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割られた仮面と、彼女に与える分岐点

今回、分岐点!

 目が覚めると、額の鋭い痛みと顔を伝う液体の存在に気付く。

 無理に起こされたためか、頭がぼーっとする。

 眠い。でも、今はダメだ。ダメって、感じる。

 回らない頭で何とか考えて、焦点を合わせる。


「······はなさき、さん」

「あ、あ、アンタが、アンタが悪いのよ!」

「······何が?」


 『アンタが悪い』?

 突然言われた言葉によって、ハッと覚醒する。

 彼女の言葉が本当かどうか確認するためにも、状況を理解しようと目だけを動かしてあたりを見渡す。

 目の前の女が持つのは、ハサミ。彼女の足元に大きな破片と、いくつかの細かな欠片が落ちている。

 そこで、視界に赤が映る。

 ──────ああ、血だったのね。

 鮮やかなそれが手に滴って指を伝う光景は懐かしく、思わず顔が綻ぶのが分かる。

 その手を洗うことはせず、まだ赤く汚れていない左手で仮面に触れると、カランとやけに大きな音をたてて床に落ちる。つい先程まで左右対称に刻まれていたはずの模様は、左半分を失っていた。

 それを見て状況を理解する。

 まず、放課後になって私は生徒会室に来た。その時まだ誰も来てなかったから、私は自分の席ですぐに眠った。後から他の人が来るから、と扉に鍵は掛けずに。

 そこに、校則を守るつもりはさらさらない花咲さんがやってきた。おそらくカメラを盗りに来たのだろう。

 時計を見る限り私が寝て五分も経っていない。よっぽど早く来たんだな。

 そっから彼女の脳内で何があったのかは分からないが、とにかく彼女が今持っているハサミで私の仮面を割ったらしい。

 その拍子に紐が切れたのだろう。

 そして私が起きた······と。

 ······まぁつまりは。


「私悪くないじゃん。明らかに君が悪いじゃん。私被害者」

「さっ避けないアンタが悪いでしょ!」

「いや避けられないから。寝てて攻撃避けたらア●ビリーバボーに出演できるから」

「知らないわよそんなの!」


 何!?ア●ビリーバボーを知らないだと!?あれは実に面白い番組だ。見ることを強くお勧めする。


「それより早くカメラをよこしなさいっ」

「やだ。そもそも持ってないし」

「はあ!?じゃあどこにあんのよっ!?」

「言わない。アレも壊されちゃ困るんだ」


 ん~、他の人達来ないなぁ······。

 今度は全員ファンクラブに捕まったのか?


「花咲さ~ん、他の人達知らない?」

「攻略対象のこと?助けてもらおうったって無駄よ?今頃皆ファンクラブに囲まれてんじゃない?」

「お、じゃあ当分あの人達は来ないんだね?」

「ええそうよ、短くても三十分は足止めしてくれるわ」


 勝ち誇ったように言う花咲さん。

 三十分彼らがファンに捕まっているということは、その間何をしても彼らにバレることはないってこと。

 イコールこの世界について堂々と話しても『何あの頭やばい子、救急車呼ばなくちゃ』的な視線を向けられる心配がないということ!やったー!

 花咲さんがにやにやしながら鍵をかけたのを見届けると、一気に彼女との距離を詰めてハサミを強奪し、自分の席に戻る。

 ······おっと、血を拭くのを忘れていた。

 ハサミによる傷だから、おそらく傷口自体は小さいのだろう。だが深さはどうなのだろう。それなりに痛みを感じるから、かすり傷、というわけではなさそうだ。

 早く洗わなければならないが······。花咲さんとも話したいしなぁ。

 どうせ、傷は絶対残らない。意外とこの体は強い、というか。免疫力やら何やらが高いのだ。

 腕にあまり筋肉がつかないせいで非力だがな。重いものが持てないのが残念だ。

 鍛えようとはしたのだよ?前は持てたものが持てなくなって衝撃を受けたからな。

 だがな、ダメだったのだ。ダメダメだったのだ。前世の体がどれほど素晴らしいものだったかを改めて実感させられた。そりゃ今の体に比べれば不便なところもあったけどね。

 この体は免疫力が高いからか、傷が化膿することはほとんどないし病気の治りが前よりずっと早い。それに比べて前の体は、生活習慣が悪かったためだろう。一度風邪を引こうものなら四日は熱が出っぱなしだ。

 総合的に考えてどちらの体の方が良いのだろうか。

 ······考えても仕方ないね。ってかニヤついてる花咲さんうぜぇ。


「あの人達がしばらくここに来ないなら、ちょっとお話ししましょうか。······君、他人のものを壊すだなんてどういうつもりだったのかな?」

「え、壊し······?」

「ははっ、ちゃんとわかってるでしょ?自分の意志で割ったのだから」


 左手で割れた仮面を示せば、花咲さんは徐々に目を見開いていく。

 だが、謝罪の言葉を口に出しはしない。

 誤られたところでこれから話す内容に変わりはないから、構わないけどね。


「花咲さん、安心して?弁償なんて求めないから。それはお祭りやネットで買えるようなものではないし。······さあ、座って?」


傷がじくじくと痛む。意外と深かったっぽい。このハサミ、刃が細長いからなぁ。これでこんなに刃こぼれしてなかったら、カッコいいんだけどな。

 ん~、血が止まらん。何でだろ?とりあえず拭っておく。······うわ、ローブに血ぃついちゃってる。これ、半年かけて作ったのになぁ。今年は作れそうにない。作るなら、来年、かな。

 それに、花咲さんに攻撃された弾みでか、髪がくしゃっとなってしまった。地味に気持ち悪い。

 髪をくくり直すか。ほどきながらでも話は出来るしな。十分もあれば良いだろう。


「どうしてよっ······!」

「うん?」

「どうして!?この世界は、私のために作られているのに······!」

「ストーップ。落ち着いて。とにかく座れ?」


 若干声を低くして命r······頼むと、彼女は向かいの席に腰を下ろした。

 さて、急いで話しましょ?


「花咲さん、君は何でこの世界は自分のために作られたと思ったの?」

「······『君想』のヒロインは、私だもの」

「そっか。ねぇ、君は前に『世界は私のために存在している』って言ってたよね?あれも、君がヒロインだから?」

「当たり前じゃない」

「へぇ。ならさぁ、ヒロインがたくさんいたら······どうなるんだろうね?」

「そんなわけないわ。ここは『君想』の世界。『君想』にヒロインは一人だもの。アンタ、何言ってんの?」

「理解できなくていいよ。説明したって、君は信じないから」

「はあ?」

「それよかさぁ」


 髪をほどきおわり、手櫛で梳いて一つに纏める。

 テディ(私を転生させた、自称『神に近い存在』)はここを『君想』の世界と言っていたが、それは大げさな気がする。

 だって、ここは『君想』の世界というには、『君想ゲーム』の影響が少なすぎるのだ。

 そりゃ『君想』の設定は非常に現実に近い。でも、そういうことじゃないんだ。

 地名や歴史はともかく、芸人やら番組、歌なども全て一緒。

 もはや一種の平行世界かと思うレベル。

 ただ、あの世界に乙ゲーのものを追加しただけ、という感じなのだ。

 前と、同じ世界。

 嬉しいけれど、深くまで知るのが怖い世界。

 前と、同じなのならば。

 前の私は?私の知る人達は?

 答えは単純で、複雑だった。

 『存在しない』

 言葉だけなら、単純。でも、それによる様々な問題を考えれば、複雑。

 ······厳密に言うならば、完全に『存在しない』のではない。

 たとえば、前の私のクラスメイトの父親Aという人物がいたとする。

 Aという人物自体はこの世界にもいる。だが、歩んだ人生が違う。結婚しても子供がいなかったり、若くして亡くなっていたり。

 どこかで辻褄が合っているのだ。

 人だけでなく、私が通っていた学校なども存在しない。

 そこまで調べて、私は調べるのをやめた。

 同じことを、調べても意味のないことを調べるのが、嫌になった。

 それ以来私はそのことについて調べていない。

 知りたかったことの答えは、得られないと分かったから。

 ······うんまあそんなことよりも。


「あのね?君、私の愛しい子達を傷付けただろう?」

「······温室のこと?」

「そう。温室の植物達のこと。君は知らなかったのだろうけれど、君が枯らした子達の中には、藤崎先生に渡さないといけない子もいたんだ」

「うそ······」

「嘘ではないよ。後、藤崎先生はやったのが君だと知ってる。彼の攻略が不可能になったとは思わないけど、少なくとも攻略がやや困難になったんじゃない?」

「あ······」

「それに、この前の菊屋副会長の半強制出会いイベント。アレ、私が邪魔しなくても絶対失敗してたよね。夏草庶務から話を聞いた限り、夏草兄弟のも上手くいかなかったようだし。残りの三人は知らないけど、君の様子を見るにシナリオ通りではないみたいだね。これから君からガツガツ動かないと、話すことさえままならないんじゃないのかな?」

「で、でも、私から話しかければ!」

「勿論!シナリオとかなり違う展開になるだろうが、高速で彼らをオトせば、君の望む逆ハーエンドも夢じゃない!」


 私の言葉に希望を見出したような表情をする花咲さん。

 私が邪魔しないとは言ってないのにね。

 逆ハー、それも一人の女のために他の人々を虐げる、はたから見れば愚かとしか言いようのないものは、当事者には申し訳ないが、観客からすればとても面白いものだ。

 ただし、ちゃんと最後に虐げた側に何らかの苦痛を与えることを前提としてだがな。

 これは去年体験(人から聞いただけだが)したし、来年も体験(人から聞くry)する予定だ。

 だから私のターンでは必死に全員を『攻略』しようとするヒロインの邪魔をする。

 それでも全員攻略したならそれでいいし、できなくても当然構わない。

 去年は見事に想像通りだった。

 障害もほとんどなくすんなり逆ハー(愚かver.)が作られていく様は、予想通りの展開過ぎて心配になるほど。

 特に余計な邪魔をせず待機してるのは、映画を見ている感覚だったらしい。あぁ、退屈という意味ではない。難しいことを考えずに眺められて楽しい、という意味だ。

 今年は傍観もするが行動も起こす。

 先程も言ったが、今回は花咲さんが逆ハー(愚ry)を作り上げようとそれに失敗しようと、別にどちらでも構わない。

 私は時折彼女の望みの邪魔をして、ズレゆく展開を楽しむだけだ。

 今年はまだそこまで激しい邪魔はしていないが、もしやろうと思ったら迷わず法も犯すし人として最低だと言われる行為もする。

 こちらは正義の味方ではない。

 実際、去年、私の友人(例の話を私に教えてくれた人だ)は純粋(笑)な人が聞いたら罵るようなことをした。

 いや、ような、ではないな。人に罵られていた。

 まぁ、蔑まれても、罪と言われても。それでも、自分がそうしようと思ったなら。喜んで最低なことをする。

 それが()()のやり方だ。


「ところで、花咲さん」

「何?」


 彼女はまるで私に縋るかのような、悪意の感じられない眼差しでこちら見る。

 ······それじゃあ、ダメだなぁ。

 彼女には、私を忌み嫌ってもらわなければ。

 ······あ、私マゾじゃないよ?私は中間。一般ピーポー。


「私は君の邪魔をするんだけどね?」

「······え?」

「嫌がらせなら私自身にしてほしいんだ。それこそ、今回みたいに。私の愛しい子達には、手を出さないでくれ」

「え?え?」

「後、これはちゃんと確認しておきたいんだけどね」


 戸惑う花咲さんを安心させるように柔らかく笑いかけて、静かに席をたつ。

 すると、それに合わせて花咲さんも立ち上がった。条件反射で立ってしまったらしい。

 私が彼女に近付いてゆけば、彼女は一歩ずつ後ずさりしていく。

 この状況がなんとなく愉快でその場で微笑んでいると、彼女は何故か座り込んでしまった。


「君はさ、本当に彼らを皆攻略出来ると思ってるの?」

「そんな······アンタ、さっき夢じゃないって」

「うん、言ったよ?もっと正確に言うならば、君から話しかけて、かつ彼らが君を『花咲 心』として認識すれば、だけどね」

「?どういう事?」

「あくまでも可能性、なんだけどね。君が彼らに話しかけても、ファンの一人としてしか認識されないかもしれない。彼らの記憶にほとんど残らないのなら、攻略なんてできっこない。そうでなくとも、藤崎先生や菊屋副会長は君が私に何をしたのか知っているから、記憶に残ったとしてもあまり好意的なものではないんじゃないかなー?」

「······」

「私の邪魔も入るしね」


 こぼれ落ちそうなほどに大きく目を見開く彼女に、ポケットから取り出した小さなチップを見せる。

 潰さないように気をつけないとね。


「これね、君の温室での行動を撮ったカメラから取り出したやつ」

「······!」

「もう言わなくてもわかるよね?」


 充分に理解した様子の花咲さんを見て、チップをポケットにしまう。


「花咲さん」


 さて、質問です。


「君は、全員を攻略することが出来るでしょーか?······いや、君は、彼らを攻略しますか?」

次以降の四話ぐらいストーリーの都合上、短くなります。

回収出来るかわからないフラグのせいで、話がかなりわかりづらくなってしまいました。すいません。

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