、姉もしくは妹だけを非常に愛していました。特に四番目の方は、あれはもはや家族というよりただ同居してる感覚でした。私を引き取ってくれた時、あちらさんが『綾ちゃん、私達のことを本当の家族だと思ってね』と言ってたので、ちょっと期待してたんですが······。やっぱり養子でもない他人の子どもですから、ああいうもんなのでしょう」

「期待って、どんなことを?」

「食事代とか鉛筆代とか、必要なお金はくれるのかな、と思ってました。実に甘い考えです。今思えばこれこそ恥ずかしい。住む場所を用意してくれただけで、ありがたいというのに」

「は······?金を貰えなかったんならお前、食事とかどうしてたんだ······?」

「その時既に小遣い稼ぎ始めてましたので、それで稼いだものを使ってましたよ」

「小遣い稼ぎ······?」

「ネット上で頼まれた小物を作るんです。お金さえくれれば材料もこちらで用意する、客が指定することも出来る······ってのを、三番目の時の母親に勧められ、小二の時に始めました」


 引き受けるのは、主にアクセサリーや木製の家具等の作成、物にもよるが家具の修理を行うこともある。

 始めて一年ぐらいは依頼があまり来なかったが、二年目あたりから月に五千円近く稼げるようになった。あらかじめ決めてある『小遣い稼ぎタイム』のうちに終わらせるのが難しくなってからは、時間的に引き受けられない依頼も増えてきている。


「従妹の家に引き取られた時、すでに贅沢をしなければ問題ないくらいのお金はあったんですよ」

「そうか······」

「はい。話を戻しますけど、四番目の家族の時、妹はそりゃあもうご両親に可愛がられておりやした。目に入れても痛くないどころか、目にぶっ刺しても痛くないってぐらいに」

「よっぽど、愛されてたんだな······」

「はい、お前ら新婚さんかよと突っ込みたくなるほど。そんなのを見てたら、私もあんな風に可愛がって欲しいなぁと思ってしまいました。······自分と血の繋がった子どもじゃなくても、愛される例を知っていたので」

「······それが、二番目の方か?」

「正解です。二番目の家族は、私の実の父親と、父の再婚相手である義母、その娘の義姉で構成されていました。······ああ、そうですね。より頭が混乱するかもしれませんが······。私が持った四つの家族は、一番目と二番目、三番目と四番目の二つに大きく分けられます。その二つのグループでは、基盤となる人物や、時間軸が全く違うものです。なので、別々の二つの物語として認識した方が良いですね」

「お前は、どうして二つの人生を知っているんだ?」

「······貴方がその答えを知ることはないでしょう。知る価値のないものです。だから、ただ漠然と認識しておいてください。『そういうものなのだ』と」

「······分かった」

「ありがとうございます。······さっきも言った通り、二番目の家族の父は、私の実父です。彼は再婚する前から、私に愛情というものを与えない人でした。おそらく、私を嫌っていたのでしょう。無関心な相手に、進んで暴力を振るうとは思えませんから。その時は『父は子どもが嫌いなんだろうな』と、自分に言い聞かせて願望を誤魔化していたのですが······。なんということでしょう。父は再婚した途端、自分の実の子の目の前で、再婚相手の連れ子を甘やかし始めたではありませんか」

「キッツい光景だな」

「キツいどころか。私もうプッツンしましたよ。さすがに、父の幸せを堂々と壊しては怒られますから、父が吐きそうなほどデレデレになって義姉を習い事へ送り出した後、彼が一人の時を見計らって聞きました。『なんであの人には優しいん?』って。恥ずかしいけど、そんぐらい義姉が羨ましかったんです」

「今のセリフは、お前が言ったセリフを再現したのか?」

「そうですよ。そんで勇気を出して彼に聞いたら、『あの子はお前みたいな役に立たないクズじゃないから』って言われたんです。彼の言ったことが事実だっただけに、反論は出来なくて。それが、『理不尽じゃない』パターンです」

「お前、何言ってんだよ。充分理不尽じゃねぇか。お前はクズじゃないし、役立たずでもない!」

「私は屑ですよ。自覚はあります。謙遜でもなんでもなく、『人間の屑』ですから」


 真顔で言い切れば、会長も信じてくれたようだ。

 ここで下手に『あ~謙遜してるんだなぁ』とか思われて、のちにエグい行動を取った時に幻滅されるのは腹が立つからね。ちゃんと誤解は解いておかねば。


「それに、今は多少なら役に立てますが、あの頃は何も出来ないThe・役立たずでしたから」


 勉強も出来ない、運動も出来ない、人とコミュニケーションもとれない。今でも相変わらずダメなものばかりだが、少なくともテストで満点は取れるようになったし、運動だって、それなりに出来るようにはなった。コミュニケーションの方は······お察しください。


「自分が義姉みたいに可愛がってもらえないワケが、理にかなっていて······。自分が悪いから、誰かに喚くことも出来なくて。それでいて、努力する気になれなかったから、『もうしゃあないわ』って思ったんです。その日以降、義姉を羨まなかったわけではないけど、三人がいちゃついてるのを見ても無表情のままスルーして部屋に向かうようになりましたね」


 元々、私は努力家ではない。楽しいことしか、気が向いたことしか、やりたくない。面倒な事は、嫌い。だから、姉を越えようと努力したことはなかった。

 けど、自分の気が向くままに生きていると、いつの間にか色々なことが出来るようになったんだっけ。

 ······そう、そうだ、思い出した。以前、副会長に温室で問われた、『トルコ語を学んだ理由』。

 いつも学校から帰ると、父や母、姉が笑い合ってるのを見るのがくだらなくて、部屋で一人だけで出来ることを探していた。そしたらある日、何か外国語のものを和訳しようかな、なんて思い立った。それで、図書館にあったトルコ語の本に目をつけたんだ。

 幸運なことに、私は部屋を丸々一つ与えられていた。しかも、鍵付きの部屋。

 その部屋でドアも窓も閉めて、完全な密室で音楽をイヤホンで聞きながら和訳していく。それはひどく心地良いものだった。


「で、次は四番目。これは私があの人達の実の子でないという事を除けば、理不尽なまでの差別。二番目の時と違って、私は従妹よりも成績は良かったし、ある程度のことは出来た。······それでも私に目が向けられることはない。あの人達は何で私に『本当の家族だと思ってね』と言ったのだ、と呆れる毎日でした」

「理にかなったものを体験したあとの、理不尽の感想は?」

「能力あろうがあるまいが、私はこういう運命だったんだなぁと思いましたよ。今度は理不尽の次に理不尽じゃないのをやってみたいです。ああでも、私がやっちゃあ実験になりませんね。もうすでに悟っちゃいましたから」

「お前のその探究心、尊敬するわ」

「あはは、実験は楽しいですよ。何をするべきかが明確ですから。······家族のことも結構話しましたし、会長は、知りたい事ありませんか?」

「お前の方は?」

「そうですね、会長のご家族に対しての思いを聞きたいです。会長は、どう思っていますか?」

「······他言無用、だよな?」

「当然です。私だって、他にバラされては面倒な話をいっぱいしてますから」

「なら、繕わず言おう。俺は、父も母も兄も、皆嫌いだ。お前の話を聞いても、この感情が消えることはない。特に、母の······例の顔は、いまだに思い出すのも嫌だ」

「良いんじゃないんですか?別に、私は親を嫌ってはいけない、なんて思いませんし」


 そんな綺麗ごと、()()言わない。

 これは、ヒロインちゃんのセリフだからね。


「乙は?」

「え?」

「乙はどうなんだ?」

「······何番目の家族に対して?」

「出来れば、すべて」

「······一番目の母は、普通に好きでした。一・二番目の父は、嫌いです。二番目の母も、同じく。三番目の父母は······」


 三番目の父母。『乙 綾』の、実の両親。

 唯一、私に親としての愛を注いでくれた人達。


「······好きでも嫌いでもありませんでした。四番目の父母は、今のところ嫌いではないです」


 唯一私に親としての愛を注いでくれた人達で、突如私に怯え始めた人達。

 何が理由だったのかは······分からない。


「三番目の親御さんも、好きじゃないのか?」

「嫌いでもないですよ~。会長の聞きたいことは、それだけですか?」

「······ああ」

「聞いて、不快になりましたか?」

「······いや。お前の価値観を少し知れて、むしろ安心したかもな。······俺が、親を嫌いでも構わないんだって」


 へえ。私のこの『自分を産んでくれた親に感謝しないスタイル』は、不快に思う人も多いが······。けして綺麗とはいえないこの考えを、彼が認めるとは。

 今までのイベントの傾向や先程の会長の発言からして、会長のこの親に対しての感情は、否定するのがシナリオ的には正解なのだろう。

 だが、彼は私のクズい言動によって、自身の感情を肯定した。······これは面白いことになりそうだ。


「······!」


 どうやら、私が意識して行動せずとも、シナリオは着々と変化していくようだ。

 ふふ、花咲さんは苦労しそうだねぇ。


「······違うな」

「?何が?」

「笑い方」

「あれ、私、例の笑い方してました?······どんな笑い方だろ······」

「いや、例のものとは違う。前に俺が勘違いしただけで······さっきのお前の笑い方は、俺の母のとは別だった」

「そうなんですか?」

「おう。······目がな、全然違ったんだ。······楽しそうな目ぇしてた」

「ふーん······?ま、私の顔見て御母堂思い出さずに済みそうで、良かったじゃないですか」

「ああ」


 自分の表情というのは、細かいことまでは分からないからな。結局どんな顔だったのかは謎だが······。

 会長が良いなら、それで良いか。

予定では最低でも四章までいきます。

今のところ誰が人気なのかな······(´・ω・`)

私は乙ちゃんがダントツ一位。この作品は乙ちゃんが最愛のキャラである方が楽しめると思います。

男性陣では椿先輩、諒くん、野見山くん(イヤリングとかピアスとか付ける子大好き)あたり。

そもそもキャラに魅力がないと言われるのが怖くて、聞けないでいる。

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