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つまらない玩具

「······しないわよ······出来るわけないじゃない······」


 俯いて、ポロポロと涙をこぼすヒロイン。いじめすぎたかな。

 でも、こんなんで折れる子は、どうせいつか私の邪魔によって折れる。


「······つまんね」


 しかし、予想外に早く壊れてしまった。一年間もたなかったな。


「でもま、手加減したところで面白くないし」


 こんなものまだ軽い。

 ここで下手に手加減して後々壊してしまったら、期待していた分、そちらの方がつまらないだろう。

 でもあまりにも早すぎたから興醒めだ。

 去年は最後までもったのにな。こんな風にいじめなかったからかなー?


「つまんないって、どういうことよ······!面白くないって······!アンタ、私をなんだと思ってるの!?」

「何だと思ってるんだろうね?ふふ、君はなんだと思ってほしいの?」

「なっ······!」

「悪いね、やる気をなくした今の君は、私からすればただの『愛しい子達を傷付けた輩』でしかないんだ」

「あれは······」

「うん、あれは私も悪かったよ。君がああする可能性に気付いたうえで放って置いたのだから」


 いかにも怒っていませんよ、というように優しく笑い、彼女に近付く。

 彼女が動かず期待に満ちた目でこちらを見上げてくるのをほほえましく思いながら、しゃがみこんで彼女と目線の高さを合わせる。

 母親のように手を包み込むなりなんなりしようかとも思ったが、さすがにそれはやめておく。気持ち悪すぎるからね。

 私はこれを愛でるつもりはないのだ。


「······それに映像を彼らに見せることは、いつでも出来るのだから」


 私の言葉に、彼女はまさに絶望しかない、といった表情になる。

 それを眺めていると、血が額から頬を伝うのを感じた。

 まだ傷は乾かないか······。前髪に覆われて、乾きにくいからかな?

 もう会話を終わらせて、手洗い場へ行こう。傷を洗わなければ。

 そう判断して入り口へ向かうと、花咲さんに呼び止められた。


「やめてよ、見せないでっ!」

「誰に?何を?」

「誰かに、その映像を!」

「······君、交渉するつもり?」

「だって考えてみなさいよ!アンタは楽しみたいんでしょ!?シナリオを!」

「間違ってはないね」

「そうでしょう!?その映像を誰か、特に攻略対象に見せたら、シナリオはズレるどころじゃない!崩壊するわ!私が彼らを攻略出来なくちゃ、面白くないわよ!?」

「あのねぇ」

「それに、交渉相手は私よ!?『花咲 心』!パパは社長とかじゃないけど、すごいお金持ちなのよ!?」


 そうだったね。そんな裏設定もあった。

 おそらく彼女は、『交渉に応じたらお金をプレゼントしてあ・げ・る☆』といいたいのだろうが、ねぇ?

 私には無意味なんだよ、そんなもの。


「だからっ」

「ちょっと黙りなよ」

「まだ足りない!?ちゃんと考えて!ほら、私と交渉できるのよ!?それだけで充分名誉な事だわ!ね!?だから」

「いい加減黙りたまえよヒロインちゃん」


 カンッ。


 前に彼女を黙らせた時のように、物を彼女の目の横を通るように投げて壁に当てる。今回は前髪を留めていた割と大きいヘアピンだ。彼女の顔に傷をつけないようにちゃんとコントロールしている。

 前回と違い彼女の顔すれすれに投げている。前回は適当に投げたからここまで精密ではなかった。

 私はお世辞にも器用とは言えない。だから狙いを定めたり投げる角度を調整したりするのは苦手だ。

 だがな、適当にやらなければ、狙ったとこに物を当てるぐらいは出来んこともないのだ。

 現に花咲さんは以前よりも近くを通ったヘアピンを見て唖然としている。


「ヒロインちゃん、勘違いしないでほしいんだけどね?私が欲しいのは『攻略成功』という結果じゃなくて、その過程なのよ」

「そっそれでもっそんなの流されたら、私はっシナリオはっ!ダメになるわ!」

「つまり?」

「過程すら楽しめなくなるわよ!?」


 上手いこと言ったわナイス私、みたいな晴れやかな顔してるとこ悪いがね。

 興味湧かないんだよ、今の君が彼らを攻略していく過程に。


「もう楽しむ気もないよ」

「······え、何で?だってアンタ、楽しみたいって······」

「うん、前の君なら楽しめそうだった。でも今の君じゃ、ダメなんだ」

「そんな······」


 自分のために世界は存在する。

 シナリオ通りにすれば、絶対皆攻略出来る。

 そう思い込み続ける君は好きだった。周りに気を遣わず、自分の望みのためだけに行動するから。

 だけど、君は周りを見ちゃった。現実を見ちゃったんだ。

 これから君は、例の映像を流されないためにも、私が楽しめるか気遣いながら行動するだろう。

 それは、嫌なんだよ。


「次は何だっけ?ああ、そうだ、君のお父さまが大量の金を持っている、だったね。君は『交渉に応じたらお金をあげる』と言いたかったんだと思うけど、私はお金に困ってないんだよ」

「嘘!?『乙 綾』の家がお金持ちなんて設定資料集にはなかった!むしろ『乙 綾』は一人暮らしがしたくてお金を求めていたはず!」

「······私が前に寝起きしていた家の主は、確かに金持ちではなかった。だが、金に困るほどでもなかった。そして、私は既に一人暮らしをしている。金だって、充分に稼いだ」

「充分に稼いだ!?一生分稼いだわけ!?」


 馬鹿にしたように鼻で笑うヒロイン。

 ······充分に稼いだって言ってんのに。


「そうだよ」

「······は?」

「定期的に給料をもらえる仕事ではないけど、一回当たりの報酬が多いから」


 そこまで切り詰めた生活をしなくても、生きていける。

 だから、いらない。交渉にも、応じない。ロクな利益がないもの。

 彼女の方も私に言いたいことはもうないようだ、と判断して今度こそ扉の鍵を開ける。


「······ごめんなさい······」


 か細く絞り出されたのであろう声。背後の小さな音声を聞き取り、振り返る。

 彼女は、私に聞こえていたとは思っていないのだろう。彼女の目は虚ろだ。

 誰かが走っている足音を聞きながら、彼女の表情を見続ける。

 扉が開く音と共に、ヒロインの体が横に傾き、床へ倒れた。気を失ったらしい。

 私は開かれた扉の方を見た。

 ──────もっと、楽しませてほしかったなぁ。

次話での進展はまったくありません。

この話の、別視点。

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