8話
B組に入ると中平大輝がテーブルを合わせて待機していた。直也を見て目を丸くするが、とりあえず座れよと席につかされる。
そのまま授業の話などをしていると、教室の扉が開き、黒髪の優男が入ってきた。とても顔が整っており、一目で「綾瀬良太」だと直感する。
「もう、大河ってばいきなり電話されたらーってんん゛っ」
その綾瀬だが、直也を見た瞬間喉を詰まらせた。目を丸くしてやや後ずさる。どこまで警戒しているのか。
「……何でここに?」
「二度手間を省くため。分かってると思うけど、橘君だよ」
「知ってます!今年は編入生一人でしたし!」
まじまじと直也を見た綾瀬は、空いた席に座ってビニール袋を机に投げ出した。
「綾瀬良太です。B組。で、このおにぎりは?」
「買ってくれてありがとう。橘直也だ」
「君のですか……まあ混みますからねぇ」
はいと渡され食べ始める。中平兄弟も食べ始める。どうやら四人で食べているらしい。いつ切り出すのかと夜明を見ていると、夜明はにっこりと笑った。
「でさ、橘君、俺の家に住むことになったから」
三人が動きを止める。いきなり放り込んだな、と直也はこめかみを抑えた。
「「「はぁ!?」」」
声も揃うだろう。ちょ、と中平大輝が机を叩く。
「何でだ!?」
「空野先生から頼まれたってことでひとつ。
橘くんの一人暮らししてる場所が、小宮上条の家のそば……って言えば分かるかな」
「あー…………」
綾瀬が唸った。
「治安、ですね……」
「でも、それで何で誠の家に泊まることになったのよ?」
「部屋が余ってるから。
ま、自炊するんだってね?それなら手伝ってもらえるしいいかなーと」
「まあ、あんたら二人に異論がないんなら構わないけど……」
中平大河は不承不承といった表情である。中平大輝は顔に「解せぬ」と書いてある。何やら不満げでもある。綾瀬は肩を竦めた。
「僕も大河に同意ですが……上条には言いました?」
「…………………………」
「はい目をそらさない」
すっ、と綾瀬から目を逸らした夜明に手刀が入る。悶絶する夜明をよそに綾瀬は難しい表情だ。
「過保護上条に話を通しておかないと、橘君が彰の家に近寄っただけで叩き斬られますよ……」
「どんだけ過保護なんだ」
堪らず突っ込んだ。
「そりゃあ……なんと言いますか。超過保護です。年上かと思いたくなるレベルで。後で話すなり何なりしておいた方がいいですよ」
「はーい…………」
口を尖らせた夜明は諦めて弁当に手をつけた。
「弁当は自分で?」
「うん。その方が食費安く済むし」
「それもそうだな」
「橘君は?夕飯とか余ったりしないの?」
「コンビニで買っているが」
何故か四人に白い目で見られた。
大輝が口を尖らせおにぎりにかぶりつきながら、質問を投げかけてくる。
「つか、何で一人暮らしなんだ?
編入ってのも…親がこっちに転勤になったとか、そういう理由じゃねぇかと思ってた」
「む…片親になってな。学費が払えなくなったから、安いところに転校してくれと頼まれた。調べたところ、この学校なら成績上位を取れば優遇されるようだったからな」
「…あー、悪い。嫌なこと聞いたな」
「別に。慣れている」
肩を竦めて、コンビニのおにぎりに手を伸ばした。
「だから、安い賃貸アパートを借りて一人暮らしに踏み切ったんだが…まさか先生から反対されるとは思ってもみなかった」
「空野先生、優しいからね。試験で点数悪いと鬼になるけど」
「そうか」
少し気になるな、と内心想像しながらも頷いた。
「わかめが美味い」