7話
昼休み。
直也はこの学園に来てからは食堂で昼食を食べている。
学園で成績上位に入ると、特待生というのか食堂や購買、果ては学費などでも優遇してもらえるのだ。直也はありがたいことに編入試験で優遇してもらえる点数だったらしく、恩恵にどっぷり浸かって食堂を利用している。
今日もいつものように食堂に向かおうと席を立ったが、それを呼び止める声があった。
「橘君」
ちょい、と手招きするのは夜明である。
「……どうした?」
「あー、誰かと食べる約束とかしてる?」
「全く」
「ゴメン、一緒にいてくれないかな」
手を合わせて拝む態勢に入った夜明に事情を説明させると。
どうやら夜明はいつもB組で幼馴染と昼ご飯を食べているらしい。そして今日もその予定だが、直也が夜明の家に居候することになったのでそれを話すと、確実に会わせろと言ってくるのは目に見えている。だから最初から同席してほしい……ということらしい。
「俺は予定もないし構わないが……ご飯を購買で買ってきても構わないか?」
「ありがとう、購買なら……」
その後何かを言おうとした夜明だが、後ろからかけられた声に遮られた。
「なかなか来ないと思ったら」
振り返ると、茶髪の女子が立っている。あっさりと佇む彼女は、直也を見て、夜明を見た。
「編入生君も一緒に食べるの?」
「うん。ただ、購買で何か買わないと……」
「あ、おっけーおっけー。編入生君、おにぎりとパンどっちがいい?あと何個食べたい?種類は?」
いきなり尋ねられ、やや憮然としながら答える。
「どちらでも……強いていうならおにぎりか。二個、わかめがあると嬉しい」
「はいはーい」
彼女はさくさくと電話をかけ始めた。
「もしもし良太?おにぎり、わかめ味二個も買ってきて」
『えっ?』
「頼むわよ」
それだけ言ってあっさり切った彼女にやや呆然としていると、夜明は苦笑するように真白を小突いた。
「紹介するよ。中平大河。俺の幼馴染み」
「そ。よろしくね、編入生君」
「……橘直也だ。電話の相手も幼馴染みか?」
「話が早くて何より。綾瀬良太よ、あいつ時々購買だから」
「しかし、金がかかるのでは……」
綾瀬に申し訳ないと思い直也がそう続けると、中平大河と夜明はやや固まり直也を凝視した。
「どうした?」
「……あー、いや。うん」
「何て言えばいいのかしら……とりあえず教室移動しましょ。良太が来るまでに話せるし」
何を話すのだろうか。不思議に思いながらも教室を出ると、まずと中平大河は口を開いた。
「成績上位者の特待生優遇は知ってるわよね?」
「ああ。俺もそれで昼食は食堂や購買を利用している」
「うん。でさ、その編入って内部も受けてるんだよね」
夜明が苦笑しながら話を続けた。
「……そうなのか?」
「まぁ学力確認ってやつよね。外と中の共通基準にもなるし。
成績下位者は空野先生のキツーいスパルタ補習が入ってるんだけど、それはさておき」
割と気になる話だが、流されたので大人しく話を聞く体制に入る。中平大河は肩を竦めた。
B組の教室に入る前に立ち止まる。
「で、編入生と内部生合わせた順位で上位五名が学費半額、食堂購買無料とかいうスーパー恩恵を受けられるんだけど……橘君、自分が何位か知らされてない感じかしら?」
「ああ。特待生恩恵は受けているから五名には入っているとは思うが」
「おっけーおっけー、認識が合ってて何よりだわ。
あなた一位よ」
直也はいきなり告げられて、「そ、そうか」しか返せなかった。中平大河も予想していたらしくそのまま話を続ける。
「で、二位が良太ってわけ」
「……つまり、綾瀬も恩恵を受けているからタダで買えるし心配しなくていい、ということか?」
「あーうん、それで合ってるわよ。ただ……」
言葉を濁した中平大河の代わりにか、夜明がさらりと告げた。
「良太ってさ、中等部では万年一位だったんだよね。で、高等部入ってすぐに一位をかっさらって行った橘君に対抗心を燃やしてる」
自分の知らないところで、顔も知らない人物に対抗心を燃やされていたらしい。困惑するが、ふと夜明の話を思い出した。
「……綾瀬はモデルも、やっていると言っていたな?」
「あら、知ってたの?」
「俺が教えた」
「なるほど。そうよー」
「それで二位なら凄いと思うが」
そう話すと、中平大河と夜明は顔を見合わせて溜め息をついた。
「それで満足してたら、ねぇ……」
「本当に……」
満足していないらしい。なかなか気の強い人物かもしれないと直也はやや苦笑した。




